オープンリーグ決勝観戦記 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
9月22日土曜。 例年なら秋涼を味わえる時期のはずだが、この日はとても上着を着ていられない、暑い1日であった。 予報では、翌日から涼しくなるらしい。 「今日の決着まで、夏は終わらないということなのか」 そんなことを思いながら、会場のばかんすに到着したのは開始30分前。 エレベーターの前で、さくらい良と出くわし立ち話。 なんと彼は朝早くから、調整のためにセットで肩慣らしをしていたそうだ。付き合わされた面々には気の毒だが、彼の決勝にかける意気込みが伝わってくる。 阿部孝則もほぼ同時に会場入り。ピンク基調のシャツとタイが、細身な長身によく似合う。 直後に、佐竹孝司と神崎崇もそろって姿を見せた。 佐竹は準々決勝、準決勝ともに圧勝で勝ち進んできた。 神崎は攻守の見極めが非常に良い。守って守って、本手をものにして勝ち上がってきた。型にはまると、手がつけられない選手である。 試合開始の20分以上前に選手全員がそろったわけだが、とても話しかけられるような雰囲気ではない。 記者として取材する権利はあるのかもしれないが、彼らの集中力を乱すことは自分にはできなかった。 11時。立会人の河野が告げる。 「開始して下さい」 初戦から、明暗は分かれた。 1回戦は阿部、神崎、佐竹、さくらいの並び。 まず先行したのは佐竹。東3局、親で3巡目にこの形。 ツモ ドラこの場面、一応のイーシャンテンに三色も見えるため、手広く中を切る人も多いのではないだろうか。 折角のチャンス手を安手で終わらせる気はないということだろう。
続く3本場も、 ドラ 裏これをリーチ一発でツモり、4,000オール。 佐竹孝司。非常に攻撃的な打ち手である。 しかし、彼の最大の持ち味は、最高形を常に想像しながら打つことである。 もちろん、常にその形になるわけはないのだが、想像力というのは麻雀にとって非常に大事なことだと思う。 当然、彼の打点力は高い。リーチを打つことも多いし、彼の鳴きが安かった記憶というのもあまりない。多少の放銃では揺れない、強い心も大きな武器である。 このまま佐竹を放置すると、この半荘ばかりか、決勝の主導権が佐竹のものとなってしまう。 なんとかして早く佐竹の親を蹴りたい。3者の表情からはそれがありありと読みとれる。 東3局4本場。静かな進行となった局の終盤、佐竹がテンパイ。「また連荘しそうだな」と思っていたところ、テンパイ打牌のに阿部が「ロン」の声。 ドラ佐竹の親をついに止める。ここは絶対に連荘させない、という打ち手の気迫が、普通なら自然にテンパイ気配となってくるはずなのだが、阿部にそれはない。 阿部孝則は唯一のライセンスプロであり、その確かな実力は誰もが知るところ。 彼は非常に守りの上手い選手である、というイメージが私の中では強かった。 それは決して間違ってはいない。甘い牌を相手に鳴かせる事もないし、これだけは、という牌を止める場面を今まで何度も見てきた。 だが、彼の麻雀を見るにつれ、本当にすごいところは「勝負感覚」ではないかと感じる。今まで何度もタイトルを制した、その経験は最大の武器であろう。 アガリを逃せば打牌が荒くなったり、テンパイをすれば多少なりとも気配やモーションが変わる者が多い。後に「阿部さんは本当に気配がわからない」とさくらいが語ったが、同卓者にしてみれば、不気味としかいいようがないのである。 続く東4局。ここまで我慢の展開だったさくらいにチャンスが訪れる。 さくらい良は仕掛けを非常に有効に使う、戦略家タイプの打ち手である。相手の心理を読んだ鳴きとリーチで、どうにかして流れを持って行ってしまう。決勝でもさくらいマジックを見せてくれるのだろうか。 ドラこの配牌からソーズが伸び、12巡目でこのイーシャンテンとなる。
