2014/11/30(日)に第8期RMUクラウンの決勝が行われました。今期から決勝は麻雀スリアロチャンネルで生放送されるため、会場は「ばかんす」から麻雀スタジオに移され、また5回戦制から4回戦制に改められました。今回はその模様を決勝の8日前(11/22)に入会したばかりの新人・菊池一隆がお届け致します。
観戦記にも書き方は色々ある。新人(筆者)には各選手の雀風や裏話を面白く紹介できるほどのネタがあるわけも無く、かといって書くために必死に取材したところで付け焼刃感は隠しきれない。したがって今回は以下のスタイルを貫くことにした。
―戦いを観て感じたことをそのまま記す
それゆえ全対局を選手の間近から観戦し、同じ空気を感じることにはこだわった。そこで感じたことをそのまま記していくことにする。生放送により多くの方にご覧頂けるようになった反面、会場で直接応援することができなくなったこともあり、この観戦記がその生の雰囲気を伝える一助になればとの思いもある。中には選手の真意を汲み取れないまま批評している部分もあるとは思うが、その点、読者や選手の皆様には何卒ご容赦頂ければ幸いである。
対局前の質問も選手への負担を考え一人一問とした。
まずは一般で唯一勝ち上がった浜崎悠。元RMU会員で第7期RMUクラウンベスト8。RMU長崎時代の平均順位2.34は立派。
―強豪揃いですが意気込みを・・・
浜崎「普段は相手の心理を考えて打つタイプだが、小手先で勝てる相手ではないため、逆にアマチュアという立場を利用して無邪気に元気よく打ちたい。」
次に最高位戦の”前”Aリーガー、坂本大志と水巻渉。今期の最高位戦Aリーグで苦渋を味わった二人がこうして決勝に勝ち上がること自体が最高位戦の選手層の厚さを物語るが、二人にすれば来期に向けて是非とも勝って弾みをつけたいところだろう。
―最高位戦ルール(10-30)とRMUルール(5-15)で順位点が異なりますが・・・
坂本「順位点と同様に素点も重要になってくる。」
水巻「素点を意識していたが、慣れてくると普段とそこまでバランスは変わらない気がしている。」
最後に現RMUリーグチャンピオン、S級ライセンス河野高志。
―今期から4回戦制ですが・・・
河野「4回戦制は致命傷を負ってしまった場合に取り返す時間が無いので、勝負どころの見極めがより重要になる。別に初戦ラスをとるくらいは何とも思ってないけどね。」
浜崎の「無邪気」という言葉が放った不気味さが気になりながらも、河野の言葉の深さを想った。短距離のようでいて中距離のようでもある400m走みたいなもんか・・・、対局の開始を待ちながらぼんやりとそんなことを考えていた。
◇1回戦 起家から浜崎-河野-坂本-水巻
東1局
東家浜崎の配牌
ドラ
ピンズのホンイツもみて打かと思ってみていると打。すると次巡のツモが。感情移入しすぎた筆者は勝手に胸が苦しくなってしまったのだが、本人にとっては当然のツモぎり。次巡が重なると端からホンイツはみていないとを外しにかかり、その道中で1枚目のをポンして2900仕掛け。技ありのターツ選択でと外した西家坂本からのリーチを受けると、当たり牌のをとめてまわる浜崎。確かに冷静ではあるのだが、これが浜崎の言う「無邪気」なのか?坂本がツモあがるまでの間、筆者はちゃんと呼吸ができていたのか自信が無い。
リーチツモ ドラ 裏ドラ
ここにきてやっと気づく。スタジオの対局室の静寂さに。対局者以外には筆者しかいない。生放送ゆえに余計な音は排除されており最低限の発声や牌の音しか聞こえない。自分の息苦しさの理由の一部がここにあることに気づくとともに、400m先にあるゴールを思い、気が遠くなりそうになった。
東2局1本場
