2009ジュピターカップ観戦記

10月25日スプリントトライアル第5戦、ジュピターカップが開催された。朝からあいにくの雨模様にも関わらず68名参加の大盛況となり、外の寒さとは無縁の熱い戦いが繰り広げられた。

予選5半荘を終えて、以下の4名の選手が決勝へと進出する。

1位通過 水沼利晃(RMU会員)

予選では、持ち前の攻撃力でライセンスプロを圧倒し、トップ通過で決勝進出を決めた。昨年のマーズカップ決勝では、南場まではトップを走っていたが、親に痛恨の役満放銃。あと一歩の所で優勝には手が届かなかった。決戦を前に一番闘志が滲み出ていたのも、水沼選手だったように見える。悲願の初制覇なるか。

2位通過 山下健治(RMUアスリート)

前年度はスプリントファイナル進出、そして今年は日本プロ麻雀協会主催の日本オープン優勝と快進撃を続けた山下選手。そして、勢いそのままに2年連続のファイナル進出への切符を手に出来るか。もはや、決勝の緊張とは無縁であろう。記憶の中にある勝利したイメージを創り上げ、独特のスタイルで突き進むのみである。

3位通過 芝美穂子(RMU会員)

競技麻雀のベテランであり、実力者である。安定した麻雀で確実にポイントを積み重ね、堂々の決勝進出となった。今大会は短いスパンで優勝者が決まる。今まで多くの大会に参加し、蓄積されてきたであろう経験値を十分に発揮してもらいたい。

4位通過  壽乃田源人(RMU B級ライセンス)

最後のイスを獲得したのはB級ライセンスの壽乃田選手。攻守の優れたスタイルで場を冷静に見渡し、好機と見れば一気に加速し場を制する。予選から随所に切れ味鋭いアガリを見せ、決勝進出となった。前回のマーズカップで優勝した藤中プロ(A級ライセンス)に続き、ジュピターカップでもライセンスプロが制するか。

ポイントでは大差がついていないので、条件はほぼトップを取った者が優勝と非常にわかりやすい。多くのギャラリーが見守る中、決勝戦がスタートした。

座順 山下-水沼-芝- 壽乃田

東1局

山下が配牌4トイツ、8巡目にはチートイツに的を絞るも、テンパイには結びつかず。芝は配牌で自風のがあったが、山下とモチモチでツモもきかない。終盤にやっと水沼、 壽乃田の2人テンパイ。静かな立ち上がりとなった。

東2局1本場
南家の芝にチャンス手が入る。配牌ドラアンコで、早々に自風のが鳴けて2巡目にはこの形。

 ポン ドラ

半荘1回勝負とはいえ、東場の満貫では決定打にはならないが、大きなアドバンテージには違いない。まだ形が整っていないが、1段目が終わるまでにターツが増えてくれれば、ドラが見えていないだけに東家も自分の手牌優先で、前に出てくるかもしれない。しかし、壽乃田の手が早く、6巡目にはテンパイ。間もなく水沼から出アガった。

 ロン ドラ 

1,000点の安手ながら、芝のチャンス手をつぶす。

東3局

まだ東場であるが、この決勝最大の山場が訪れる。この局を制した者が優勝してもおかしくなかった程であった。まずは、親の芝。

 ドラ

これが配牌である。先ほどチャンス手を潰されたばかりだが、それを上回る手を親で持ってきた。打とし、早くもイーシャンテン。

北家の水沼にも。

 ドラ 

この配牌にツモがと来て3巡目には

 ドラ 

メンホンチートイツのイーシャンテンとなる。
西家の壽乃田は、ツモがきいて5巡目に。

 ドラ 

ドラトイツのリャンメン形が残っている2シャンテン。ドラが叩ければ早そうだが、現状では水沼の手が進めば出てくるか、といった所。

芝の6巡目、シャンテン数こそ変わっていないが  

 ドラ

カンチャンターツを処理して、好形になっている。芝の目からはが場に4枚見えており、待ちが強い。一刻も早く三色確定のを引いてテンパイしたい。

山下は1人出遅れた感があるが、三色も見えるイーシャンテンに。

 ドラ 

だが、実際にはは枯れており厳しそうだ。しかも、次のツモがドラの

「ここは我慢の局か」

そんな山下の心の声が聞こえてきそうである。まだ東3局。あせる必要はないだろう。
10巡目芝が、打
この時の水沼の手牌、

 ドラ

1枚目のはスルーしている。最初の分岐点だ。この手は鳴く人、鳴かない人に分かれるのではないか。  
 鳴くことによって、ポン材が増えて手の進行が早くなる。しかし点数を落とし、テンパイ時の打牌がドラのということで、高いリスクも伴う。

一方鳴かなければ、高得点のメンホンチートイツ1シャンテンを維持しながら、手が進まなければのトイツ落としやピンズの上も比較的安全ということもあり、ディフェンスにも優れている。しかし、手がほぼチートイツに限定されてしまい、受け入れが狭い。

