第2期オープンリーグ決勝 優勝は平山友厚! |
もう桜は咲いているというのに、朝から肌寒さが漂っていた。 電車が遅れてしまい、慌てて会場に飛び込んだのは開始15分前。会場にいるスタッフに「遅いだろ!」という視線を受けつつ、本当は言い訳をしたかったのが、今はそんな事はどうでもいい。大事なのは、決勝進出者の雰囲気を感じ取ることであった。そこには、「今すぐにでも、決勝を始めてくれ」と言わんばかりの4人が揃っている。 この日、一番最初に会場入りをしたのはアスリートの合田。彼はまだ19歳である。この強豪ひしめくオープンリーグで、決勝に残ってきただけでも賞賛に値するだろう。当然、初めての決勝であるのだが、特に緊張している様子は見られない。むしろリラックスしているように感じられる。 「この会場には1時間半前に着いてしまいました。でも、早く起きたせいかとても体調はいいです。最終戦まで、優勝の可能性があるといいですね」 奥の卓に座っているのはライトコースの蛭田。RMU入会前からの知り合いであり、彼とは何度も打ったことがあるのだが、持ち味はなんと言っても爆発力である。一度流れに乗せてしまうと手がつけられない。窮地からでも、その攻撃力でいとも簡単に逆転する場面を何度も目の当たりにしてきた。 「小さな大会の決勝には何度か出たけど、タイトル戦の決勝は始めて。緊張すると思うけど、普段通り打てたらいいと思う」 石田は、何人かと話をしながら決勝が始まるのを待っていた。自分が話しかけても、それに笑顔で応えてくれる。 リラックスしているように見えたのだが、 そして、準決勝に補欠繰り上がりで進出し、大三元ツモ等で決勝に残ってきた平山。競技麻雀のベテランであり、その確かな実力は誰もが知るところ。おまけに、完全にオカルトではあるが、こういったギリギリの勝ち上がりをして残ってくると優勝する人が多い。本人もその事は自覚しているだろう。 そして1時丁度。立会人の多井が開始を告げた。 1回戦、並びは合田、石田、平山、蛭田。開局から大物手が飛び交う展開となる。 この配牌を貰って、真っ直ぐにピンズのホンイツに向かう。そして14巡目、 ツモでテンパイ。は2枚切れ、は直前に石田が切って1枚切れ。ここで平山は迷わず打。巡目を考えても、誰からでもこぼれそうなで待ちたくなる。 そんな合田は東2局、誰もが驚くチャンス手が入る。 ツモ ドラなんと第一ツモでドラのを重ね、早くも四暗刻イーシャンテン。合田の四暗刻が炸裂か……と誰もが固唾を飲んで見守る中、テンパイすることもなく蛭田が石田から1000点をアガる。だが、合田はそんな手が入っていることなど微塵も感じさせずに、次の局へと臨んでいた。 東3局、平山は再び親番で手が入り、4800、5800は6100を合田、石田からそれぞれ打ち取り、早くも5万点オーバー。だが、このまま自由にさせておくわけにはいかない、と言わんばかりに下家である蛭田が積極的に仕掛けて連荘を止める。 ポンポン ロン ドラこれを合田からアガる。たしかに、打点的にも鳴いていきたい形ではあった。そしてこれが彼のスタイルでもあるのだろう。だがアガることよりも親の平山に自由に打たせたくない、そんな意思が感じられた。この辺りの勝負感覚はさすがと言ったところか。 2回戦、並びは蛭田、合田、平山、石田。 平山も負けてはいない。 一見すると無謀なアガリに見えるかもしれないが、好調の平山がここでオリることは、隙を作ることと同じである。ここで蛭田の仕掛けにひるんでしまったなら、この半荘はどうなっていただろうか。 「今までに数多くの決勝を見てきた」という平山にとって、それこそが罪であるとよく知っていたのだ。反対にこの局を悔やんでいるのは蛭田。 この手を大胆にも即リーチ。が4巡目の時点で3枚見えていることもあり、待ちが良いと踏んだのであろう。結果はすぐにを合田が掴み、12000は13200をアガる。またしても東場の親で5万点オーバー。その後もアガりを重ね、6万点を越す大トップで2連勝。 2回戦 平山+49.6 合田△2.4 蛭田△16.7 石田△30.5 3回戦、並びは蛭田、合田、平山、石田。 なんとドラタンキのチートイツ。 