2012サターンカップ優勝はS級阿部孝則プロ! |
初めて赤牌を製造したのは大阪のミズノ丸一という会社で、1964年に開催された東京オリンピックを機に製造したものだという。 当時、麻雀牌1セットにつき500円の税金(トランプ類税)を取られた。これを136枚で割ると、1枚が3円67銭ということになる。予備の白牌と、ゲームに使用しない花牌は税金の対象ではなかったが、赤牌はゲームに使うための牌。それを2枚入れると、税金が7円35銭ほど高くなる。そこで大阪の税務署に、これまで通り、総額500円(結果的に1枚あたり3円62銭となる)のままにしてほしいと頼みに行ったというエピソードがあるそうだ。 なんとなく赤牌について検索していたら、その発祥に辿り付いた。それでも赤牌の誕生には諸説あるらしく、赤牌に限らず麻雀牌についての様々な話を読むことができた。赤牌を考案し誕生させたもっとも大きな理由としては、射幸心を煽る事や、よりギャンブル性を高めるためであったという。その是非は置いておくとして、それが現在までの麻雀人口を爆発的に増やした要因の一つであることは論を待たない。 2012年現在、フリー雀荘の9割以上の店舗で赤牌が採用されていて、インターネット麻雀でも赤アリが主流になりつつある。さらに赤入り麻雀における戦術論なども発表され、もはや一般的なルールと言ってしまっても良いほど、赤牌は浸透している。競技麻雀の世界でも赤アリの大会がいくつか開催されている。 前置きが長くなってしまったが、12月9日、2012年度スプリントカップ「サターンカップ」も、赤牌を採用した「RMU公式Cルール」で行われる大会である。 このスプリントカップ、一日限りのスプリント戦という側面と年度末に行われる「スプリントファイナル」へのトライアルという二つの顔を持っている。今大会を含め残り3つとなった「スプリントファイナル」への切符を争う戦いと、純粋にサターンカップでの優勝を目指す戦い。どちらも本懐であり、その二つの意志の混在が、観戦していてまた楽しいものだ。 たとえば、決勝まで残ったけれど、オーラスに優勝条件が残っていない場合、普通の大会であれば静観潔しとなりそうなものだが、一つでも順位をあげることによって「スプリントファイナル」へのポイントが加算されるので、目指すべき条件がそうそう無くならないのである。 そういったシステムも含め、年度の初めから、何度も参加していただきたい大会でもある。 今回のサターンカップは参加者68名と盛況で、前回行われたジュピターカップを制した、横山海渡さんも在籍する慶應大学麻雀研究会のメンバーや、インターネット麻雀を主戦場にする方々、友好団体のプロなど様々な方が参加してくれていた。 冒頭に赤牌について記したが、赤牌全盛期の今、武器にするべきとされるのはスピードである。最速のテンパイでリーチを打つ、仕掛けていける手組みをする、打点はドラや赤で補う、赤やドラが来なければ他者のチャンス手を潰すことになる。 十数年と赤アリの麻雀を打ってきた筆者は今でもこういった打法が水に合わず、のろのろと手役を追ったり、2枚目の役牌をスルーしたりしてしまう。 もちろん何が正しいのかはわからないし、きっと一人一人の麻雀観があり、その全てがその人にとっては正しいのだと思う。ただ、その時代に合った打ち方ははからずとも主流になるものだ。 迷彩然り、魅せる麻雀然り、デジタル然り。 麻雀にも時代性というものが確かにある。 そう感じたのは予選を観戦していて、個人的に観て遠いなと感じる仕掛けや愚形リーチを、数多く目にした気がしたからに他ならない。仕掛けて主導権を握る。最速のテンパイを組み、リーチを打つ。それが、普段はネット麻雀をメインに打つ方や大学の麻雀研究会に所属している若い方、それ以外にもネットを介在した麻雀コミュニティーなどに参加されているたちが多く参加してくれたことと、このルールへの研鑚が相まってそうなったのなら素晴らしいことである。 準決勝は混戦を極めた。 