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 クライマックスリーグ。 
Rリーグで凌ぎを削る者たちが、目指す場所である。 
RMU唯一のプロリーグであるRMUリーグのステージに立つには、 
S級ライセンスの取得か、年度末に行われるこのクライマックスリーグで優勝するしかない。 
最高峰のステージへの登竜門であり、高い高い壁である。 
RMUリーグに所属するS級ライセンスにとっては、刺激をもらい、洗礼を与える場所でもある。 
システムは以下の通り。 
前後期R1昇級者とRMUリーグ所属のS級ライセンスが、2日制で全10回戦を行う。 
初日は8名の総当たりで5回戦、2日目は順位の奇数卓と偶数卓で3回戦、後半に上位4名で2回戦を行い順位を決定する。 
ルールはRMU公式Aルール、得点は全て持ち越しで行われる。 
また、優勝選手がRMUリーグに所属していない場合、RMUリーグへ推挙されるというものだ。 
今年度、R1からの挑戦者は3名。 
前期優勝者のB級・鈴木智憲、後期優勝のB級・谷井茂文(現在はA級)、後期準優勝のB級・江澤陽一。 
この1年間同じリーグで戦ってきた筆者としては、頼もしいメンバーだと思う。 
クライマックスリーグに風穴を開けてくれると、期待を抱かずにはいられない個性豊かな3名である。 
迎え撃つ格好のS級ライセンスは、今さら紹介する必要もなさそうな錚々たるメンバーが揃っている。 
古久根英孝 
土田浩翔 
多井隆晴 
阿部孝則 
河野高志 
RMU内に留まらず、麻雀界でトップクラス5名である。 
迎えた1日目の成績は以下の通り。 
古久根 +104.2 
江澤  +38.7 
谷井  +36.1 
土田  ▲2.1 
河野  ▲15.2 
阿部  ▲39.2 
多井  ▲45.8 
鈴木  ▲77.7 
(供託1.0) 
古久根が9万点超えのトップを取るなどして抜け出すも、後続は団子状態。 
残り5回戦あると考えれば、どの選手にもチャンスは十分にある。 
上位陣に目を向けると、谷井、江澤のR1組が健闘している。 
やはり勢いや若さといったものは重要なのかもしれない。 
土田、阿部、多井も数字的にはマイナスだが、実力、実績的に言えば、2日目で巻き返すことがあっても全くおかしくはない。 
クライマックスリーグ2日目。 
少し早めに会場入りすると、筆者の予想とは違う、非常に穏やかなムードに包まれていた。 
古久根、土田、多井は笑顔交じりでなにやら談笑しているし、江澤、鈴木、谷井のR1組にも時より笑顔が浮かび、緊張の色は見えなかった。 
1回戦は以下の組み合わせ。 
1卓 古久根、谷井、多井、河野 
2卓 土田、江澤、阿部、鈴木 
1卓では多井が絶好のスタートダッシュを決める。 
東1局に2,000-4,000のツモアガり。 
        ツモ         
これを皮切りに、なんと5局連続のアガりを決め、早々とトップを決める。 
そして初日からの好調ぶりを継続させているのか、古久根が余裕の追随をみせて2着となった。 
一方の2卓では、土田が初日の鬱憤を晴らすかのようなアガリを見せる。 
流局が多く、小場で向かえた南2局に を仕掛けて、 
           ツモ     
この16,000オールで勝負あり、8万点を超える大きなトップとなった。 
初日にポイントを延ばせなかったS級たちの独壇場となり1回戦は終了となった。 
2回戦の組み合わせは奇しくも1回戦と同じ。 
1卓では1回戦同様、好調多井が抜け出す。 
仕掛けるべき手は仕掛け、リーチを打つべき手はリーチを打ち、連勝を決める。 
古久根もトータルポイントからか無理はしないものの、安定した麻雀をみせて、1回戦と同じワンツーフィニッシュ。 
3着、4着を分け合ってしまった谷井、河野は厳しい戦いになったが、上位との直接対決が残っている3回戦に望みをつなぐ形か。 
2卓では、江澤がタンヤオドラ3、タンヤオチートイツドラ2をアガり、まずはトップ目に立つ。 
それをじわじわ追い詰めた阿部が、南3局でついに江澤をまくり、S級ライセンスの意地を見せトップを取った。 
決勝進出をかけた3回戦の組み合わせは、以下の通り。 
1卓 河野、古久根、江澤、多井 
2卓 鈴木、土田、谷井、阿部 
古久根は頭1つ飛び出して、ほぼ当確であろう。 
残り3つの席をポイント上位の多井、阿部、谷井、江澤で争うことになりそうだ。 
1卓では多井が決勝を見据えてか、東1局から果敢にリーチ。 
これを実らせて8,000点のアガり。 
目の前のトップはもちろんだが、最終戦までのポイントも考えて攻めていく。 
その姿勢が功を奏し、多井はこの3回戦もトップで、3連勝で決勝へ駒を進めた。 
また初日トップの古久根も、オール2着で決勝へ。 
一方2卓では、起家の鈴木が一縷の望みをかけた大物手でリーチ。 
              ドラ 
しかし流れは出来上がってしまっているのか、谷井の追いかけリーチにかわされてしまった。 
この後も、鈴木、江澤には手が入らずに苦しい展開になる。 
早々と2着を確保した土田がほぼ当確。 
残り1つの椅子を谷井、阿部の2人が争う。 
南4局阿部の親リーチに対して、リードはしているものの素点が少しでも欲しい谷井が満貫を放銃してしまう。 