平山 石田 平山が頭ハネで連荘、このまま3連勝してしまうのだろうか。 合田 これには思わず平山もため息を漏らす。ここで平山がアガっていたら3連勝濃厚でこの試合は決まっていた。平山をマイナスにすることこそできなかったものの、この半荘は合田が魅せてくれた。 3回戦 合田+40.8 平山+4.8 石田△15.8 蛭田△29.8 そして4回戦、並びは石田、平山、蛭田、合田。 4巡目でこのテンパイ。サンショクをみてダマテンに構え、9巡目でを引きリーチ。 続く東1局1本場で蛭田が、 ツモ ドラこのハネ満をツモり、逆転への足がかりとする。 そんな中、蛭田はなんと6巡目に、 ドラこの形からポン。打点が欲しいところでこの仕掛け、おまけにはすでに一枚切れている。ちょっと無茶じゃないかな、と思っていたが、この後ドラのを2枚連続でひく。すごい感覚だと思った。このポンはきっと理屈じゃないのだろう。 一枚切れではあるがバックの満貫テンパイ。これを平山から直撃できれば、最終戦は本当にわからなくなる。その平山も11巡目にこのテンパイ。 ドラ平山もここはオリることができないので、無スジをどんどん押してくる。一体どっちが勝つのだろうか…と静かに見守る中、ノーテンすら許されない合田が苦しむ。実は、合田は、 ドラ4巡目でこのイーシャンテンだった。その後しばらくツモ切りが続いて8巡目でツモ。単純効率なら打だが、バランスで言えばのほうが優秀だろう。ダイレクトにを引かない限りほとんどロスにならず、ドラ引きやタンピン、345のサンショクやイッツウまで見える。合田も頭ではわかっているだろうが決勝という舞台で焦ったのか、合田は打。そして平山のテンパイ後にドラのを引いてきて万事休す。前の半荘、上手く打っただけに悔やまれる一打となった。 4回戦 蛭田+37.0 石田+1.7 平山△12.8 合田△25.9 そして最終5回戦、並びは蛭田、合田、平山、石田。 ここで合田がツモアガろうものなら、この半荘平山をラスへと落とし、トップの行方が一気にわからなくなる。 その後は淡々と局が進み、迎えたオーラス。 5回戦 石田+32.7 蛭田+16.0 平山△7.6 合田△41.1 合計 平山+60.6 蛭田+17.1 合田△36.8 石田△40.9 平山は、開局からリードを一度も渡さないという危なげない展開で優勝。大きなミスをすることなく、安定感抜群の麻雀を見せてくれた。 「今までたくさんの決勝戦を見てきたので、どんな状況になっても心の揺れを防ぐことができた。多少ミスや振り込みをしても、すぐに立て直すことができたのが勝因だと思う」 「普段通りに打てて、ツモも良かったけど、後先で負けていたのが大きかった。平山さんの親番を蹴ろうとしていたのに、できなかったのが残念だった。でも楽しかったです」 1回戦こそやや緊張が見られたものの、その後は普段通り打てていただろう。放銃回数、点数は少なかったが、1回戦、2回戦で平山の親番を止めることができなかったのが非常に悔やまれる。そうすれば、4回戦で爆発した勢いそのままに優勝することができたのかもしれない。 誰もが賞賛したドラの見逃しを始め、いくつかの場面で光るものを見せた合田。まだ荒削りなところが多く、手順、状況判断ミスをしてしまうことがあったが、これからが非常に楽しみな選手である。 「至る所でミスが出てしまいました。結果は残念でしたが、この経験をこれからに繋げられたらいいと思います」 誰の目から見ても、明らかに状態の悪かった石田。途中ふんばりがきかずに放銃してしまったり、致命傷となったリーチ判断が残念で仕方がない。 「今日はツモれる気がしなかったから、あのリーチはするべきじゃなかった。条件戦にあまり慣れていないこともあり、後々の事を考えて打ててなかったのもよくなかったです」 いくつもの決勝戦を観てきたが、やはりこの舞台は独特である。 こうして、2007年度RMU最後の公式戦は幕を閉じた。怒濤のように過ぎ去ったこの一年が終わりを告げようとしている。今までに味わったことのない、ハイレベルな大会ばかりであった。2008年度、更なる飛躍の年になることは間違いない。 (文中敬称略 深谷祐二) |