東家河野がの次にドラのを河に放つと、北家浜崎はフーッと息をはいて打。やはり見えている。想定通りの河野の親リーに立ち向かい、チーテンで河野のあがり牌を喰いずらし、最終手番で無筋を押して二人テンパイに持ち込んだ姿はとてもたくましく思えた。
東2局3本場
テンパイ、テンパイ、1300オールと連荘する河野のリズムとともに、対局室も少しずつ熱を帯び始める。子方三者の打牌にも迷いは無く、これ以上の連荘は許したくないというのが共通の思いであったろう。アンコの配牌をもらった南家坂本が先制リーチをすると、真っ向勝負の西家水巻が一発目に無筋の打。すると北家浜崎がそれをポンしてドラのバックのイーシャンテン。を1枚かかえた河野はおりにまわらされ、結果的には仕掛け返した水巻があがる。
チー ロン ドラ
子方に放銃しても連荘されるよりはマシ。そんな三者の気合いを感じるとともに、いつのまにか普通に呼吸ができている自分に気づいた。
東3局
ようやくきた坂本の親番で北家河野がダブリー。思わず坂本の表情を確認したが何一つ変わらない。3巡目にイーシャンテンから放銃した時の坂本の納得したような顔にとても好感を持った。
リーチロン ドラ 裏ドラ
東4局
東家水巻9巡目にテンパイ
ツモ ドラ
が2枚とびという場況。ソーズの上も良く、当然のテンパイ外しで打。直後南家浜崎から強烈なリーチ。
ツモ 打(リーチ) ドラ
次巡をひいた水巻が一発で高め放銃となるのだが、避けられない放銃は悔やまないと言わんばかりにけろっとした顔で点棒を払い、ドリンクを一口飲んで調子を整える姿が印象的であった。
南1局 東家から浜崎38400 河野40300 坂本25700 水巻15600
9巡目、東家浜崎の仕掛けに面食らう。
チー 打 ドラ
直前にバタバタときられた3枚目のをチー。きった二人がもう1枚ずつを持っているとふむと山に薄いと読んだか?あるいはこの巡目で3シャンテンでは形テンのためのラストチャンスという判断か?ドラがで全ての役牌がでているので仕掛けるとなめられるし、しかもそのドラをトイツでもっているのに三色目を消す打?筆者には一生できない仕掛けだが、「無邪気」に形テンを狙いにいける浜崎をみて「つよい・・・」とペンを走らせていた。ちなみに結果は西家坂本のリーチに形テンで押した浜崎が1300を放銃。
南2局 東家から河野40300 坂本27000 水巻15600 浜崎37100
4巡目、既に恒例と化した北家浜崎の仕掛け、しかし今度は本手。
ポン 打 ドラ
仕掛けをなめてもらっているうちに本手をあがってペースを引き寄せたかったところだろうが、この局は他家が早かった。
まずは南家坂本が7巡目にメンホンリーチ。
ツモ 打(リーチ) ドラ
ヤミでも高めツモでハネマンある手をノータイムリーチ。2巡目にをきっており宣言牌が。ホンイツにみえない河だからリーチなのか?仕掛けられたからリーチなのか?ヤミでもがこぼれそうに無いからリーチなのか?あるいはツモれるとふんでのリーチなのか?否、おそらくそんな理屈を超えたところに坂本の麻雀はある。現最高位村上を彷彿とさせる、かくも気高い坂本の麻雀が。
その2巡後に西家水巻も追いつく。
ツモ 打(リーチ) ドラ
は坂本の現物だがテンパイ打牌のが危険牌だからリーチなのか?あるいはラス目だからリーチなのか?否、待ちに絶対の自信があるならピンフのみでもリーチ(実際は5枚山)。これが水巻の麻雀。
それぞれの400mの走り方が垣間見えた一局であった。この局の結果を一応記すと、坂本が一発でをつかみ裏ドラがで8000。しかし坂本の表情は変わらない。いや、むしろ放銃するたびに生気を増したような顔つきになっているように思えた。
南3局 東家から坂本18000 水巻24600 浜崎37100 河野40300
今度は河野が走り方をみせる。
ツモ 打(リーチ) ドラ
