RMUリーグ第5節

9月17日、RMUリーグ第5節が麻雀柳勝どき店にて行われた。
前節ではハネマンやマンガンが飛びかう乱打戦を、スルスルと抜け出した阿部が、ポイントを加算し、トータル2位の土田にマイナスを押し付けて、首位の座を確固たるものにしたように見えた。
しかし、当然のことながら、4節終了後のコメントを聞く限り、諦めている者は一人もいない。追われる者にかかる重圧を阿部以外の4者も長い競技経験の中で良く知っているのだろう。もう一波乱も二波乱もあることが容易に想像できた。
全10節で行われるRMUリーグ。ターニングポイントになる第5節、各選手の対局前のコメントをトータルポイントと共に紹介しよう。

阿部孝則(+182.1)
「ここ数ヶ月、自分の麻雀が変わってきているのがはっきりわかる。この相手に進化している麻雀でぶつかっていきたい。」

土田浩翔(+59.1)
「集中はできているんだけど、大事な局面でうっかりがある。『手牌13枚』を視界に捕らえながら打つ。」

多井隆晴(▲21.1)
「最近、強くなるために麻雀以外のことに目を向けている。例えばマリナーズイチローの『ヒットを打つコツは自分からは動かないこと』という言葉の意味を考え、目先の点棒だけのアガリを拾わないような懐の深い麻雀を打ちたい。」

河野高志(▲59.5)
「2節連続のマイナス。モチベーション、集中力を切らしたら、ずるずると行ってしまいそう。それを念頭に戦う。」

古久根英孝(▲191.6)
「とうとう5節まできた。これまでの敗因は見えているが、どうもミスが多すぎる。自分が考える麻雀プロの存在意義として、たとえ一局でも良い牌譜を残したい。」

前節も思ったことだが、各選手のコメントは成績云々で語られることが少ない。その比重は、いかに集中して自分本来の麻雀を打ち切れるかに重きを置かれる。
それはこれまで培ってきた理念や思想に対する自信の表れでもあると思う。
『自分の麻雀さえ打つことが出来れば、結果はおのずとついてくる』そう読み取ってしまうのは、私だけだろうか。

1回戦

起親から古久根、河野、多井、土田(抜け番、阿部)

東1局 ドラ

緒戦1局目から、早くも手がぶつかる。
最初のテンパイは土田。5巡目にドラを引き込んでの仮テン。

テンパイ打牌はである。後のリャンメン変化を考えれば、単騎の方が優秀なのでは?と思っていると、同巡古久根がを掴む。その時の牌姿がこう。

 ツモ

ツモ切りもあるかと思ったが、古久根の選択は打。この時点では山に0枚。土田に手変わりがなければかなり危険だ。と同時に仮テンとはいえ、土田の単騎選択の精度の高さを感じた。
土田は7巡目のツモで、に待ち変え。しかし理想はピンズの多面チャンか、ダマテン続行。

親の古久根は10巡目上家土田が切ったをスルー。

次巡ツモで、打のリーチ。
対局終了後古久根はこの選択を一番悔やんでいた。
結果論ではなく、打のダマテンか打のダマテン。この二つが最良の選択だったのではないか。そう語った。
親、リャンメン、ドラ待ち、役なし。特殊な状況下でなければ、リーチがマジョリティだと思う。を鳴かずに入ったメンゼンテンパイでもあるし、私であれば挨拶代わりと迷わずリーチを打つであろう。
ドラアンコの土田は親のリーチくらいでは止まらない。
しかし13巡目、西家多井からも火の手があがる。

高目のを引き込んでの追っかけだ。
もちろん土田は攻める。14巡目無筋のをノータイムでツモ切ったとき、古久根の表情が少し曇ったのがわかった。
結果は古久根がを掴んで、多井への放銃となった。
メンタンピン三色イーペーコー。
華麗な手で混戦の東1局を制した多井。これ以上ない立ち上がりだった。
そう時間の経たない数局後に起こる災厄を、まだ誰も知らない。

東2局は親の河野がドラとションパイののシャンポンを冷静にダマテンにし、多井からロン。

 ドラ ロン

放銃した多井は、

と、またもタンピン三色のテンパイ。
リーチなら、河野もリーチときた可能性も高いので、ダマテン選択は正しかったが、自分も本手だっただけに、この7700は思いのほかダメージがあったのではないか。
次局は土田のメンタンピンリーチに3者が対応して、土田の一人テンパイ。
親を迎えた多井は河野とのリーチ合戦を制し、2000は2200オール。リーチ棒2本付きで、失点を挽回する。