ここで打かかの選択になる。はドラで、はこの時点で6枚見えている。アガリやすさでいえば打の待ちの方が優秀であろう。 準々決勝、準決勝と、ポンから入ることは非常に多かったが、両面チーから入ったのを見たのは初めてかもしれない。 ここまで手格好が整っている時に鳴いてしまったさくらいは、自分を見失っているようにも見えた。 結局、この局は阿部がアガリをものにする。そしてその次の親番で、当然のように阿部は12,000をアガる。 ドラ 裏このリーチにで飛び込んでしまったのは神崎。 神埼崇は、自分が攻めるときではない、と感じたら徹底的に守る。耐えて耐えて、手が入るのをじっと待つのだ。特に親番が来ると、これでもかというくらいに積極的に攻め続ける。準々決勝、準決勝ともに劣勢から親番でアガリを重ね、脅威の爆発力で決勝進出を決めた。型にはまれば、手がつけられないタイプである。 2回戦が終わった後、話しかけてくれたが、その言葉に力はない。 「佐竹さんに打った12,000(三色ドラ2)もきつかったけど、阿部さんに打った12,000が効いたなぁ」 この日の神崎は守るところで守れず、攻めるところで攻められない。決勝という雰囲気に呑まれたのか、緊張してしまったのかはわからない。だだ、この日の神崎は、最初から最後まで自分の麻雀をすることができなかった。 南2局の3本場、先ほど痛恨のアガリ逃しをした西家のさくらいが、自力でチャンスを引き寄せる。 ドラとたいしたことのない手だったが、最初にを重ねて、まずをポン。非常にさくらいらしい鳴きである。さくらいはこの鳴きでこれまで勝ってきた。ようやく彼本来の姿が戻ってきたかのように見える。 その後を重ねてともポン。 ポン ポン ポン ツモ筋を読むことにも長けているはずのさくらいは、1回戦終了後、こう呟いた。 「この展開でマイナス10なんて、ついてるな」 だが、試合が終わった後にはしみじみとこう語る。 そう、彼は気づいていなかった。調子が悪いのではなく、自分のスタイルで打てていないことを。 彼もまた、決勝という舞台に、強者のオーラに、呑まれてしまっていたのだ。 この時、すでにさくらいの決勝は終わってしまったのかもれない。 さくらいがアガリを逃した後、アガリを拾ったのはまたしても阿部。 ドラ
一回止めたドラを同じテンパイで再び切るのは一貫性がないだろうか? いや、そんなことはない。さくらいはマンズの染め手気配、他の二人は終盤に入ってきてもマンズ等の危険な牌は切ってこない。とすると、このは鳴かれることはあっても、当たる可能 性は少ない。そう阿部は判断したのだろう。 そして、押し寄せるマンズのツモにも感じるものがあったのかもしれない。 2回戦は神崎、阿部、佐竹、さくらいの並び。 東1局、阿部9巡目。 ツモ ドラでテンパイ。絶好の3面張である。三色目はあるが、不確定なのでリーチを打つ人が多数のはず。 だが、「もしかするとダマにするかもな」と見ていると、やはりリーチ宣言をしない阿部。 この牌姿で「2,000点でいい」と思えるのは恐らく彼だけであろう。これをダマにしてこそ阿部孝則である。さくらいからを討ちとり2,000点。 このまま阿部のペースで局が進んで行くかと思いきや、佐竹が再び親で4,000オール12,300をさくらいからアガる。 この佐竹という男は、一体何回親でアガリ続けるつもりなのだろうか。 前局同様、なんとか3本場で阿部がアガって止める。阿部はこの後も小刻みにアガリ続けるも、リードしてなお隙のない佐竹を捉えることはできず。 佐竹と阿部が大きくリードした。 【2回戦終了時成績】
3回戦は神崎、阿部、佐竹、さくらいの並び。 東2局、さくらいは4巡目でこのリーチ。早い愚形リーチで抑え込み、突破口を見いだそうということか。 ドラ これを13巡目にリーチして勝負する。 終盤、ダマテンという選択肢も十分にあったが、これが佐竹スタイルなのだろう。 だがこの局を境に、今まで焦るということのなかった佐竹がブレ始める。 南3局の親番。 ドラここからに飛びついてしまう。たしかにと鳴ければ満貫が見えてくるのだが、捨て牌も派手でそう簡単に字牌を打ってくれるとも思えない。 結果、この動きによって手の入ったさくらいのリーチに8,000を打ってしまい、オーラスで16,500点のラス目に。次局では痛恨の誤ロンまでしてしまう。 そんなライバルを見ながら、阿部はオーラスの1本場にを仕掛け、直後のツモでイーシャンテン。