8巡目に役ありを先制リーチ。直前にが水巻にツモぎられたばかりだが、(トップ目とはいえ)ここでヤミにして1300を拾っているようでは400mは走りきれない。すぐに二人に追いかけられ結局あがりきるのだが、最後までサバサバした表情が印象的であった。仮に放銃していたとしても、きっと同じ表情だったのだろう。
南4局 東家から水巻18400 浜崎37100 河野47500 坂本17000
浜崎に危うさを感じた一局。
4巡目にテンパイ
ツモ ドラ
「無邪気」なら即リーか?うまく打つなら打か?と思ってみていると打のヤミテン。そして次巡ツモで空ぎりリーチ。これは一体何なのか?これも「無邪気」というのなら何でも良いことになってしまわないか?仮にのであがりの期待を少し高めたとして(この猛者相手にその期待すら甘いとは思うが)、それがこの局面で何の意味を持つのか?たまたま河野からでて同点トップ?それよりも裏1を前提としたハネツモの手順をふんで欲しかった。即ち、メンピンドラ2を目指すか、そうでなければ即リーして欲しかった。ドラをツモったことや裏ドラがのらなかったことは結果論として、筆者なりに理解しようとしてきた浜崎の「無邪気」な走り方がここへきて急に分からなくなってしまった。
●1回戦終了
1着 河野 +30.5
2着 浜崎 +20.1
3着 坂本 △20.0
4着 水巻 △30.6
◇2回戦 起家から河野-坂本-浜崎-水巻
東1局
西家浜崎が3巡目に恒例行事。
ポン 打 ドラ
南家坂本がドラ2とはいえまだ手バラからをかぶせると、北家水巻は丁寧にドラのをおさえきって12巡目にチートイツドラ単騎リーチ。同巡に浜崎が見事にあがりきるのだが、筆者には200m走と勘違いしてラストスパートを始めてしまったランナーのようにも見え始めていた。
ポン ツモ ドラ
東3局
はじめにテンパイしたのは9巡目東家浜崎。
ツモ 打 ドラ
ここは冷静にヤミテン。これがあがれず手変わりもしないまま、13巡目に南家水巻が追いつく。
ツモ 打(リーチ) ドラ
このリーチにたどり着くまでの手順が素晴らしい。9巡目に
ツモ ドラ
から目一杯に構えて2枚ぎれのをきるが、同巡河野の少考後の打をみると、次巡ひいた2枚ぎれのは残して河野に危なくかつ横伸びの期待も薄いとみた2枚ぎれのを先に処理。イーシャンテンでまた目一杯に構え直し、を先ぎりしていたこともあってツモでペンチャン待ちながら即リーチ。
直後の西家河野
ツモ ドラ
浜崎と水巻の当たり牌であるをアンコにしてテンパイ。は水巻が先に処理したを含め3枚2枚きられている。は生牌では1枚ぎれ。じっと河を睨んだ河野の選択は打のシャンポンリーチ。筆者はこの選択を待ちの枚数や打点などの分かりやすい理由で安易に語る気は無い。まだ先にあるゴールを見据え、どの牌であがりを逃したらあるいは放銃したら後悔するかなどを考えた末の決断だったのではないかと推測する。結果は水巻が一発でをつかんで裏ドラはのらず6400の放銃となった。
東4局 東家から水巻21300 河野40800 坂本25800 浜崎32100
5巡目、初めて浜崎の2鳴きを見る。しかも同巡2鳴き。
ポン 打 ドラ
この超好形イーシャンテンで1枚目はさすがにスルーしたが、続けてきられた2枚目は鳴いてホンイツにはいかずに打でドラ筋の待ち。まだ高打点に固執する段階では無いという判断か?浜崎の2鳴きは逆に早い、だけど確実に安い。浜崎のあがり形をみて頷いていた河野の表情がそう語っているように見えた。
南1局 東家から河野40800 坂本24500 浜崎33400 水巻21300
5巡目の西家浜崎
ツモ ドラ
ここまでの捨て牌
東家河野
南家坂本
西家浜崎
北家水巻
ここからノータイムでのトイツ落とし。明らかに早いのは河野。そして放銃したくない相手も河野。やはり見えている。
