2010クラウン決勝レポート

クラウン特設ページ

今回の決勝を前に、「RMUクラウン」の話題について、
何人かの選手と話をする機会があった。
それを選手紹介として使わせていただきます。

平山友厚

「まあ、普通に考えれば平山さんだよね」

元々、実力・実績兼ね備えた打ち手であるのだが、
今年度に入って平均順位率が2.0を切るという驚異的な安定度を誇っており、
昨年度獲得した年間平均順位率のタイトルを連覇しそうな勢いである。
オープンリーグ決勝で2度対戦して2度負けた経験を持つ筆者から見て、
「どういう展開になっても勝負所は外さない」印象がある。
豊富な経験に裏打ちされた部分は他の三者にないもので、
死角は一番少ないと思われる。

野村祐三

「野村さんの勝ち方は強かったよね」

筆者が最初にゆっくり話をしたのは、
マーキュリーカップの立会人と選手という間柄の時で、
その時は「次点で残念でしたね」という内容の会話だったのだが、
その次のヴィーナスカップではベスト16に残り、そこで筆者と同卓。
その後はアースカップでの決勝進出に加えオープンリーグでの好成績、
他の競技大会等でも本戦進出を果たすなど、波に乗っている選手の1人である。
今大会でも危ないところがありながらも決勝まで駒を進め、
勝ち上がりを決めた後最後まで観戦していた平山が、
「要注意」としていた人物である。

白石温郎

「白石君も最近調子いいからね」

昇級が絶望的な所から親のツモり四暗刻とラス親の6,000オールで昇級を決めた、
という彼が書いたブログを読まれた方も多いでしょう。

今大会でも予選を1位通過すると、そのままの勢いで決勝まで駆け上がった。
過去3回のうち2回、山谷、渡辺という若い世代の選手が栄冠を得てきた今大会。
彼らよりさらに若い白石が続けるか。

鈴木悟

「鈴木さんのことはよく分からないのだけど…」

筆者に面識が無いので人柄は分からないし、
麻雀についても今大会で同卓せずに終わったので、
打っているのを見たのはベスト8の観戦時だけ。
しかも主に観戦したのが最終戦の条件下だったので、
普段がどんな麻雀なのかは全く不明。
ただ、基本的にアウェイな中での対局なので、
人見知りである筆者からすればそれだけでも大変だろうなと思う。

定刻となり、立会人・多井の合図で対局開始。

■1回戦 起家から平山、鈴木、野村、白石

最初のテンパイは6巡目の白石。

 ドラ

を切って即リーに行く。
シャンポン待ちならは野村がすぐに切っていて、
自身でもツモっていたが、
リーチした時点でが2枚にはなんと全部山。
野村にが1枚流れた以外は姿を見せなかったが、
終盤ようやく高目のをツモって満貫。
どちらでもアガっていたことになるが、
一番高くアガれたことで手ごたえはあったか。

その後はアガリが発生しても2,000点以下という小場で進んでいくが、
南場に入って野村が満貫を鈴木からアガると、
そこから細かく稼いで4万点以上のトップ目に。
オーラス、最初のアガリ以来収入の無い2着目の白石が8巡目に、

 ツモ ドラ

切りで即リー。
親権主張のリーチといったところだが、これに向かっていったのが、
下家でドラ3枚使いの平山。
リーチ後の白石のを鳴いた次巡、

「ツモ、2,000-4,000」

  ツモ ドラ

トップまでは届かなかったが、2着浮上の価値あるアガリ。
逆に白石の立場からすれば、
3着に落とされた上に自身のアガリ牌を食い下げられた上に、
その牌でアガられたことが如実に分かる状況。
これが今後に影響しなければいいが。

(1回戦)野村+23.0、平山+12.3、白石△7.3、鈴木△28.0

■2回戦 起家から平山、鈴木、白石、野村

東1局、北家の野村は3巡目イーシャンテンだったがそこから動かず、
9巡目に悩ましい形に。

 ツモ ドラ

とはいえ、最高目の四暗刻に必要なは重なる前に2枚切られ、
も序盤に1枚ずつ切られている。
単なるトイトイでは大した点数にならないため、
ツモ切ってドラ受けとイーペーコー目を残す選択もあると思うが、
野村の選択は四暗刻とイーペーコーを残す切り。

ところが、これに平山がチー。
のメンツがさらされ、四暗刻の目が消える。
次巡、野村はドラを引かされ、切り。
ツモ筋が変わってのものとはいえ、嫌な感じしかしないだろうと思った次の瞬間、

