接戦を制して平山が優勝!

10月5日、銀座柳本店にて2008スプリントトライアル第5戦となる「サターンカップ」が開催された。

16卓64名、ルールは一発裏ドラなしのRMU公式Bルールだ。
システムは2回戦以降、決勝まで上位順に対戦するサバイバル戦を採用。5回戦を終えたときの上位4名が決勝に進出する。
ポイント下位者にとっては上位者との直接対決がないため、自分のポイントを伸ばすことでしか差を詰められない。
マラソンのようなイメージの大会である。

準決勝終了時ベスト16成績

順位
選手名
1回戦
2回戦
3回戦
4回戦
5回戦
Total
1
平山 友厚 46.8 -5.1 61.3 -7.3 21.5 117.2
2
山谷 克也 5.6 5.8 50.0 13.3 24.4 99.1
3
渋谷 渚 47.8 16.7 25.5 25.0 -18.5 96.5
4
吉田 信之 -7.3 28.9 38.4 -8.4 36.6 88.2
5
池田 俊介 54.2 6.6 -3.4 23.9 5.0 86.3
6
石川 泰之 -31.0 2.0 19.8 42.5 46.9 80.2
7
二見 大輔 27.8 -6.0 8.3 30.7 18.3 79.1
8
中島 正浩 30.6 -8.4 -8.1 70.6 -8.0 76.7
9
中村 浩三 -3.5 31.5 44.8 -31.0 29.3 71.1
10
阿部 孝則 12.8 28.4 5.6 29.3 -5.8 70.3
11
多井 隆晴 30.1 6.7 19.2 5.8 6.6 68.4
12
鈴木 大成 13.4 10.4 19.2 -30.3 41.0 53.7
13
石川 義之 19.3 -3.2 17.6 -31.5 50.3 52.5
14
畠中 淳 25.1 25.6 9.6 -21.3 7.4 46.4
15
村田 淑子 -30.9 10.6 7.6 28.7 30.2 46.2
16
石山 大介 -10.7 26.6 32.4 13.3 -25.2 36.4
決勝進出者

決勝に残ったのは以下の4名。

平山友厚

RMU会員。第2期オープンリーグの覇者。
競技麻雀の大ベテランであり、強豪選手として有名。
予選でライセンスプロの河野、藤中を相手に7万点オーバーの大トップ。
決勝でも打点力抜群の麻雀が見られるか?

 

山谷克也

2007RMUクラウンの覇者。
今日と同じBルールで行われたヴィーナスカップでも決勝に残っている。
そのリベンジを果たしたいところだろう。

 

渋谷渚

RMU会員。予選でいきなり4連勝!
5連勝はならなかったものの、余裕の決勝進出。
渋谷のとある雀荘ではレーティングのトップ10に入ると聞く。
競技麻雀歴も学生時代からと長い。初の決勝で栄冠をつかめるか?

 

吉田信之

RMU会員。昨年度のカシオペアカップを優勝し、スプリントファイナルに進出。
今回の予選でも5万点トップを3回と打点力は抜群だ。

出走

東1局は全員目立った手が入ることなく、吉田が渋谷からピンフのみの1,000点を出アガリ。
静かな立ち上がりとなる。

そして東2局。
今度は一転、渋谷と吉田の捨て牌がきな臭い。
4巡目で2人ともこの形。

南家渋谷
 ドラ

西家吉田
 ドラ

一見、両者ともにチャンス手に見えるが、この時点ですでには持ち持ち。
更に山谷はと字牌だらけで打てる牌がなく、
序盤からオリ気味であるため、2人ともなかなか手が進まない。
この展開で俄然有利になったのは親の平山だ。
下家の渋谷を警戒しながら手を進めて11巡目、以下の手牌から最高のツモでテンパイしリーチ。