8巡目に河野がリーチ。
ツモ 打(リーチ) ドラ
予定通りのトイツ落としでまわる浜崎、しかし13巡目
ツモ ドラ
前巡に現物のまで打ってをとめたがをひいてテンパイしてしまっては南場の1枚ぎれのはとめられないだろう。ましてやが4枚見えてにも期待がもてる状況。裏ドラがで7700の放銃。私のノートには”素晴らしい放銃”とある。が、意外にも対局後のインタビューで本人が反省していたのがこの放銃。・・・さすがにそれは放銃という結果に囚われすぎてはいないだろうか?このを打つに至るまでの過程は完璧だったのではないだろうか?そしてこのを押せずにであがりを逃す方がよっぽど後悔しないだろうか? そしてさらにいうならば、当たり前のようにを1鳴きせず、この手を7700に仕上げた河野の走り方を褒めるべきなのであろう。
河野がこの後さらに連荘して断トツになると、この半荘は2着争いの様相を呈する。南3局に水巻が浜崎から8000をあがり、一歩抜け出した状態で最後の親番を迎える。
南4局1本場 東家から水巻31600 河野59400 坂本20800 浜崎8200
西家坂本が8巡目にリーチ。
ツモ 打(リーチ) ドラ
ここまでの捨て牌
東家水巻
南家河野
西家坂本 (リーチ)
北家浜崎
9巡目の南家河野
ツモ ドラ
ここから一発目に無筋の打。この局マークすべきは2着目でかつ早そうな東家水巻。ならば自身も手を進めつつ押し出された牌で坂本に放銃する分には悪くない。この後無筋のも押し、水巻もまっすぐきているのをみた15巡目
ツモ ドラ
ここから無筋の打ドラ。その2巡後にをひいてテンパイするがは水巻にも危ないので打たずにそのままをツモぎるというバランス。素点も重要なこのルールにおいて打が得なのかは筆者にはまだ分からないが、ゴールを見据えた意志のある押し引きであることは間違いない。それにしても、好配牌をもらってまっすぐいったにも関わらずテンパイしなかった水巻の苦しさが印象に残ったが、12巡目に北家浜崎がきった4枚目のを一瞥もせずチー形テンを見送ったのには強い意志を感じた。
●2回戦終了(カッコ内はトータル)
1着 河野 +43.4 (+73.9)
2着 水巻 +5.6 (△25.0)
3着 坂本 △12.2 (△32.2)
4着 浜崎 △37.8 (△17.7)
河野の連勝により後が無くなった三者。トップラスでも順位点では30ポイントしか変わらないRMUルールにおいて、下位三者はどのような意識で3回戦に臨むべきなのか?河野の素点を削って自分の素点を稼ぎたいのは当たり前として、うまく三人で河野を封じ込める展開に持っていけるものなのだろうか?カメラのバッテリー交換により少し長めにとられたインターバルで筆者もそしておそらく各選手も今後の走り方を考えていたに違いない。
◇3回戦 起家から浜崎-水巻-河野-坂本
東1局
まず感じたのは南家水巻の打牌の速さ。2回戦までとは明らかにテンションが違う。何かがふっきれたような、そして何かを訴えるような秘めた気合いが伝わってくる。
東家浜崎が8巡目に先制リーチ。
ツモ 打(リーチ) ドラ
前巡にドラのをきっており、他家も心の準備はできていたか。
同巡の水巻
ツモ ドラ
ほんの少し考えたが純粋な待ちならとのきり順が逆だろうと読んでかを押す。その後ドラの、無筋の、生牌のと全てツモぎり。超危険牌はきっていないとはいえ、この気合いをみせられては河野は押し返しづらいのではないか?直撃狙いの見逃しまで警戒しだすと打牌に窮するもの。この状況を三人でひたすら作り出し、ツモあがりやノーテン罰符で河野の素点を削っていければ道が見えてくるか?ちなみにこの局は浜崎がをツモり裏ドラはのらず2000オール。あがった浜崎よりも水巻の方が嬉しそうな顔をしているように見えたのは気のせいだっただろうか?