水沼の選択はポンとし、打

この動きにより、芝の待ち焦がれていたは水沼の元に。そのをアンコにした水沼。テンパイ打牌はドラの

このドラを待ってましたと言わんばかりに壽乃田がポンして打とし、テンパイ。

 ポン ドラ

するとその後、水沼にさらなる分岐となるツモが来る。

  ツモ

が場に1枚。が場に2枚。枚数としては、の方が優秀だが、の所在が見えないので、実際大差はないかもしれない。打なら満貫確定、ツモれば三アンコもついてハネ満まである。手牌も縦寄りなので、最後まで縦に受けたくなるものだが…。水沼の手が止まった。やがて、水沼の手が動き選んだのは打。トイトイには受けず、ツモ切りを選択。決着はすぐに訪れた。力強く置かれた牌はだ。

 ポン ツモ ドラ

「優勝できると意識した場面は?」
「東3局のホンイツで、受け間違いなくアガれた所です。本当に苦しかったので、アガった自分を褒めたいです(笑)」

水沼が対局後にそう語った通り、大きな1300・2600のツモアガリだ。

東4局

山下がわずか3巡で役ありのテンパイ。手変わりも見て、ダマテンに受ける。2局連続で大物手の実らなかった芝が、今局はリーチまで持っていくが、アンカンしている壽乃田のドラツモ切りリーチの反撃に合い、裏が2枚乗り12,000の放銃。芝はかなり苦しい状況となってしまった。一方壽乃田は、持ち点を4万点台にのせて、親番継続。出来るだけリードを広げて南場を迎えたい。  
    
東4局1本場
先程の失点を取り戻したい芝は、追加点を目指す壽乃田の打をポンしてテンパイ。ドラ3の満貫手である。ここまで良い手は入っているのだが、いずれもアガリに結びつかない。この局も打が山下のカン待ちのイーペーコーに刺さって終局。

…ん?

 ポン ドラ 

はポンしているとはいえ、まだ1枚見えていない。加えてが4枚場に見えているため、危険度はの方が高い。後の引き戻し時、を打てるようにを切っておく考えもあるが、すでに局面は終盤。はまだ生きており、この先が見てみたかった。しかし、芝もここまでの展開があまりにもつらかった事もあり、そこまで責められないミスでもあった。  
    
南1局  
 ここまで我慢の展開が続いた山下に、ようやく先制できるチャンスが来る。6巡目にこの形だ。

 ドラ

のダマテンからを入れ替え、1巡回してリーチ。しかし、壽乃田に追いかけられて一発で放銃。

 ロン ドラ 

即リーチを打っていたら、壽乃田は

 ツモ 

からの選択をすることになる。親リーチに無理することなく、打を選ぶことも十分ありえる。1巡回しの是非は問わないが、今局も1巡の攻防が結果を大きく左右したようだ。

南2局

山下の最後の親番が流れ、親番を残している芝も1万点台と苦しい。水沼が追いつけるか、壽乃田がこのまま逃げ切るかという構図だ。今局親番の水沼が、2,000オールをツモってほぼ並び。

同1本場は、安目だったが、裏を1枚のせて4,100オールをツモ。予選でも見せた攻撃力を存分に発揮し、一気に壽乃田を抜き去った。

同2本場は、久々にテンパイの入った芝の宣言牌を捕らえて、さらに水沼の追加点。

同3本場では、圧巻のツモで5巡目には

 ドラ

12 巡目にドラを引き、次巡に

 ツモ ドラ 

これで打とし、ツモり四暗刻テンパイ。ツモらずともハネマン確定で、これをアガるようなら、決定打になり得る手だったが、流局。

同5本場、山下がツモのみながらようやく水沼の親を終わらせたが、水沼の持ち点は6万点を超えていた。

南3局は水沼のリーチに対し、壽乃田が一発で放銃し、5,200。当面の相手である壽乃田からの直撃に水沼は確かな手ごたえを感じていた。

オーラス親番を残している壽乃田だが、素点の34,800点に加え、決勝開始時に若干のポイント差があっため、水沼が2着ならば約4万点差をひっくり返さなければならない。親満を2回ツモっても足りないが、不可能なわけではない。当然最後まで食らいつきアガリを目指す。しかし水沼が  

 ツモ ドラ 

このタンヤオを引きアガリ、自らの手で決着。

終わって見れば、水沼の圧勝という形に終わった。

水沼「南3局に 壽乃田プロから直撃できて、精神的にもすごく楽になった。昨年のマーズカップの雪辱を晴らし、優勝出来たことに今はすごく嬉しいし、ホッとしています。スプリントファイナルでも良い牌譜を残したいし、それに向けて今から一生懸命頑張ります!」

謙虚な水沼が、興奮気味に優勝コメントを語ってくれた。本当に嬉しそうなので、インタビューをした筆者も観戦記者をやってよかったなと本当に思った。

水沼が勝因として語ってくれた東3局のホンイツ。 しかし、芝がテンパイまで白を引っ張っていたら…。水沼が危険牌のドラを先切りしていたら…。芝・ 壽乃田両者にも、アガリの可能性があった。改めて1巡の重み、1打の重さを思い知らされた。

自分にも「人事ではないぞ。悔いの残らない牌を打てよ」と言い聞かせ、日々の対局を大事にしていきたい。  
    

(文中敬称略 文責・江原 翔)