しかし次局はあっさり流れ、3.8ポイント差で谷井が最後の椅子を手にした。 
決勝進出は以下の4名。 
古久根英孝 +130.1 
土田浩翔  +66.6 
多井隆晴  +62.0 
谷井茂文  +6.1 
ポイント持ち越しの半荘2回戦で行われる。 
初日、2日目と安定した成績の古久根がリードしているが、2日目に3連勝を決めた多井、役満をアガり波に乗る土田の巻き返しも十分に有り得る。 
ポイント的には少し厳しいが、唯一R1組で決勝進出を果たした谷井にもチャンスは残されている。 
決勝1回戦。 
起家から多井、土田、古久根、谷井。 
ポイント持ち越しのこの2回戦。 
普通のタイトル戦の決勝とは違い、すでにある程度の並びが出来ている。 
上位の者はそれほど無理をする必要はないし、下位の者は少し無理をしてでも、得点を叩きに行かなくてはならない。 
東1局、親は多井。 
やはりというか、静かな立ち上がりにはならなかった。 
親の多井が好配牌から3巡目にツモ でイーシャンテン。 
              ドラ 
しかし7巡目の ツモ以降何も引かずに、10巡目に土田からリーチが入る。 
その一発目、多井のツモは 。 
4回しかない大事な親番での十分形からは退けずに、一発でハネ満の放銃となってしまった。 
              ロン  ドラ  裏ドラ 
東2局は親番の土田がタンヤオのみで仕掛けて1人テンパイ。 
同1本場、古久根がドラの をポンしてジュンチャンのイーシャンテンになるが、 
土田も仕掛け、テンパイの入っていた谷井からロンアガリ。 
土田の親番は続き、東2局2本場。 
7巡目に多井がシャンポンリーチ。 
安目ツモながらも、好調土田の親を落とす。 
              ツモ  ドラ 
東3局、ドラは 。 
谷井は4巡目に以下のテンパイ。 
              ドラ 
ドラを使ったカンチャン待ちで、ポイントの欲しい谷井としてはリーチに行きたいはずだが、落ち着いてこれをダマテン。 
待望のドラを引いて、手変わったのは12巡目。 
シャンポンに受けてさらにダマテン続行とし、古久根からすぐに が出て、5,200のアガリとなった。 
放銃した古久根は次局、リーチツモ裏1の1,000-2,000で盛り返す。 
南1局は土田がピンフツモの400-700。 
多井は東1局の失点を挽回出来ないまま、苦しい展開で親番が流れてしまう。 
南2局はトップ目の土田の親番。 
親カブリさせたくもあり、さっさと流してしまいたくもある。 
難しい局面であったが、谷井は を仕掛けて、親を流しに行く。 
この仕掛けと土田が手になっていない様子をみて、古久根が16巡目にフリテンリーチ。 
山読みの精度は流石というべきか、2巡後にあっさりツモアガリ。 
              ツモ  ドラ  裏ドラ 
リーチツモダブ南、トップの土田に肉薄する大きなアガリとなった。 
南3局は谷井がリーチをかけるが、3人が受けにまわり、流局。 
迎えたオーラス。 
なんとか連チャンしたい谷井がイーシャンテンにまでこぎつけるが、土田が入れたチーでテンパイする牌が流れてしまう。 
そのまま土田の1人テンパイで流局となり、決勝1回戦が終了した。 
決勝1回戦終了時(1回戦成績) 
古久根 +137.8(+7.7) 
土田  +96.2 (+29.6) 
多井  +30.9 (▲31.1) 
谷井  ▲1.1 (▲7.2) 
古久根はこの決勝2日目、4連続の2着。 
このメンバーを相手にこの安定感は特筆すべきであると思う。 
土田は東1局のハネ満以降大きなアガリはなかったが、危なげなくトップを取り古久根を追う。 
逆に東1局の放銃から、立ち直りきれなかった多井は痛恨のラスになってしまった。 
古久根との差が約100ポイント、土田との差が約60ポイント。 
RMUルールのウマは5-15で、トップラスでも30ポイントしか差が埋まらず、素点で7万点は叩かなければならない。 
そしてトータルマイナスになってしまった谷井。 
「このメンツで打てること自体が素晴らしい経験になると思う」 
対局開始前、そう語っていた。 
これは筆者の私見であるが、R1リーグから唯一の決勝進出者である彼に、 
B級ライセンスの代表として、自分らしい麻雀を打って欲しいと願った。 
決勝2回戦(最終戦)、並びは起家から多井、古久根、土田、谷井。 
東1局、ドラ 。 
11巡目にドラを重ねてテンパイした土田はノータイムでリーチ。 
              ドラ 
1回戦の再現かと思っていると、黙って見ている訳にはいかない親番多井が13巡目に追っかけリーチ。 
              ドラ 
放銃することがない分多井に利があったリーチ合戦は、2人テンパイの流局となった。 
同1本場は谷井、土田が仕掛けるが、古久根がツモのみの300-500をアガる。 
東2局。 
先制リーチは谷井。 
              ドラ 
厳しい待ちではあるが、得点が欲しい現状では当然のリーチだ。 
なかなかツモることの出来ない谷井に、14巡目土田が追いついてリーチ。 
              ドラ 
2巡後に谷井が を掴み、勝負あり! 