 ツモ ドラ

このリーチに対して渋谷はリーチ後のをチー。
真っ向勝負だ。

13巡目、渋谷が2つ目のチーをいれた同巡に平山がを引きアガり2,000オール。

 ツモ ドラ

リーチの時点で待ちは6枚生きていた。
渋谷のチーがなくても、ツモられるのは時間の問題だっただろう。
まずは平山が1歩リード。

東2局1本場、南家渋谷の配牌。

 ドラ

ここにと6枚連続で有効牌を引き込み、

 ドラ

切りでテンパイ。
直前に親の平山からリーチが入っているが、渋谷はノータイムでリーチ。
真正面からぶつけていく。

しかしこの選択は正解だろうか?
リーチをすれば1,300を2,600にすることは出来るが、今はまだ東2局。点数的に焦る場面ではない。
自分から見てまだドラが1枚も見えておらず、危険牌を持ってきてもツモ切らなければならない。
またリーチをしてもしなくてもツモればマンガンであることを考えると、デメリットの方がはるかに大きいように感じる。
この局、仮にマンガンでアガれていた手が1,300になったとしても、
まだ親も2回残っており十分戦えるし、何より前局で4,000オールをアガっている平山の親を落とす事を優先するべきではないだろうか。

結果、この局は平山がリーチツモドラ3の4,000オールをツモアガる。

 ツモ ドラ

渋谷のリーチがなかったとしたらどういう展開になっていたのだろうか。

東2局3本場、平山は3巡目でイーシャンテンとなるが、なかなか有効牌を引けない。
下家の渋谷がをポンしてホンイツの気配を出している。
そんな中、テンパイ一番乗りは9巡目に北家の山谷。

 ツモ ドラ

チートイツのテンパイだが、うまく鳴ければ大三元にもなりうる。
筆者の「一気に寄せるのもありかな?と思って観ていたのですが、そのあたりは?」との問いに、
「こんなのポンしてアガらせてくれるメンツじゃないですから」
即答だった。

山谷の選択は打のダマテン。
これを13巡目に平山から討ち取り、長い長い平山の親が終わった。

この時点で4者の点棒状況は、

山谷27,400
平山46,800
渋谷21,900
吉田23,900

このルールでの2万点差は大きいが、平山にとって安心できる点差ではない。
また、追う3人にとってもまだまだこれからだと思っているだろう。

快走

東3局。
8巡目、ホンイツイーシャンテンから渋谷の打ち出したに、北家平山からポンの声。
直後、渋谷にが流れて親マンテンパイ。

 チー ツモ ドラ

ピンズのホンイツ、ツモり三暗刻、タンヤオドラ3…と、
ここまでチャンス手がことごとく空振ってきた渋谷。ついに本手が炸裂するか。

しかし、期待も虚しく同巡に平山からツモの声。

 ポン ツモ ドラ

トイトイ三暗刻でマンガンだ。

さらに東4局、7巡目に西家の平山が先制リーチ。

親の吉田がピンズ、山谷がソーズ、渋谷がマンズと3者3色のホンイツに寄っているが、
一番早い渋谷でさえリャンシャンテン。
その渋谷が、

 ドラ

ここからツモで打とすると、平山から「ロン」の声。

 ロン ドラ

あっという間に平山がアガリきってしまった。

強い!

点数を持っていても隙を見せることのない平山。
誰もが、このまま平山が独走すると思ったに違いない。

追撃

6局中4局アガリと、平山が制した東場が終わり、南入。

平山が2着目の山谷と3万点以上差をつけた独走状態になっている。

南場に入った4者それぞれの立場は、

平山…3者の親番を流す。場合によっては子相手に差し込むのも有効。
山谷…この親番で差を詰めないとかなり厳しくなるので、とにかく連チャンを狙っていくしかない。
渋谷…親番での連チャンを目指すため、これ以上差をあけられないように親番を持ってくる。
吉田…渋谷とほとんど同じ。

といった具合であろう。

南1局。
8巡目に、南家の平山がドラを打ち出した。

 ツモ ドラ

を渋谷、吉田に鳴かれる分にはかまわないと捉えての選択だろう。
たしかにこのタンピンリャンペーコーまで見える牌姿、
フラットな状態ならドラとはいえを切り出す人も多いはずだ。