トップを取った者さえも決勝進出が別卓の結果待ちという状況になり、最後の最後まで、決勝に残る4人がわからず、集計作業に追われ、戦前のインタビューさえままならないほどだった。 その準決勝、接戦の末トップに届かず。次点に泣いた仲川翔B級ライセンスだったが、彼を慕い、彼を介して出場してくれた参加者が両手では足りないほどいた事は是非付記しておきたかった。 タイトル戦に参加して、結果を残す。それ以外にも「麻雀プロ」として、やらなくてはいけないことがあることを教わった。大会開始後に訪れた観戦希望者の何人かも、彼の後ろで真剣な目で観戦していた。勝負服?のワインレッドのシャツのご加護も決勝の椅子までは届かなかったが、その背中はきっとまだ若い彼らになにかを伝えただろう。 6位は麻将連合の下出和洋プロ。彼とは週に一、二度顔を合わせ、麻雀をしたり、麻雀の話をしたりする。温和な性格で、年下の筆者に対しても優しく接してくれる。第3期最高位戦クラシックを制すなど、麻雀の実力は折り紙つき。彼は先に記したトライアルシステムに苦しみ、その結果、決勝進出を逃した。 準決勝オーラス、アガればトップになり、またファイナル進出をほぼ当確とするベスト8になるタンピン三色ドラ1をテンパイする。点差的にオリるのは一人だけという状況。マンガンをハネマンにしたところで、別卓待ちは変わらない。下出はダマテンを選択し8000をアガりトップになる。しかし結果はああ無情。集計の結果約3届かずの敗退となった。胸中は察するには余りあるけれど、その悔しさはこちらもファイナル進出がほぼ確定している仲川と共に、2013年3月16日、17日に行われる「スプリントファイナル」で晴らして欲しいと思う。 激戦の末、この2人を抑え決勝の椅子を勝ち取ったのが以下の4名。決勝は準決勝までのポイントを半分にして繰り越される。表記されているのは半分にしたポイントである。 牧野卓人 +96.1 「ん?」と首を傾げたくなるような仕掛けから、筆者などが想像にも及ばない最終形を作ってしまう。前回のジュピターカップからの連続決勝進出や第18期マスターズを制するなど、その強さは確かなものである。 白田みお +67.6 大島拓也 +61.5 阿部孝則 +57.8 場所決め、親決めが終わり、並びは起家から大島、牧野、阿部、田中の順となり、それぞれ条件を確認し、サターンカップ決勝が始まった。 東1局 ドラ 入り目がで、リーチ宣言牌はトイツ落とした2枚目の。最近のRMUのレポートや観戦記でもよく取り上げているのを目にする、☆△理論(イーシャンテンになった次巡にすぐテンパイすることで、アガリ率が高いとされる理論)のテンパイで、3メンチャンが残る形。そして先手。迷わずにリーチといける、1回勝負の東1局にこれ以上の手はそう望めない。 牧野、田中がイーシャンテンと追随するが、田中がをつかみ、3900のアガリとなった。田中はさして気にする風もなく、小さく「はい」と言って点棒を払う。牧野、大島もアガリ形と自身の手牌を確認する。このルールでの3900は決して高いとは言えず、アガった阿部も、放銃した田中もこれからだと思っていたに違いない。 このアガリと結果に因果があるかはわからない。オカルト派もデジタル派も関係ないと結論付けそうだ。それくらい、手なりの進行で出来上がった、ありふれた手牌だ。けれど、もしこのアガリを阿部以外の3者が封殺出来ていれば、残り5枚のアガリ牌を阿部がツモることがなければ、果たしてどのような結末があったのだろうと考えてしまう。 阿部はこの3900を皮切りに、東3局3本場まで実に5局連続でアガることになる。 東2局、が4枚見えていたが、あっさりツモって700,1300。 ドラ ツモ東3局、大島がピンフのみの先制リーチが入ったのが5巡目。 ドラ現物待ちではなかったが阿部はダマテンに構え、リーチに勝負していた牧野から2000をアガる。 ドラ ロンこれで3局連続のアガリ。このままではまずい。おそらく3人とも思ったであろう。