 ツモ ドラ

そして迎えた東3局3本場、RMUリーグ4度目の事件が起きる。
ドラはで4者の配牌はこう。

東家多井

南家土田

西家古久根

北家河野

これだけを見ると、誰がどういう役満をアガるのかわからない。
結論から言うと、土田が四暗刻単騎を多井からアガるのだが、土田のツモ筋に眠っている牌はやはり異端としか表現できない。2トイツの配牌を11巡でスッタンにする能力は、トイツ王国の王子に与えられた特権なのだろうか?

好配牌をもらったのは、親の多井。形は悪いながらも3巡目にはイーシャンテン。連続形も多く、好形変化の種も豊富だ。

面白いのは、西家古久根の5巡目

 ツモ

ここからメンツ手を見切る打
目論見通りを重ねて、チートイツイーシャンテン。
そして主役の土田は上記の配牌に

とツモって、

の四暗刻イーシャンテンとなる。10枚中6枚が有効牌である。四暗刻の有効牌となると、4種ないし5種程度だから、これは驚異のツモだ。
そして11巡目あっさりとを引き単騎選択。
東も中も共にションパイ。判断材料はないように見える。
しかし土田はほぼノータイムで打とした。
親の多井が初巡からと続けて打っていて、ダブはともかく、をトイツ以上で抱えてる可能性が低いとみたようだ。
しかし、土田次巡のツモは
これは流石にショックだっただろうが、外面的には平静そのもの。
親の多井にもテンパイが入る。愚形テンパイを拒否し、辿り着いたのが以下のピンフ3メンチャン。

 ツモ

仮に先にを引くと、ピンフ三色になるが、は土田に6枚、古久根に1枚でほぼ純カラ。の縦重なりでマンズの3メンチャンがベストのように思える。現には山に5枚残っている。
ピンフのみだが連チャン中の親、多井の決断はリーチ。
決着はすぐについた。多井の一発目のツモは
土田が静かに手を倒した。

 ロン ドラ

例えば、多井がダマテンを選択した時に、果たしてを止めることができたのだろうか。
いやそれより、多井のリーチ後にチートイテンパイの古久根が掴んだ。土田の現物であるこの牌で1500点の決着はなかっただろうか。
対局終了後、多井はこのリーチを敗着の一つに挙げた。
に自信がありすぎて、不穏な雰囲気を感じられなかった。」
油断や過信があったとは思えないが、土田がドラのを切った後にを手出ししたことにもっと対応できていれば、結果は変わっていたのかもしれない。
その後もアガりを重ねて、土田は7万点オーバーのトップとなり、トータルポイントでも阿部に肉薄した。

1回戦結果
土田+63.0
河野▲1.1
古久根▲18.3
多井▲43.6

2回戦

 起家から、阿部、多井、河野、古久根(抜け番、土田)

東1局 親阿部 ドラ

古久根がと仕掛けて、ホンイツのテンパイ

   

この仕掛けに3者とも対応して、古久根の一人テンパイ。

東2局1本場
親の多井が4巡目に先制リーチ。

 ドラ

親のメンピンのみ。手役だけ見れば、先程の役満放銃の時と同じである。
ただ、相違点はたくさんある。まず巡目が圧倒的に早いこと。相手に真っ直ぐな手組みをさせない点において、他家に手が入ってからのリーチとは全く効果が違ってくる。
テンパイとらずを何度かしていた前回と違って、カンを引いて端にかかるリャンメンテンパイを迷わずに取れる点。それらを総合すれば、間違いなくリーチに分がある。
構想通りかツモ裏1の2600オール。
前半荘を払拭する上でも、この裏ドラ1枚はかなり重い。
続く2本場、ドラ表示牌を引き込んだ多井が手変わりを待ちダマテン。

 ドラ

三色がベターも、リャンメン手変わりなら即リーチだろうと思っていたが、古久根がピンフをツモって、親を落とす。

 ツモ ドラ

打点こそ400、700だが、東1局に続き加点できた。
古久根は前節の後半や1回戦から比べると、アガりやテンパイで押せる局面が増えてきたと感じた。
次局、今度は多井がダマテンのピンフをツモアガる。