しかし、トップ目で手堅く打ちたいこの局面ではどうだろうか。

結果から言うと、この局は山谷が吉田からマンガンを出アガる。

この打ち出したに、平山としてはもっとも鳴かれたくない相手、山谷からポンの声。
ポン、打で山谷の河は

ほとんどノーヒント。というよりも、とても早そうには思えない。
平山も、自分がアガれると感じていただろう。
しかし、この時既に山谷はテンパイしていた。

 ポン ドラ

は場に1枚切れ。次巡をカラ切ると、渋谷もをツモ切り。
が山谷から4枚見えとなる。
その直後にをツモ切った吉田から「ロン」。

吉田、痛恨のフリコミ。
とはいえ、オリるにも情報が少なすぎる上、は通りそうな牌である。
「ツイていない」としか言いようのないフリコミだ。
一歩間違えればそれが平山だった可能性もあった。

この局面、もっと叩きに行きたい気持ちもわかるし、筆者もそう打ってしまいそうだ。
を打ったところで結果がどう転ぶかはわからない。
だが、結果的に平山のドラ切りは山谷に大きな隙を与えてしまった。
このアガリを、平山はどう思ったのだろうか。

続く南1局1本場、西家の渋谷に再度チャンスが押し寄せる。

 ドラ

この配牌に、とツモり5巡目リーチ。

 ドラ

7巡目に自風のを暗カン、マンガン確定だ。

この局、平山と吉田は勝負には行けない手格好になっており、オリ気味に進行していた。
平山にしてみれば、山谷が打ってくれれば最高だが、ツモられても局が進めばそれでよし。
吉田も、最後の親番に望みを繋げたいところだ。

リーチを受けた後、8巡目の山谷の手牌はこの形。

 ポン ツモ

序盤に渋谷がを切っていることもあり、山谷は打とする。
この後ソウズが安くなり、を落としていく。
と引き込み、16巡目にこのマンガンテンパイ。

 ポン

その直後、渋谷がをつかみ12,000は12,300をアガる。
このアガリで、対局者どころか、ギャラリーの雰囲気まで変わったのを感じた。
ターニングポイントはもちろん、8巡目の切りである。
は初牌だったのだが、普通なら連チャン狙いで打と構える人が多いだろう。
事実、S級ライセンスである阿部も、
「親なら連チャン狙いでなんか切っちゃうよな。このアガリはすごいよ」
と賞賛している。

また、この時点で2枚、1枚を吉田が持っていた。
吉田はのポンが入った後、もう字牌を打ち出す気はなかったのだろう。
終始オリ気味に打牌をしていた。

親マン2連発で山谷と平山はトータル15,100点差。
遠かった平山の背中が射程圏内に入った。

南1局2本場も山谷が7巡目をポンしてテンパイすると、
渋谷と吉田のリーチをかわして10巡目に500は700オールをツモり、更に差を縮めていく。

だが、3本場で渋谷が吉田からホンイツチートイツをアガり、山谷の親が流れた。

混沌

南2局。
この時点で平山と山谷の点差はトータルで10,300点差まで詰まっていた。
心なしか平山の模打のスピードが早く見える。
猛追してくる山谷に焦りを感じているのだろうか。

親の平山、11巡目にをポン。

 ポン ドラ

ここで平山はテンパイとらずの打。安い手でアガる気はないという事だろう。
しかし12巡目、山谷からリーチ。
ほどなく、山谷の手牌が倒された。

 ツモ ドラ

実は山谷の配牌は、

という諦めたくなるようなものであった。2トイツしかなく、ドラもない。
ここから牌を重ねに重ねての3,000-6,000。誰がこの最終形を予想できたであろうか。
フィニッシュのもリーチの時点で山に3枚生き。
山谷の正確な山読みと、不屈の闘志がなせるアガリであろう。