東1局 1本場
南家水巻、今度はこの配牌からピンズの山をとらえてホンイツに向かう。
ドラ
9巡目に2枚目のを仕掛けてイーシャンテン。
ポン 打 ドラ
そこに再び東家浜崎からリーチ。
ツモ 打(リーチ) ドラ
その2巡後に当たり牌のをつかむと今度は冷静にまわる水巻。自分が放銃したのでは河野の素点が削れない。そして浜崎がツモぎった16巡目のを再び仕掛ける。
チー ポン 打 ドラ
はリーチの現物だったので中抜きしていたが、が前巡に通ったこともあり、このフリテンを仕掛け直してギリギリまでねばる。結果はこの動きでハイテイがまわった浜崎がをツモって4000オール。おそらくこれも水巻の想定内。
東1局2本場
最初の山場がこの局だったように思う。まず5巡目に西家河野が仕掛ける。
ポン 打 ドラ
焦りでも何でもなく普通のポンシャンテン。ももほぼ安全牌で守備に不安も無い。しかしその動きでを喰い流しそれをカンした東家浜崎が次巡リーチ。
アンカン ツモ 打(リーチ) ドラ カンドラ
即撤退した河野を尻目に真っ向勝負の南家水巻
ドラ カンドラ
ここからと無筋を連打し、13巡目にをひいて打リーチ
直後の河野
ポン ツモ ドラ カンドラ
安全牌でまわりながらテンパイ復活。浜崎にが通ったので直前にをきったのだが、水巻にはが通っていない。じっと河をみつめる河野。
浜崎
水巻
二人の共通安全牌は無い。安易に二人の筋を追うとで浜崎に放銃となるところだったが、ここは水巻には打っても良いと打。すると浜崎がをつかみなんと河野のあがり。
ポン ロン ドラ カンドラ
三者の心の折れる音が聞こえた気がした。ここ数局の水巻の気合いが少しだけ河野を追い詰めたが、あの一発目のでロンと言えない日は大逆転は難しいということなのだろうか。
東2局 東家から水巻22900 河野28500 坂本23900 浜崎44700
2巡目の西家坂本
ドラ
既には2枚きられており、も2枚目がきられるがこれをスルー。安く場が流れるのは河野が喜ぶだけ。この後この手を丁寧にチートイツに仕上げて13巡目にリーチ。
ツモ 打(リーチ) ドラ カンドラ
は1枚ぎれ。河もチートイツには見えない。河野からでてくれ、そんな声が聞こえてきそうだったが、をアンカンしてこちらも待った無しのイーシャンテンだった浜崎が一発で打って裏ドラものって16000。坂本が河野を追う一番手に躍り出る。
東4局 東家から坂本38800 浜崎27700 水巻25900 河野28500
3巡目の北家河野
ツモ ドラ
決めにいく打。2巡後をひいてリーチ。
同巡の東家坂本
ツモ ドラ
こちらも無筋のをきって真っ向勝負。その後と押す。するとそのでとまったのが南家浜崎
ドラ
これをチーして打で河野に放銃となってしまう。河野のリーチをさばく意図は分かるが、トイツ落としのしかも断トツ河野のリーチにドラ表の愚形待ちは考えづらかったのではないだろうか? 強豪相手との真剣勝負で体力を消耗していたのかもしれない。筆者の脳裏にはラストスパートに失敗して足が止まりだしたランナーが思い浮かんでいた。
ここから浜崎の放銃が続いてしまう。
南1局1本場
南家水巻 チー ロン ドラ
南3局1本場
南家坂本 ロン ドラ
南4局2本場
西家水巻 リーチロン ドラ 裏ドラ
いずれも優勝するためにリスクを承知で攻めていった結果であろう。猛者三人を相手に大舞台で戦った経験は必ずや今後の糧になる。今後もその鋭い河読みや仕掛け、形テンどりなど個性あふれる麻雀を磨いて、一回り大きくなってこの舞台に返ってきてほしいと筆者は思った。
●3回戦終了(カッコ内はトータル)
1着 坂本 +35.2 (+3.0)
2着 水巻 +6.7 (△18.3)
3着 河野 △6.3 (+67.6)
4着 浜崎 △35.6 (△53.3)
水巻の気合いで始まった半荘だったが、いつのまにか坂本の気合いが対局室内を席巻していた。南3局河野の親リーにバック仕掛けで全ツして二人テンパイで終了した局。
南家坂本 ポンドラ
南4局1本場水巻のリーチに押しきって最終手番でチートイツをテンパイして連荘に持ち込んだ局。
東家坂本 ドラ
1回戦にしっかり放銃することで助走をしていた坂本がここにきてトップスピードにのったように筆者は感じた。それでも河野との差はまだ64.6ポイントもある。ゴールまでに河野を捉え抜き去ることができるのか・・・?