  ロン ドラ

鈴木がツモ切ったで平山が5,800をアガる。

その次局、同じく平山が、

 ツモ ドラ

ドラ引きを見て残したが重なり、を切って即リーしたことに驚いていると、
一発でをツモってさらに驚きの6,100オール。

続く2本場、と鳴いた次巡に少考してを手出しのチンイツテンパイに、
白石がテンパイ打牌でを切って12,600と、あっという間にダントツに。

その後、小刻みに白石が取り返すのだが、
その中にはダマならアガれていたかもしれないチートイツドラタンキ待ちを、
リーチによって1人テンパイで終わらせてしまったものもあり、効果は今ひとつ。

東4局、親の野村の4巡目。

 ツモ ドラ

ここでソウズのペンチャンを嫌っていれば、と引いて、

 一発ツモ ドラ

いうアガリがあったが、をツモ切ったことで、

 ドラ

こんなノベタンリーチに。
は直前に平山が切っているが、
これがアンコからの1枚外しで山には残っておらず、残るは2枚だけ。
しかし、3巡後にをツモるとが裏ドラになって6,000オール。

これで完全に平山と野村の一騎打ちかと思ったのだが、
ここから野村が落とし穴にはまる。
南1局、白石のリーチと平山のソウズ仕掛けに挟まれ、

 ツモ ドラ

三色目もあって目いっぱいに構えていた所へのリーチ。
現物はしかないが、これはソウズが高い平山に切りづらいと思ったのだろうか、
平山が序盤に2枚切っているで、白石に一発で満貫放銃。

 ロン ドラ 裏

南2局は、白石のドラ2枚使いリーチに対し、

 ドラ

とスジを2枚切った後、

 ツモ ドラ

アタリ牌を引かされる。
この時点で、河にが2枚が2枚が1枚見えており、
の壁ということもあってかを押す。
次巡、白石が切ったを鳴いてで放銃となる。

この時点でドラは1枚も見えてなく、
ピンズの高い白石にピンズ以外で通っていないスジはくらいしかない上、
仕掛けて仮に通っても高目2,000点。
ツモでリーチ宣言牌での放銃なら、
通った時に打点があるからまだ勝負する価値はあったと思うが、
鳴いて高目2,000点での勝負はどうだったか。

さらに南3局、野村は、

 ツモ ドラ

ここからをトイツ落としてソウズに寄せた所、

チー ポン 

と2フーロしてマンズが1枚も切られていない平山と、
リーチ宣言牌の以外マンズか切られていない白石の親リーに挟まれ、
一発目のツモが
とりあえず1巡は安全牌を切ってしのいだが、その次巡にテンパイ。

 ツモ ドラ

まさに「テンパイしてしまった」という感じなのだが…。
場にはが1枚切れ、が2枚切れ。
さすがにこのは勝負しないと思ったが、

 ロン ドラ 裏

勝負して白石に12,000放銃となってしまう。
どこかで我慢が出来ていればと思わずにはいられなかった一方、
平山は無駄な失点をすることなく、頭一つ抜け出すことに成功。

(2回戦)平山+38.5、白石+17.5、野村△21.3、鈴木△35.0

(小計) 平山+50.8、白石+10.5、野村+1.7、鈴木△63.0

■3回戦 起家から平山、野村、白石、鈴木

ここまで全くと言っていいほど出番のなかった鈴木が、
野村、白石から満貫をアガって、やっと局面をリードするが、
これはほぼ無傷の平山にとっても悪くない展開。

しかしラス前、平山が、

 ドラ

このイーシャンテンからドラを切ると、
下家でを仕掛けている親の野村に鳴かれてしまう。
実はこの時点で野村の手牌7枚はバラバラだったのだが、
平山としては対応せざるを得ない。
そうして手を崩している間に、
白石がを鳴いてソウズのホンイツをテンパイするが、
こちらもドラポンを警戒して1牌押し切れなかったことでアガリを逃がし、
結局野村との2人テンパイ。

そしてオーラス、点棒状況はこの通り。

(親)鈴木41,400、平山29,600、野村26,700、白石22,300

自身の着順を上げるか、
最悪でも野村と平山の着順を入れ替えたいであろう北家白石、
10巡目にリーチをかける。

(白石の河)

見るからに変則的で不気味な河である。
すると同巡、南家平山が追いかける。

(平山の河)