と思っていると、ロンの声は掛からない。 
土田は表情を変えることなく見逃した。 
トータルトップ目の古久根が親で、高目をツモれば裏ドラ1枚でハネ満をカブらせることが出来る。 
確かにそうだが、それは理屈であって、先行リーチも入っているこの局面でなかなか出来ることではない。 
何としても頭を取るという土田の強い意志を感じた。 
結果は2人テンパイの流局。 
古久根としては良い親流れだろうか。 
東3局1本場は土田の1人テンパイ、 
同2本場は土田、古久根の2人テンパイで流局となり、3局続けての流局。 
東3局3本場。 
膠着状態を打ち破るかのように、谷井がいつもと変わらない明瞭な発声でリーチ。 
              ドラ 
これをあっさりツモって1,300-2,600は1,600-2,900。 
供託の4,000点と合わせ、大きなアガリになった。 
東4局、親番は谷井。 
ラス親が残っているものの、1つでも順位を上げるためには、この親は簡単には落とせない。 
良いとは言えない配牌を丁寧に仕上げて、14巡目に三色リーチ。 
これに仕掛けていた古久根が飛び込んでしまう。 
手牌に現物が無く、 が4枚見えてノーチャンスとなった瞬間の放銃だった。 
              ロン  ドラ  裏ドラ 
この12,000点の放銃で古久根はラス目となってしまい、他の3人にも僅かであるかもしれないが希望は見えた。 
次局も親の谷井が苦しい手牌をまとめて、1人テンパイの流局。 
東4局3本場。 
ここまで本手が入らず、苦しい戦いを強いられていた多井が先行リーチの土田から5,200を打ち取り、南1局の親番への態勢を整える。 
しかし迎えた南1局は古久根が軽やかに捌き、谷井から2,000のアガリ。 
ここで多井のクライマックスリーグは終わった。 
南2局は親の古久根が仕掛けて土田から1,500点をアガって連チャン。 
軽いアガりだが、土田の親番を残しているこの場面では少しでも点数は欲しい状況。 
次局も古久根はピンフのみでリーチを打つが、土田がダブ南を仕掛けて応戦。 
しかし間隙を縫うように、谷井がダマテンのチートイツを土田からアガる。 
南3局、親は土田。 
古久根にとっても土田にとってもここが天王山である。 
土田の5巡目。 
              ドラ 
ここから1枚目の をポンして打 。 
この仕掛けで立て続けに有効牌を引き入れ、10巡目に2,000オールのツモアガり。 
           ツモ      ドラ 
続く南3局1本場。 
土田の手牌はイーシャンテン。 
              ドラ 
しかしここから動かずに、古久根が値千金の1,000点をアガる。 
このアガりで古久根の優勝はほぼ決まったと言って良いだろう。 
オーラス。 
谷井の1人テンパイで迎えた1本場。 
古久根がメンホンをツモアガり、今日5度目の2着へ浮上し、自らの手で優勝を決めた。 
              ツモ 
最終戦終了時(2回戦成績) 
古久根 +138.2(+0.2) 
土田  +73.1 (▲23.1) 
谷井  +31.9 (+33.0) 
多井  +20.6 (▲10.3) 
 
今回クライマックスリーグのレポートを書くにあたって、やはり谷井、鈴木、江澤のR1組を心のどこかで応援している自分がいた。 
記者は中立的立場にいなくてはならないのだが、冒頭にも書いた通り、 
1年間一緒に戦い切磋琢磨してきた彼らが、このクライマックスリーグで風穴を開け、旋風を巻き起こしてくれるのを期待していた。 
しかしそこに立ちはだかった壁はあまりにも高かった。 
3連勝の多井、親役満の土田、そして圧倒的な安定感の古久根。 
個性的でバリエーションに富んだ、プロの麻雀を見せつけられた気がした。 
今年度末になれば、また挑戦者たちはドアを叩く。 
今よりも上のステージで戦う為に、その場所に繋がるドアを叩く。 
そして挑戦者的な姿勢で立ち向かう者と、それを真っ向から受け止め、圧倒的な力を見せる者との戦いがそこにはある。 
その舞台に立つための戦いは、もう始まっている。 
(文中敬称略 文責:飯島健太郎)  |