 ツモ ドラ

子方、ドラもなし、イッツー、タンピンの手変わり。ダマにするのが基本だろう。
親の河野にもテンパイが入っていて、前局の古久根のアガりと共に、絶妙なかわし手だ。
東4局
親の古久根が淀みない手順でリーチ。

 ドラ

これに追いついたのが、ここまで静観していた南家阿部だ。
3巡目に、

 ツモ

この手牌から打とする。
形を早めに決めて、それが実らなければ受けていくという手組みなのだろうか。シンプルな形にしておいたほうが、手牌の対応力は若干下がるが、押し引きはしやすくなるかもしれない。しかし構想通り、と引き込んだ阿部の踏み込みは、ある意味上手く進行したせいで、通常よりも深くなってしまった気がする。
現物待ちとはいえ、カンで無筋を押す阿部を見て、少し違和感を感じた。
これまでの阿部ならスッと現物を抜くような姿勢で打っていたように思ったのだ。
結果は古久根への12000放銃となった。
少し気になったので、対局終了後阿部に尋ねてみると、「少し押しすぎたね。流石に現物待ちじゃなきゃオリるんだけどな」と語ってくれた。
これがトータルトップの重圧なのかはわからないが、この『らしくなさ』をこの日の阿部は最後まで払拭することが出来なかった。

東4局1本場は連チャン阻止を図る多井の仕掛けと、親古久根のリーチの戦い。
ここは多井に軍配が上がり300、500のアガりとなる。

南入し、ラス目阿部の親番。
阿部はまとまりのない配牌をチートイツでまとめにいくが、7巡目に古久根がリーチ。

 ドラ

ドラはないがラス目が親、ここはかぶせに行く。が、このリーチはすでに純カラ。
こうなると強いのはドラを持っている者か。
ドラをアンコにした多井が、現物待ちで追いつく。これをリーチの古久根から打ち取って8000のアガり。

 ドラ ロン

このアガりで親を持ってきた多井が止まらない。
いつもより若干長めの理牌を終えると、第1打が横に曲がった。

 ドラ

4巡後あっさりをツモり、ダブリーツモイーペーコーの4000オール。

1本場で1000は1100オールをツモって、持ち点は60000点を越えた。
多井は、その後は加点出来なかったものの、危なげなく立ち回って、先ほどのラスを挽回する大トップ。
古久根も南場に入り急加速。アガりを重ね、大きな2着。
トータルトップの阿部はラスに沈んだが、あの半荘はあのくらいの沈みで終われて良かったと終了後語っていた。それほどの出来の悪さを感じていたのだろう。
土田が抜け、1回戦3,4着だった、多井古久根のワンツーとなった。
この時の筆者のメモには「古久根の状態が、これまでと比べて大分良し」と書かれている。
もちろん、役満放銃後にトップを取る多井も良いのだが、このタイミングで抜け番をむかえるのが少し気になった。

2回戦結果
多井+48.4
古久根+15.2
河野▲24.4
阿部▲39.2

3回戦

起家から土田、河野、阿部、古久根

2回戦後の小休止の時、河野が「戦えてない」と呟いた。着順だけ見ると2着、3着。良くもないが、悪くもない。
つまりは手牌的にも体勢的にも3者の戦いに入り込めていないのだろう。

東1局 親土田 ドラ
河野の分岐点は7巡目

ここから打としたが、状態の悪さを考えて、チートイツの含みを残す打牌はなかっただろうか。その後のツモにがある。全部を捕まえる手順は難しいが、可能性としてはアガりまであったかもしれない。
14巡目の古久根のリーチに全員がオリにまわり、一人テンパイで流局した。
やはりかみ合わない河野の親番。
9巡目テンパイ一番乗りも、リーチには行けない。

 ドラ

さらにを2枚打たれ、暗雲が立ち込める。
ツモでシャンポンに、ツモで役アリのカンチャン待ちへと手牌が動く。
1巡回すとドラをツモり、このタイミングと意を決してツモ切りリーチと出るが、阿部の仕掛けにあっさりとかわされてしまう。
河野の苦悩はそれほどまでに根深いのか。チャンスを待っても、それらしき局面は一向にやってこないまま、歯がゆい展開が続く。