この2軒リーチに挟まれた西家野村。

 ドラ

ここから少考に入る…。
そして3枚見えのを数えてか魅入られたように場に2枚切れのを切ってしまい、

 ロン ドラ 裏

あくまで逆転トップを狙って作った白石の倍満に一発で放銃してしまう。
実はこの時、平山の手は、

 ドラ

で、ツモって一発か裏条件でトップという形だった。
仮に平山が、トータルポイント的にここは2着で十分とダマテンにしていたら、
野村はと打てるからしばらく放銃はなく、
その間に平山のアガリで決着がついていた可能性が高かったと思われる。
その場合、3回戦終了時のトータルスコアは、

平山+60弱、野村△5~△10、白石△10~△15、鈴木△35~△40

となり、ワンサイドで決着が付いていた可能性まである。
ところが、平山のリーチが白石の倍満を誘発した結果、
野村は大きく沈んだものの平山自身も白石にマクられて3着に落ちてしまい、
白石に約20p差にまで迫られることになってしまう。
俗に言う「紛れた」状況であり、
これが今後の展開を左右するのかどうか、非常に気になった。

(3回戦)鈴木+26.4、白石+14.3、平山△6.4、野村△34.3

(小計) 平山+44.4、白石+24.8、野村△32.6、鈴木△36.6

■4回戦 起家から平山、白石、野村、鈴木

東1局、平山がピンフのみで即リーをかけるが、
1回もツモれないばかりか、を仕掛けていた野村が、

  ツモ ドラ

平山の雀頭であるをツモ。
カンチャン待ち、しかもドラアンコで満貫の親カブリ。

次局、平山が鈴木のリーチを受けて現物となったを切ると、
これを白石にカンチャンで鳴かれ、次巡、

 チー ツモ ドラ

高目の2,000オールをツモられる。
鈴木のリーチは満貫あったので必ずしも最悪の結果とは言えないのだが、
いい感触はしないだろう。

その後も平山はテンパイすらせず、東場を終わった時点で20,300持ちのラス目。
このまま終わると白石がトップ目に立ち、
この半荘トップ目の野村にもチャンスが生まれることになる。

南場に入り、親番の平山がリーチ。
ドラタンキのチートイツで1人テンパイだが、
ダマテンにして次巡引いた単騎にするなどしていればアガリ目はいくつかあった。
百戦錬磨の平山といえども、この6,000オールで決めたいと思ったのだろうか。

1本場、平山の8巡目。

 ツモ ドラ

ドラを切ってイーシャンテンに構えると、
2巡後にをツモって切り、
リャンメン2つのタンピンのイーシャンテンに変化させる。
しかし、ここから一向にテンパイせずツモ切りを続け、
14巡目に上家の鈴木が切ったもスルーする。
その上家の鈴木の16巡目。

 ツモ ドラ

前巡に引いたが切れず、2巡前に切ったをツモ切ると、
今度は平山が鳴き、テンパイを入れさせてしまって連チャンを許してしまう。
確かに、2巡前から手は変化していないからアタられることはないし、
鳴かれないと思ったのかもしれないが、
自身残りツモ1回では良くてテンパイまで。
が切れないと思ったのなら、ここはより慎重に現物のを抜いてほしかった。
そうすれば平山はテンパイせず、この後は全く違った展開になっていたに違いない。

1人テンパイで、「続いてしまった」感のある平山の親番。
この平山の親番が勝負所だと思って見ていたのは筆者だけではなかったようで、
会場にいた阿部、多井、藤中らのライセンスプロ、
さらには平山自身もそう思いながら打っていた模様。

2本場、平山の10巡目。

 ツモ ドラ

ドラ切りリーチもアガリ牌は山にいず、流局。
しかしこれで、3局連続1人テンパイ。
リーチが2回空振りしているとはいえ、
気がつけば微差ながら2番手にまで浮上している。

そして3本場、鈴木の3巡目。

 ツモ ドラ

2巡目までにと並べているのだが、
このをツモ切った結果、7巡目にを重ね、次巡、

 ドラ

このテンパイでリーチをかけた。
もし仮に3巡目にを切っていれば、
字牌を2枚ツモ切った後の6巡目にツモっていたを雀頭にして、
ピンフドラ1のテンパイとなっていたところ。
これに対して、平山が一発目にを手出し。
直後の白石は、