供託に千点あり、トップ神崎との差は3,500。ツモか直撃ならまくれるが、佐竹が大きく沈んでいるため、2着でもよしとしたのだろう。 だがその後、さくらいからリーチが入る。 数巡後、阿部はをツモ。リーチ棒が出たためアガリトップとなり、を強打する者が多いかもしれない。 小考後、阿部は打。さくらいに6,100の打ち込みとなってしまった。 試合終了後に聞くと、今日の一番の反省点はここだと語ってくれた。後の祝勝会でも、これを見ていた者が口々に「あれは阿部さんらしくなかった」という。 その言葉通り、放銃が罪なのではない。阿部孝則が、ここでを押してしまったことが罪なのだ。 決勝戦という舞台で、自分のスタイルを貫けない人は負ける。それを身にしみてわかっている阿部だからこその、重い言葉であった。 阿部、佐竹の両者がマイナスになったことで、このまま3回戦が終了すると混戦になるのは間違いない。 だがここで、黙っているはずがない男がいる。 ダンラスの佐竹である。 その配牌はまとまりがない。 ドラだが、、、とツモり、16巡目で遂にこの形にこぎつける。 (アンカン) ギャラリーが固唾を飲んで見守る中、17巡目であった。 「ツモ!」 試合中にも関わらず、会場がどよめく。 大逆転でトップをもぎとる。 実はこのと、終盤にも関わらず、まだ3枚も山に眠っていたのだ。しかもこの局、親のさくらいがのテンパイを7巡目に入れている。 まさに佐竹の豪運が生んだ四暗刻であった。 「四暗刻アガったけど、あんまり嬉しくないんだよね」 チョンボをして素直に喜ぶわけにはいかないといった様子だが、阿部にラスを押しつけてのトップ。一気に2位以下をつき離した。 【3回戦終了時成績】
正念場となる4回戦。佐竹にトップを取られてしまうと優勝は決まってしまうので、他の3者は全力で阻止しなければならない。もちろん、どの選手もここで叩かなければ最終5回戦目の条件が厳しくなってしまうのだ。 4回戦の並びは阿部、さくらい、佐竹、神崎。 これを即リーチして一発でツモり4,100オール。まずは阿部が大きくリードする。 しかし佐竹も負けてはいない。 ドラ 裏なら8,000、ダマの選択肢も十分にあるように見えたが、こちらも力強くリーチ。安目ながらをつもる。 1回戦と似たような展開で、さくらいと神崎の2人は入り込むことが全くできない。 2人が叩きあい再び迎えた阿部の親番、さくらいの先行リーチを受けた阿部は、真っ直ぐに打ってこの形でリーチを打つ。 ドラ 裏 次局でも神崎の四暗刻リーチを受けつつ、4,100オールをアガり、大きく突き抜ける。 そして圧巻はオーラス。 ドラ 裏阿部は7巡目にテンパイ。ダントツのトップ目であり、リーチはしなくてもよさそうな状況。 しかし、阿部は2巡回した後にリーチを宣言。 「が自分の目から見て4枚見えたのと、(トータルトップを争っている)佐竹がをポンして仕掛けたからリーチで押し返される事もない。状況的に脇の2人は降りないだろうし、それならリーチしたほうが絶対に特でしょ」 と阿部はいう。 結果は1発でをツモるのだが、これぞプロの技であると改めて実感した。 そして、このアガリによって50ポイント以上あった差を6ポイント差までつめ、最終戦条件を着順勝負にした、ということも忘れてはならない。大きな大きなアガリである。 【4回戦終了時成績】
4回戦まで終了して、佐竹が88.6ポイント、阿部が82.6ポイント。 1着順10ポイントの順位点の差があるので、この2人は完全に着順勝負というシンプルな条件。 他の2人は大きく沈んでいて、その差は200ポイント近くと非常に厳しい状況。 初代王者は「寡黙な王者」こと阿部か。 はたまた、豪快かつ力強い麻雀を見せつけてきた佐竹か。 遂に、運命の最終戦がスタートする。 5回戦は阿部、さくらい、佐竹、神崎の並び。 東1局、親番の阿部に早くもチャンス。7巡目で ドラのイーシャンテン。そして次巡を鳴いて、打でカンのテンパイとする。 もも河には一枚も見えておらず「単純に枚数を考えてしまった」と阿部は言った。 2巡後、をツモってアガリを逃すと、さくらいが1,600・3,200をツモって阿部は親かぶりをしてしまう。さすがの阿部も、わずかに表情を曇らせたように見えた。 