ここで待ったをかけにいったのが牧野。3巡目に以下の牌姿に。 ドラここからをチー。これはおそらく予選からも入れていた仕掛けだと思う。「普通の仕掛け」をしていたんじゃ阿部の親は落ちない。牧野がそう思ったかどうかはわからないが、8巡目に牧野がチーと発声した牌に意図と意思が見え隠れした。 チー ドラ上家からのをチー。観戦中は表情を出さないよう心がけているが、思わず二度見してしまうような強烈な仕掛けであった。この鳴きでドラの、を連続で食い取り、あっさりテンパイ。牧野マジック真骨頂である。 チー チー ドラアガリがないまま数巡経過し、11巡目に親の阿部からリーチが入る。この難しいタイミングで牧野がツモった牌が。が阿部の現物で、宣言牌が。危険度は雲泥の差で、もちろん牧野も打を選択するが、同巡に阿部がドラのをツモ切り。形だけみれば、アガリ逃しの格好となった。 牧野はまだ我が道を往く。これをポンして打としてマンガンのテンパイ。この戦い方こそが彼の方法論であり麻雀観なのである。決勝の舞台であることを含め決して真似できないし、確固たるオリジナリティーを感じた。しかし皮肉にもこれが敗着となってしまった。 ドラ ツモこの2600オールで阿部の持ち点は40000点を越えた。 次局、 ポン ポン ドラ ツモこの4000オールをツモって、東場にして勝負は決した。 牧野は仕掛けを駆使して、大島は高打点のリーチをかける、田中はたくさんのギャラリーを背にして、1打1打を丁寧に選び、なんとか阿部を追いかけようとするものの、この展開から崩れる阿部を筆者は知らない。 対局後のコメントで、阿部は「ツイてたね、危ないところもなかったくらい」と笑いながら言ったが、たしかに展開は向き、牌勢の良さに助けられたところもあるだろう。けれど、「ツイてた」では看過してはいけない局面はあった。 例えば、南場の親番で8巡目の手牌。 ドラ場には4枚切れで上家が打とした局面。 おそらくほとんどの人が仕掛けるのではないか。それが上に記したような、現代におけるセオリーであるし、鳴かないことをヌルいと見る向きさえあるだろうと容易に想像できる。対局後、ライセンス選手達からも鳴くべきではないかという意見が出たほどだ。 もうひとつ。 例えば、オーラスアガリトップという局面。 この牌姿で、上家が打。上の牌姿ほどではないにしろ、これもおそらく仕掛けるという人が多いのではないか? が鳴けなくても、の保険がある。ポンの片アガリさえ、アガリトップという場面では厭わないだろう。 阿部はこの2つともを仕掛けなかった。前者はメンゼンでリーチを打って4000オール、後者は丁寧にから仕掛け、最終形は場況に合わせたカン待ちだった。それをアガリきり、サターンカップ優勝を決めた。 スピード全盛期の昨今、ただそれだけを偏重することに筆者は疑問を感じていた。 感じてはいたが、その潮流の中で、「数字は?」「確率は?」「根拠は?」「結果は?」 並べられる問いに明確に答えることが出来ないもどかしさも同時に抱えていた。 今大会の結果が、そのまま答えになるなんてことはないけれど、結局のところ麻雀の本質なんて難しくて手に負えないけれど、それでも筆者には、観戦を終えて胸がすく思いがあった。 サターンカップを制したのは、時代を真逆に行くような、そんな男だった。 誤解を恐れずに言えば、彼から速さを感じたことはないし、戦略を使えるという話もとんと聞くことはない。けれど、強い。厚く、重く、固く。あえて時代の逆を行こうなどという我の強い人物ではない。 今まで培ってきたものを淡々と牌に乗せて、摸打を繰り返す。それしか出来ないのではなく、それを選んできたのだ。不器用さに似た武骨さが滲み出るような、そんな打ち手である。 『古きを温(たず)ねて新しきを知る』 寡黙な勝者の姿を見て、そんな言葉を思い浮かべた。 2012度サターンカップ優勝、阿部孝則S級ライセンス。
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