 ツモ ドラ

何気なくツモ切ったように見えた鈴木の現物の、それが、

「ロン!12,000は12,900」

 ロン ドラ

一段高い発声とともに、平山の手が倒される。
今回の勝負が事実上決した瞬間と言っていいと思う。
確かに鈴木のリーチは8巡目、河には字牌以外は以外切れていないため、
平山の切ったの強さがぼやけていたのかもしれないが、一応無スジは無スジ。
白石に他に切る牌がなかったのならともかく、
まだリャンシャンテンの上、2枚切れののトイツがあった。
ここで仮に、上記のように鈴木がを雀頭にしてリーチしていたら、
は現物でなくなるので、白石は出さなかったという見方も出来る。

多井は対局後、

「あの時の平山さんには早い巡目から気配が出ていた」

と述べていたけど、それが分からないにしろ(筆者も気配までは分からなかった)、
展開的に1,500であっても、
マッチレースの相手である親の平山にだけはアガらせたくない場面のはずで、
が鈴木の現物であっても、
慎重にを切って無スジを切った平山の様子を見るくらいのことはしてほしかった。
ちなみに、白石がを切らないと、
鈴木の待ちは山にが2枚、平山の待ちは山にが2枚と互角であった。

これでトップ目に立った平山を、この後野村がなんとか差し返すのだが、
平山が僅差の2着で白石がラスでは、大勢は決したと言っていいレベル。

(4回戦)野村+23.3、平山+10.4、鈴木△8.7、白石△25.0

(小計) 平山+54.8、白石△0.2、野村△9.3、鈴木△45.3

■5回戦 起家から鈴木、野村、白石、平山

トータル2着目の白石ですらトップラスで25,000点差が必要。
しかも、図ったかのようなトータル下位者からの座順。
東3局、白石の5巡目リーチに、
先にテンパイしていた平山がツモ切りで放銃するが、高目でやっと5,800。
その前の東2局で満貫をツモアガっている平山に大ダメージを与えるには至らない。

その後も最終戦ということもあってか局数はかかったが、
平山は親の現物牌で2度のチートイツのアガリを決めるなど、
的確な打牌選択で1つずつ局を潰していく。

そしてオーラス、この1局でツモって逆転できるのは白石の役満だけで、
野村は役満直撃条件、鈴木は役満を直撃しても僅かに届かない。
16巡目に少しでも全体着順をあげるべく野村がタンピン形でリーチをかけるが、
18巡切り終えた平山が静かに牌を伏せ、対局が終了した。

(5回戦)鈴木+23.0、白石+8.6、平山△2.1、野村△30.5、供託1

(結果) 平山+52.7、白石+8.4、鈴木△22.3、野村△39.8、供託1

■対局後のコメント

4位:野村祐三

温い手順があった。もう一度修行して出直します。
勝負手が入った時にことごとく相手のリーチのアタリ牌を掴んだのが…。

3位:鈴木悟

運営等の皆さん、お疲れさまでした。
出だしのラスラスが最後まで響いた。
自分なりに頑張ったつもりだったけどまだ足りなかった。
また来年、頑張りたいと思います。

2位:白石温郎
来年、また一から出直します。準優勝も予選落ちも変わりないので…。

優勝:平山友厚
運営の皆さん、お疲れさまでした。
麻雀は、敗因はあっても勝因はないもので、
勝てたということは自分が一番、ミスが少なかったのかなと思う。
これから行われるオープンリーグやスプリントファイナルでも上位にいるので、
どちらかは決勝に残って、S級やA級の強い人にまた麻雀を教えて頂きたいです。

いつもと同じ、謙虚なコメントである。
この人の麻雀に対する真摯さが伝わってくるようだ。
平山の麻雀のベースになっている経験は、
自身で打った経験もさることながら(以前の決勝での経験が
今回生きたとおっしゃっていた)、
観戦や講義など、実戦以外によるものも少なくないそうで、
打ち上げなどで同席した際にも、

「自分ほど色々な所で決勝戦を見てきた人はいない」

という話を何度もうかがっている。
平山に限らず、上位ライセンスの方々をはじめとする自分より強い人との差は、
一朝一夕で埋まるものではない。

ただ、平山はそれを埋めるための方法の一つを示してくれているのではないか。
講義(ファクトリーなど)に参加したり、
自分より上だと思う人の対局や自身が負けた大会の決勝を観戦したり、
対局後に質問をしたりするなど、
自分で麻雀を打つ以外にも上達するための方法は色々ある。
人それぞれ制約があるから出来ないこともあるだろうし、
身につくかどうかはその人次第だと思うが、
上を目指すのであれば、
そういったものも自身に取り入れていく必要があるのではと改めて思った。

(文中敬称略 文責・宮田信弥)