しかし東3局、親が佐竹の時に神崎がハネ満をつもり、再び阿部がトータルトップに。 目まぐるしく順位が入れ替わる中、佐竹は東4局に ドラという、最初から役牌のドラが暗刻のチャンス手。 「ドラのが暗刻だったのを見て、さすが俺だと思った」と語るように、佐竹は本当に勝負強い。 彼がこのチャンスを逃すわけがなく、これをきっちりツモって再びトータルトップに踊り出る。 次局の南1局阿部の親番、なんとしても佐竹に追いつきたい阿部は ポン ポン ポン ドラ 正にシーソーゲーム、一進一退の攻防が続く。 南1局2本場、阿部と佐竹の差は10,000点。まだ満貫ツモですぐにひっくり返る点差である。阿部はここでリードを広げて、佐竹はここでアガって優勝に近づきたいところ。 どちらにとってもミスが許されない、勝負局である。 阿部は ドラという、シュンツ手かトイツ手か迷う手牌。を残しつつ手を進めた結果、この形で8巡目にテンパイする。 ダマでもアガれる形だが、阿部はこれを即リーチ。河にがあるとは言え、場況的にも決していい待ちとは言えない。 「そんなにアガれるとは思わなかったけど、みんながこのリーチにオリてくれれば、終盤にもしかしたらアガれるかもしれない」 自分はダマにしてこぼれるのを狙いそうだが、そうなると脇の2人が真っ直ぐ打ってあがっていた可能性もある。このリーチ判断は非常に難しいところ。 だが、阿部が一番対応してほしかった佐竹は、この親リーチに真っ向から勝負を挑む。 佐竹がリーチを受けた時の手牌はこの形、 ツモリーチが入っていなければかを切っていくのだろうが、ここはを落としていくのが無難か。 これで2人の差は2,600点。ここに来て、勝負の行方は更にわからなくなってしまった。 そして迎えたオーラス。阿部が23,800点、佐竹が22,700点という、実質アガリトップのような状況。 ここまでもつれるとは本人たちも思わなかったであろう。 ギャラリーも、この勝負の行方を見逃すまいと、ただ静かにこの局を見守る。 決着は意外に早かった。 ドラ6巡目にイーシャンテンの阿部が、をポンして8巡目テンパイ。次巡、軽々とをツモって優勝を決めたのだ。 瞬間、ギャラリーから大きな拍手が湧く。 その拍手は、素晴らしい戦いを見せてくれた選手への感謝の気持ちと、初代王者となった阿部をたたえるものであった。 第1期RMUオープンリーグ、優勝の栄冠はライセンスプロ「寡黙な王者」阿部に輝いた。 【決勝成績】
優勝が決定した直後、インタビューすると 自分ではまだまだ満足していない、という厳しいコメントを残しつつも、さすがにほっとしたのだろう、笑顔で答えてくれた。 一局として楽な戦いをすることはなかったが、様々な勝負所を制して優勝。ライセンスプロの力を存分に見せ付けてくれた。 いつまでも彼の麻雀を見ていたい、そう思わせる充実した内容であった。 そして準優勝の佐竹孝史。四暗刻をはじめ、豪快な打ち筋で大暴れ。 「(優勝はできなかったけど)最終戦、とてもおもしろかった。でも本当に惜しかったなあ、残念だった」 3位はさくらい良。決勝ではダークホース的な存在になると思っていたが、彼本来の麻雀を打つことができず、不完全燃焼のまま対局を終えた。祝勝会でも、その事を悔やむ言葉ばかり。今度は是非、さくらいマジックでギャラリーを魅了して欲しい。 「1回戦から阿部さんに気圧されてしまった。こうして決勝という舞台であたってみると、やっぱり阿部さんは強烈なオーラを出してるね。それでいてテンパイ気配は全然わからなかった」 4位は神崎崇。本来我慢強いはずの神崎が焦ってしまったのは、勝ちたいという気持ちが大きすぎて、空回りしてしまったように感じた。だがそれを否定することは誰にもできない。そして彼の言葉からは、もう次の戦いを見据えていることがうかがえた。 「初戦でラスを引いたことにより、かなりオフェンシブになってしまいました。3回戦目でトップを取れなかったのも痛かったです。まだまだ力不足なので、次はもっと良い結果が出せるように頑張ります。阿部さんにことごとく大物手を潰されました。本当に強かったです」 この日、約2ヶ月に及んだオープンリーグが幕を閉じた。 |