誰も抜け出せず、小場で迎えた東4局2本場、阿部に『らしくない』ミスがでる。

 ドラ

チートイツ本線も役牌2組なら仕掛けるかと思いつつ、ドラはどうするのかと見ていると、ここから2枚目のをポンして打
を切った土田の手牌が

で、ポンの打。当然といえば当然の仕掛けだ。
阿部の仕掛けもマンガンクラスだが、ドラの先切りは微妙か。ドラを切ってしまえば、はおいそれと出てくる牌ではなくなってしまうし、今局のようにポンが入れば、1対1になってしまう可能性も高い。もちろんそういった戦略もあるから、ドラ切りの是非は問い難いのも事実だ。けれど普段の阿部はこういった局面でこそ、繊細な打ち回しを見せる打ち手だ。
阿部の致命的なミスは11巡目、ツモで以下の牌姿。

  ツモ

阿部はこのをツモ切った。筆者のメモには「ツモ切り!?」と書かれている。
理想形はもちろんトイトイだ。しかしドラポンが入り、に期待が出来なくなってしまった現状、柔軟の形を残すべきではないか?
次巡ツモった、に意味を持たせろというのは結果論であり理想論なのだろうか?
阿部はこのもツモ切り、これをポンして土田にテンパイを入れてしまう。

  

脇の二人は行けるはずもなく、阿部も次巡掴んだを押せずにオリに回ってしまう。
一人旅になった土田が、をツモりマンガンのアガりとなった。
これが契機となったのかはわからないが、この後も阿部は持ち点を減らし、1回戦に続いて、連続ラスとなってしまう。

南場は土田、古久根の二人舞台。
古久根が南1局にマンガン、南2局ハネマンと連続アガりでトップ目に立つと、

   北家ドラ ロン  

 ドラ 一発ツモ

南3局には土田が、

 ドラ ツモ

テンパイ後に数巡回して、ツモ切りリーチ。こんなハネマンをあっさりツモる。
なにもリャンペーコーとはいえ、ドラ表示牌で待たなくても、チートイドラドラじゃないか、そんな声も聞こえる気がする。筆者も心のどこかで、そう思ったことを否定はしない。
けれど牌譜を検証すれば、土田のシステムがいかに堅牢で精度が高いかはっきりわかる。
テンパイ後に引いた単騎候補の中で、山に残っている枚数が1番多かったのは、紛れもなく2枚残りの、つまり全てが山に残っているだった。
オーラスに土田がアガるも古久根には届かず、古久根のトップに終わった。
この結果で、5節開始前には120ポイント近くあった、阿部と土田のトータル順位が入れ替わった。これまで危なげなく打ってきた阿部にかかっていたプレッシャーが顕在化してきているのだろうか。

3回戦結果
古久根+30.1
土田+19.1
河野▲17.9
阿部▲31.3

4回戦

起家から古久根、土田、阿部、多井(抜け番、河野)

1回戦から3回戦まで、出来が良い古久根、土田両選手に役満放銃でラスになるものの、帳消しのトップを取り、その勢いを持ち込みたい多井。不調と言ってしまうのは簡単だけれど、いまいちらしさがみられない阿部。
4回戦開始前はそんな印象を持っていた。ちょっとした思いつきで、競馬などになぞらえて、◎○▲△と印を振り分けて順位予想をメモにしてみたが、まるで見当違いの結果に終わった。4人の順位も当てることが出来ないのに、18頭も走る馬の順位なんて当たるわけないなと、心の中で呟いてみた。
話がそれたが、4回戦は土田、多井の戦いで幕を開けた。

東1局は多井が幾つかの選択肢の末に、リーチの土田から東ホンイツの5200をアガる。

  ロン

東2、3局は土田が多井から2000点、多井が土田から3900は4200と、二人で応戦する展開になる。
これに待ったをかけたのが古久根。
親の阿部が17巡目に仕掛ける。

  ドラ

親権維持、高目なら5800のテンパイで、自然な仕掛けだ。
しかし、このチーを見て土田がツモ切りリーチ

も薄いので、流局かなと思っていると、前巡テンパイを入れた、古久根がハイテイでツモアガる。

  ツモ ドラ

ツモハイテイチャンタイーペーコードラ1。
ハイテイ付きとは望外のツモであっただろうが、良いとは言えない配牌を丁寧に組み立てたからこそのアガりである。
阿部は自分のチーテンが招いたハネマンの親かぶりをどう捉えているのだろうか。
その表情は変わることなく、そこからはなにも読み取ることは出来なかった。