◇4回戦 起家から浜崎-河野-水巻-坂本
東1局
南家河野の配牌
ドラ
ここからツモ、ポン、ツモで3巡目にテンパイ。
ポン ドラ
河野、ラストスパートか?5巡目に水巻が追いつく。
ツモ ドラ
あがれないテンパイはいらないと打。次巡ツモで打のヤミテン。形が変わらないまま9巡目
ツモ 打(リーチ) ドラ
これが水巻の巡目バランス、勝負勘。紛れてくれ・・・。
水巻の捨て牌
(リーチ)
直後の河野、ぎりリーチには一発で押したがその次の無筋のでのアンコに手がかかる。対局後のインタビューで本人が真っ先にあげた反省点がこれ。水巻には打っても良いからまっすぐいくべきだった・・・。その2巡後に水巻の河に置かれたは結果論では無い。河野のラストスパートを水巻が食い止めた。
東1局1本場
6巡目の北家坂本
ツモ 打 ドラ
ここまでの捨て牌
東家浜崎
南家河野
西家水巻
北家坂本
前巡はまだ形が不安定だったため安全牌のを残してペンチャンを払う打。ここまでは良い。そこにをひいてターツが揃ったのならばここは目一杯に構えて打ではなかったか?当たり前のように打とペンチャン処理を完了させたのだが、雀頭がネックのこの手牌でを抱える速度のロスは大きいのではないか?そして何よりも目一杯あがりに向かうべき局面では無かったか?ここでをきるからには、”早くてかつが当たりそうな人がいる、もしくはが山にいない”という読みが絶対条件になると筆者は思うのだがそこまでの読みがあったか?坂本の雀力の高さも筆者自身の未熟さも知りつつあえて問題提起をするとすれば、牌姿や局面に応じた臨機応変な余剰牌の選択にさらなる雀力向上の余地が残されているように筆者は感じた。
なお、この局の結果は西家水巻のリーチに1枚押した坂本のツモあがり。
ツモ ドラ
東2局
西家坂本、5巡目の手牌
ドラ
とは生牌。ここで上家の南家水巻が2枚目のをポンして打ったをチーしてテンパイをとり、水巻が打ったを見逃した後、河野からので5200直撃。「坂本してやったりの図」かと思いきや、対局後のインタビューで本人が唯一あげた反省点がこれ。「あのチーを後悔している。普段はチーテンをとるがこういう条件戦ではとるべきでは無かった。河野さんにハネマン親被りさせるチャンスを自ら潰してしまった・・・。」坂本が目指す麻雀はどこまでも清く気高い。その頂きを目指す坂本を心から応援していきたいと筆者は思った。
東3局 東家から水巻27900 坂本38500 浜崎28900 河野24700
南家坂本、15巡目
リーチツモ ドラ 裏ドラ
このハネツモで4回戦開始前に64.6ポイントあった差がトップラスの順位点込みで5.8ポイント差まで縮まる。坂本がついに河野の背中を捉える。
東4局 ドラ 東家から坂本50500 浜崎25900 河野21700 水巻21900
4人テンパイで流局
東家坂本 チー
南家浜崎 ポン
西家河野
北家水巻 チー
二人のデッドヒートに注目が集まる中、浜崎と水巻が最後まで走りきろうとする姿もまた美しかった。
南2局3本場 東家から河野20700 水巻24900 坂本49500 浜崎24900
流局が続いて迎えた河野の親番、18巡目
リーチツモ ドラ 裏ドラ
この2000オールで河野が半荘の2着目に浮上し、順位点込みで35.0ポイント差まで広がる。河野が追いすがる坂本を振り払う。
南3局1本場 東家から水巻27900 坂本44500 浜崎20900 河野25700 供託1000
北家河野、6巡目
ツモ 打(リーチ) ドラ
三色イーシャンテンの坂本がをつかみ裏ドラはのらず1300。さあゴールは目の前だ・・・。
南4局 東家から坂本42900 浜崎20900 河野28300 水巻27900
浜崎と水巻がおそらくあがりにこないであろうことを考えると、河野は終わらせれば優勝。坂本は連荘あるのみ。
坂本の配牌
打 ドラ
河野の配牌
ツモ 打 ドラ
坂本の2巡目
ツモ ドラ
少考後、打。坂本の吐息が強まる。なりふり構わず全力で河野を追いかける。
河野の2巡目、ツモぎり。
坂本の3巡目
ツモ 打 ドラ
吐息がさらに強まっていく。河に並んだをみて河野は何を思ったか?