一方の平山。絶大と思われた約5万点差はたった4局で山谷にひっくり返されてしまった。

2人の後ろには観戦者の人垣ができている。

不屈

南3局1本場の開始前、平山が点箱の表示がずれていることに気がつき、確認のため一時中断が入る。
表示がずれていたのは山谷。5,000点多く表示されていた。
この時点で山谷と平山のトータルの点差は7,700点。

平山いわく、
「点数を計算して、2局で8,000点程度差をつめれば優勝と分かり落ち着くことができました」
とのことだった。

確かに、2局で12,700点差はかなり厳しいが、7,700点差ならマンガン1回で逆転できる。
中断後は、前局には早く見えた平山の模打も東場の親で連チャンしていたときのような、威風堂々としたものに戻っていた。

1本場は親の渋谷が軽い手をアガり、続く南3局2本場。
渋谷がドラトイツを活かしての仕掛けを入れ、12巡目テンパイ。

 ポン ドラ

しかしテンパイ打牌のを見て、役なしでテンパイしていた平山がツモ切りリーチに踏み切る。

 ドラ

渋谷には足りている=つかめば出ると推測できる。
またツモ切りリーチなので直前に通っているのスジは盲点になりやすく、もし吉田、山谷が安全牌に窮したとしたらこぼれるかもしれない。
何より、これ以上変化を待つ時間はないと判断してのリーチだろう。
まっすぐ行くしかない渋谷との一騎打ちとなる。

16巡目、それまでツモ切り動作をしていた平山が、
静かにを引き寄せ、1,000-2,000は1,200-2,200をアガる。
渋谷の挑戦はここで終了。

オーラス、渋谷は配牌からベタオリを選択する。
自分の打牌で優勝者を決めてしまうことは避けたい。
決勝進出者、そして競技者としての意地だろう。
のちにオーラスについて「手牌全てが当たり牌に見えた」と語っていた。
そんな極度の重圧の中、渋谷はオーラスのベタオリを最後まで全うした。

終局

南4局。
山谷と平山のトータル点差は2,800点だ。

両者の配牌。

南家山谷
 ドラ

西家平山

3巡目、平山が少考する。

その決断は打

決勝後の打ち上げの席で、平山はこの選択についてこう語っていた。
「オーラスのの選択だけど、今日は三元牌が重なる日だった。
完全にオカルトだし指運の話なのだが、を切ってを重ねた自分を褒めたい」
次巡、平山のツモは
再び少考し、打。直後に出たをポン。
さらに次巡引いてきたを加カン。
リンシャンからを引くと、さらに直後に山谷から打ち出されたをチーしてテンパイ。
を切っていたら――あえて検証はしない。
あの場にいたら平山は必ずを打つのだろう。

を打ったときの山谷の手牌。

チーテンの取れる形のイーシャンテン。
しかし、ペン、カンはなかなか埋まらない。

中盤、をチーした平山。短くハッと息を吐き、打

 加カン チー

10巡目、いつもよりやや大きなモーションで引き寄せた牌は

「ツモ、1,600、3,200」

点棒の移動を終えたところで、周囲の観戦者から大きな拍手が沸き起こる。
その中心で平山と山谷が互いの健闘をたたえあうかのように握手を交わし、大熱戦を締めくくった。

すでにブログでも紹介されているが、平山のコメントを再掲させていただく。

「勝ったから言うのではなく、今日の決勝のメンバーで戦えて本当に良かったと思っています。
観戦された方も面白かったのではないでしょうか。
本日参加いただいた方、特に決勝卓で素晴らしい時間を共有できた山谷さん、吉田さん、渋谷さんには改めてありがとうございましたと言いたいです」

さて、今大会のスプリントカップポイントを加算すると山谷と平山はスプリントファイナル進出がほぼ確定となった。

スプリントファイナルの開催は年明け、1月24日。

この決勝戦に負けないアツい戦いを繰り広げたいあなたは、
本年度最後のスプリントトライアル・ウラヌスカップにエントリーだ!

(文中敬称略 文責・合田雄亮)