南1局1本場
仕掛けもリーチも入っていないフラットな局面で阿部がをポン。その発声に少し躊躇を感じたので、後ろに回ってみると、手牌はこう

 ドラ

阿部がこういう類の仕掛けをしているのを、見た記憶がほとんどない。
雰囲気で語って良いものかわからないが、姿勢や模打から、いつもと違う部分は見つけられない。それでも、どこかバランスを崩しているのだろうか。
一定以上のレベルの手合い同士で打てば、こういった仕掛けは必ず咎められる。
功を奏すことなんて、本当に万に一つくらいだと筆者は思っている。
だから、というわけではないだろうが、阿部の手は進まず、土田が大物手を炸裂させる。

 ドラ 一発ツモ

よく見る光景と言ってしまえばそれまでだが、このアガりで、ハネマンを親かぶり、初めて阿部の表情に陰が差した気がした。
 

次局は土田、阿部の二人テンパイで流局して向かえた南2局2本場。
先手を取ったのは多井。1枚目の中から積極的に仕掛けていく。を鳴いて以下の手牌。

  ドラ

ドラのポンテンやマンズの変化を考えれば、カンを嫌っていきそうな場面だが、ソウズが安く、多井の目からはが各3枚見えているという、カンは絶好の待ちである。多井の選択は打。2巡後をツモり、ドラにも対応できる形になる。その同巡、メンホンのリャンシャンテンになった古久根からあふれたドラをポンして、マンガンのテンパイ。待ちのは山に5枚生き。土田、古久根は、受け気味に打っている。これはあっさりかと思われたが、阿部が阿部らしさを取り戻す。
多井にテンパイが入った同巡、阿部にも3メンチャンのテンパイが入る。

イッツーになるは3枚切れ。マンズを引いてチンイツに行くのは、テンパイが入っているであろう多井の上家ではのんびりしすぎか。
次巡を掴んだ阿部は、打としテンパイを崩す。
多井の最終手出しは。ソウズは安いがはションパイだ。リャンメン待ちもカンチャン待ちもシャンポン待ちもありえる。良い引き際なのか。
そして11巡目阿部のツモはで再びテンパイ。

 ツモ

少考した阿部は、意を決してを横に曲げた。
一度止めた牌を切るのは、勇気のいることではある。待ちの数は倍に増えたが、は残り1枚なのだから、打点があるとは言えないし、そもそもが通る保証はない。
しかし、阿部はリーチを宣言した。一度は回った牌を、自分の待ちの良さと打点、ドラを仕掛けている多井への対応。リスクとリターンを秤にかけての決断である。前々局にを鳴くことよりも、「ドラが2枚だから鳴きました」という仕掛けよりも、余程難しい選択であったと思う。2巡後、阿部がツモアガり、大きな大きな700、1300となった。
 

アガって迎えた、阿部の親番。ここでもう1つ、2つアガりが欲しい。阿部がそう願っていたかどうかはわからないが、ドラアンコの好配牌が入る。

 ドラ

3巡目の土田の仕掛けに呼応するように、阿部も仕掛けをいれて4000オール。

   ツモ ドラ

これでトップ目に立った阿部は、親の落ちたオーラスも古久根から3900をアガる。バランスを崩したように見えた阿部だったが、見事に建て直しを図り、4回戦トップとなった。
蛇足だけれど、メモに残る戦前予想は◎土田○古久根▲多井△阿部でした。

4回戦結果
阿部+26.3
古久根+6.0
土田▲10.0
多井▲22.3

5回戦

起家から土田、河野、阿部、多井(抜け番、古久根)
東1局 ドラ
親、土田の手牌が7巡目に

 ツモ

当然打とするが、これを仕掛けたのが南家河野。

はともにションパイ。自分が知る河野はこれを仕掛けないことが多い気がする。
もちろん自身の体勢やこれまでの展開を加味した上でのことだろう。トータルトップである土田の親落としもある。多井からがあふれて、3900点。幸先の良いアガリか。
次局は河野の一人テンパイで流局。
東2局1本場では、多井が、2枚とをツモ切り、自然迷彩になったホンイツを河野からアガり返す。