河野の3巡目
ツモ ドラ
坂本の気配を感じつつも、こちらも目一杯で打。
4巡目は坂本が、河野がをツモぎり。
坂本の5巡目
ツモ 打(リーチ) ドラ
坂本の捨て牌
(リーチ)
河野の5巡目
ツモ ドラ
はのワンチャンスではあったが、さして迷う様子も無く筋ので一発放銃、裏ドラはのらず7700。開けられた手牌を見て落ち着いた素振りで点棒を払った後、ちらっと点数表を確認した。河野が半荘のラス目に落ち、順位点込みで4.6ポイント差まで縮まる。坂本、驚異のラストスパート。
南4局1本場 東家から坂本50600 浜崎20900 河野20600 水巻27900
河野は終わらせれば優勝。坂本は4.6差を追いかける。
必死に終わらせにいく河野が6巡目に仕掛ける。
ポン 打 ドラ
しかし、その直後の坂本
ツモ ドラ
この4000オールで一気に河野を抜き去り、トップラスの順位点込みで逆に河野に11.8ポイント差をつける。
南4局2本場 東家から坂本62900 浜崎16800 河野16500 水巻23800
条件が複雑になり、局の開始前に選手同士で声を掛け合う。フェアプレー精神が心地よく、同じ対局室で同じ空気を感じている幸せを思った。11.8ポイント差ということは、河野は1着順あげれば1.8ポイント差をつめればよく、脇からの1000以外はあがれば優勝。ノーテン罰符でも変わる点差である。つまり坂本はまだ伏せられない。
坂本の10巡目
ツモ 打(リーチ) ドラ
前巡をツモぎっており、それに呼応するツモを受けて気合いのリーチ。
次巡の河野
ツモ ドラ
は坂本の現物ということもあり3枚河に見えている。は生牌。坂本はときったリーチでいかにもは危なそうではあるが、はダブルワンチャンスの上、2度受けを嫌うならのきり順のはずという読みもあったか?河野の選択は打のモロヒリーチ。で坂本に放銃するリスクより、脇の手詰まりによるであがりの若干の可能性を優先した。
しかし、浜崎も水巻もだけは絶対に打たない。手詰まっても後筋でしのいでいた二人だったが、水巻の16巡目、ついに完全に手詰まる。
ツモ ドラ
ここまでの捨て牌
坂本
河野
とがワンチャンス。坂本に打つ分にはまだ勝負は決まらない・・・。水巻の選択は河野の現物でワンチャンスの打。坂本の手牌が開かれ、裏ドラがで5800は6400プラス河野のリーチ棒の収入。
こんなに人を魅了する放銃も珍しい。しかもタイトル戦決勝で目無しの選手が親リーにリャンメン待ちを打ったにも関わらずである。この決勝を通して実は一番ミスが少なかったのが水巻であったと筆者は思う。手牌に恵まれずミスをするような局面すら少なかったこともあるが、誤解を恐れずに言えば、この日一番走るフォームが美しかったのが水巻であった。今後もその美しく格好良い麻雀で我々ファンを魅了し続けて欲しい。
しかしながら、この決勝は走るフォームの美しさを競っているわけでは無い。どんなに必死でも不格好でも良い。先にゴールに辿り着くのは一体どっちだ・・・?
南4局3本場 東家から坂本70300 浜崎16800 河野15500 水巻17400
トップラスの順位点込みで20.2ポイント差に広がりはしたが、ことはそう単純では無い。水巻が放銃したため河野は単独2着になれば優勝。ノーテン罰符でも変わる点差であり、坂本はまだ伏せられない。
9巡目の坂本
ツモ 打(リーチ) ドラ
同巡の河野
ツモ ドラ
まず無筋のを押す。次巡の河野
ツモ ドラ
場を見渡すとは1枚ぎれでは生牌。坂本にはもも通っていない。は前巡通したがは本命であるし何より受け入れが狭まるのでソーズを外す選択は無いだろう。河野の選択は打。がワンチャンスであることを考えるとという選択もありえたが、河野にを選ばせた理由は待ち読みというよりはおそらく純粋なテンパイ効率。この局面でそれができるか・・・?河野の豪の部分はこのギリギリの状況で、逃げずに、そして普段通りでもなく、普段よりも一歩踏み込んだ選択をできるところにあると筆者は感じた。最終手番で坂本の当たり牌のをアンコにして二人テンパイに持ち込んだ姿に筆者は震えた。
河野最終形
このノーテン罰符で半荘の2着目に浮上した河野が0.8ポイント坂本をかわし返す。
南4局4本場 東家から坂本70800 浜崎15300 河野17000 水巻15900 供託1000
河野は終わらせれば優勝。坂本はまず0.8差を逆転すること。
15巡目の坂本
ツモ 打 ドラ
ここはヤミテンを選択。どちらにしろもう脇からはでないが、河野から2900は4100を直撃できれば次は伏せられるという判断か?あるいは流局した時の供託分1.0ポイントの差を考えたか?結局一人テンパイで流局。再び坂本が3.2ポイント河野をかわし返す。
南4局5本場 東家から坂本73800 浜崎14300 河野16000 水巻14900 供託1000
刻一刻と変わる条件を皆で都度確認しあう。3.2ポイント差で5本場供託1本ということは河野はあがれば優勝。「だけど河野さんがリーチをしたら坂本さんは伏せられますね。」言おうとしてやめた。3.2ポイント差なら当たり前のこと。筆者の言葉が何かに作用してしまうことを恐れた。
河野、8巡目
ツモ ドラ
は生牌、水巻がを3枚きっているが場況が良いといえるのか?分からない。一度を打つか?あるいはテンパイをとるか?テンパイをとったとしてリーチをするのか?
少考の末の河野の決断は打即リーチ。実はこの時点では4枚山。西家河野のツモは後9回。この時点で伏せられていた牌は52枚あり、単純計算で河野が終局までにをツモる確率は54.4%
15巡目、坂本も安全牌をきりつつフリテンでテンパり返す。
ドラ
次巡ツモったらあがるのか?伏せに向かうのか?そんな迷いもむなしく同巡ついに決着の時。
15巡目河野 リーチツモ ドラ 裏ドラ
●4回戦終了(カッコ内はトータル)
1着 坂本 +54.3 (+57.3)
2着 河野 +1.5 (+69.1)
3着 水巻 △22.6 (△40.9)
4着 浜崎 △33.2 (△86.5)
第8期RMUクラウン優勝は河野高志。
この日、河野が誰よりも優れていたのは実は河野の静の部分である繊細さだったと筆者は思う。途中からずっと追われる立場だったこともあるが、例えば浜崎の奇抜な仕掛けや手出しに的確に対応しつづけたことや、常にアシストや放銃しても良い相手を選定しながら(他人を利用しながら)打っていた点などがあげられる。まさに河野の静と豪の部分が両方とも遺憾なく発揮された優勝ではなかったか。「最後はリーチしない方が得だよね。」終了後すぐにそう言ってクシャッと笑った河野をますます好きになった。
(文中敬称略 文責 菊池一隆)
|