   ロン ドラ

古久根の一人テンパイを挟んだ東4局1本場。
西家河野がポン、ポンと2つ仕掛けて、マンズのホンイツ。イニシアティブを取りにいく。これが効果絶大で、土田に終盤メンホンのテンパイが入るも、マンズを打ち切れずに窮屈な単騎待ち、多井もマンズを捌けずにピンフテンパイを入れるもフリテンに。
後は悠々ツモるだけ、といった感じで河野がマンガンツモ。

   ツモ ドラ

このアガリで河野の持ち点は40000点を越える。他3者は原点を割っている。抜け番を経て、戦える体勢になってきたということだろう。トップだってはっきり見える。少なくとも筆者はそう思っていた。
そんな河野に襲い掛かったのは、またしてもトイツ王国の王子様である。

南1局 ドラ

ここまでノーホーラどころか、まともなテンパイさえ入っていない親の土田。
以下の配牌から、

  ドラ

。うーん、紛れもなく王子である。
2巡目4巡目にドラを引き、5巡目にスジトイツを重ねてイーシャンテン。
一体このスピードはなんなのだろうか。
沈んでいる親番ならば、少なくともテンパイで連チャンしたいという思考が一般的だろう。そう考える打ち手は、第1打にリャンメンターツを切ることはない。トイツ場ならば、チートイツの進行が早くなるのは理解できるが、はっきりとトイツ場とわかるような場況も出来あがっていない第1打に、つまり配牌を見て、その匂いを嗅ぎ取っているのだ。例えばソウズのの部分。このようなところからヒントを得ているのかなと予測するくらいが、普通の国に暮らす筆者には、今のところ限界である。
さすがの土田もイーシャンテンからは、そう簡単にはテンパイしない。受け入れの種類は僅か3種。チートイツを作る時に山読みはしないと公言している土田は、自ら構築したシステムに合致する牌を探す。
テンパイは15巡目。

 ツモ

は場に1枚、は0枚。ソウズの上が若干ではあるが安く見える。
チートイイーシャンテン時には常にリーチに行ける3枚を残す。
システムと言って良いのかはわからないが、土田の基本理念の一つである。
土田の結論は単騎。
記者の特権を利用して、全員の手牌を見て回り驚愕した。
誰一人として、を使っている人間はいなかったのだ。さらに驚くべきは宣言牌のさえ、誰も使っていなかった。確かに精度は高い。ただそういう事象とは別次元のなにかを感じてしまう。
「宙をみて打つ」言うは易し、行うは難し。である。
土田がテンパイする2巡前、多井にタンピンドラ1のテンパイが入る。微差ではあるが、ラス目の多井はダマテンを選択するが、これは大正解となる。
土田のリーチの一発目に多井のツモは。リーチならば、18000の放銃になっていた。少考の末、冷静にのトイツ落としで迂回した。
リーチの土田は、一発ツモとはならなかったが、次巡当たり前のようにを引き寄せた。裏ドラはなしで、6000オール。

 ドラ ツモ

このアガリで河野をまくりトップ目に立った。
そろそろ王子ではなく王様を名乗っても良いのではないでしょうか。
これが決定打となり、5回戦は土田のトップ。東場までトップ目だった河野は土田の6000オール以降精彩を欠き、多井への放銃が致命傷になり3着と着順を落とした。

5回戦結果
土田+28.9
多井+11.6
河野▲10.4
阿部▲30.1

第5節終了時
土田浩翔+160.1
阿部孝則+107.8
多井隆晴▲27.0
河野高志▲113.3
古久根英孝▲158.6

安定感を持ってこれまで打ってきた阿部が3ラス。土田の猛攻で、第5節にしてトータルトップが入れ替わった。それでもポイント差は50ポイント程度、トップラスで簡単に変わってしまう数字だ。
古久根の復調気配は十分に感じたし、多井にしても役満を放銃したとは思えないほどのマイナスでまとめた。河野も対局終了後、集中力とモチベーションは切れていないと言った。
折り返しの第5節を終えたが、まだまだ先の見えない戦いを楽しめそうだ。

(文中敬称略 文責:飯島健太郎)