優勝は新鋭内田良太朗!

12月14日、スプリントトライアル最終戦であるウラヌスカップが開催された。
トライアルポイントを持っていなくても、優勝すればスプリントファイナルへ進出することができるのだ。
しかしながら、ポイントを所持しているにも関わらず参加してきている人も多く、この大会が単なるポイントレース以上の魅力を放っていることを再認識させられた。

今回の予選システムは、抽選により3ブロックに分かれ、各ブロック上位者が準決勝に進出するというもの。
そして、半荘1回の準決勝を行い、決勝に進出したのは以下の選手。

内田 良太朗(一般)      +76.6
福田 英一(RMUアスリート) +40.3
さくらい良(ライセンスB)   +37.7
吉田 信之(RMU会員)    +36.2

上記スコアは準決勝終了時のポイントを半分にしたもの。内田のアドバンテージが大きいため、優勝するためには他の3人は大きいトップか内田を沈ませてのトップが条件となる。
次に来年1月と目前に控えたスプリントファイナルに進出するための条件は次の通り。

内田 優勝のみ
福田 基本優勝だが、吉田優勝の場合のみ3位以上でOK
さくらい 優勝のみ
吉田 進出確定

決勝進出が2回目となる吉田のみファイナルが確定しているが、当然優勝を狙ってくるであろう。福田は吉田優勢で自身のトップが難しくなった時、内田の順位を落とす戦略も有りとなる。全員条件を把握した所で決勝戦が開始された。

東1局、西家の吉田が配牌リャンシャンテンから電光石火の4巡目リーチ。程なく3,900を、好形の手牌で押す南家さくらいから出アガる。
「まさかこの手格好で自分が打ち込みに回るとは…」とさくらいのコメント。

この言葉からもわかるように、彼はどんな形であれ自身が主人公になることを本懐とするタイプ。1回限りの決勝戦では、東1局、立ち上がりでの感触はこの後の展開を指し示すと言っても過言ではない。自分だけが主人公、この手は当然アガれる、と信じていたさくらいにとって、相当先行き不安な放銃であっただろう。

対していいスタートダッシュを切れたのは吉田。

準決勝は時に決勝以上のドラマや名場面を生み出す。それは決勝戦の場を目指すため持てる力を駆使して、必死に麻雀と向き合っているからに他ならないと思う。準決勝で吉田は東場で持ち点が箱下を割り絶望的な状況となるが、オーラスの親で怒涛の追い上げを見せトータル4番手に滑り込んだ。前回のサターンカップに続いての連続決勝進出は見事の一言に尽きる。この決勝でも吉田がキーマンになるのは間違いなさそうだ。

東2局。親のさくらいが5巡目にテンパイ一番乗りだが、待ちが悪いためダマテンとした9巡目。

   ドラ ツモ

さくらいは打切りリーチとドラ絡みノベタンを選択。
同巡、平凡な配牌だった南家吉田が、

   ツモ 打

と強烈なイーシャンテンになる。
さらに同巡、西家内田が、

   ツモ

となり、ノータイムで打切りリーチを選択。自分からドラが1枚も見えていない状況であり、一手変わりのサンショクも見えるため、ダマテンという選択肢も十分にあるように思えた。

だが、彼の攻撃的なスタイルからして見れば、この状況でダマテンにするという事はないのだろう。吉田もをチーして高めマンガンテンパイを入れるが、3者の攻め合いを制したのはスタイルを貫いた内田。
決勝であるという緊張感はまるでないようだ。ツモアガリで1,000・2,000。

しかし東3局、親番の吉田がまたも5巡目の先制リーチ。結局誰も追いつけず、ツモアガリ。

   ツモ ドラ 裏

裏が2枚のって4,000オール。吉田もこのアガリにかなり手ごたえを感じたであろう。逆転優勝に向けて大きく前進する。
親は蹴られるも続く東4局も6巡目にリーチ。勢いが衰える気配がない。

   ドラ 

アガリ牌はが場に1枚出ているのみで、山に3枚生きている。しかも共に他家は手牌に組み込むのは難しく、前に出ようとするとすぐに打たれるだろう。非常に有効なリーチだ。
ここまで静かにしていた南家の福田が粘り、

 

とテンパイするが、ツモで打と1シャンテン戻し。その後有効牌は引けなかった。
吉田のアガリ牌も他家に2枚流れ、流局かと思われた終盤、親の内田がホンイツのリャンシャンテンから仕掛けて打。裏ものって5,200の打ち込みとなってしまった。少し踏み込みすぎてはないかと思ったが、
内田「親番で一気に加点させるスタイルにこだわりを持っています。攻めた結果の打ち込みなので全く後悔はないです」
という対局後のコメントの通り、内田は予選でも親番にピントを合わせ連荘。結果+150ポイントの大量得点で決勝に勝ち上がってきた。今局は悪い方に出たが、初スプリントカップ初決勝でも普段と変わらぬ意志の強さを垣間見たと言える。
南1局は手がまとまらず、全員ノーテン。福田は最後の親が落ちて優勝は厳しくなってきたが、吉田がトップ目なので、内田より順位が上回れば自身のスプリントファイナル進出も見えてくる。福田もしっかり状況を把握しているので、気落ちした様子は見られない。

南2局1本場、さくらい最後の親番。西家内田のマンガンリーチを受けつつ、執念で形テンを取る。
そして2本場、さくらいが2巡目にテンパイも、サンショク手変わりが多いためダマテンとする。

   ドラ

さくらい「多分最後のチャンスであり、見せ場かなと思っていたので、安手をアガる気はなかった」
ツモってもフリテンリーチを打つ覚悟である。
しかしその後も有効牌を引かず、10巡目に南家吉田のを見逃しての12巡目、もはやここまでと、ツモ切りリーチに踏み切る。だが結局アガれることはなく、1人テンパイで流局となった。その表情は非常に苦しいものである。
3本場、さくらいが苦しい手牌を絶妙にまとめ中盤に一通確定リーチを打つが、やはりと言うのだろうか。開局から始まる啓示のごとく、宣言牌が福田のピンフのみに捕まり、さくらいの戦いはここで終了する。
あらゆるタイトル戦を闊歩しているライセンス選手であるが、今年度のスプリントは鬼門にあたっているのか。さくらいの終戦は、ライセンス陣最後の砦が落とされた瞬間でもあった。

さて、続く南3局は内田が2,600を福田からアガり、この半荘の2着目に浮上する。さくらいを潰しファイナル進出にだけ焦点を合わせていた福田にとっては痛恨のフリコミだ。

思えば前局のピンフのみを、リーチとする選択も十分にあった。次局親の吉田が攻め返してくることは余程の手でない限りあり得ないし、トータルで吉田1位、福田3位以上を現実化するには、例え裏ドラがのらずともわずかな加点がオーラス条件を大きく緩和する状況であった。

そして迎えたオーラス。トップ目は吉田だが、トータルで内田を逆転するにはハネマンツモか5,200の直撃が必要だ。すでにファイナルへの進出は決まっているのだが、その目は優勝しか見ていない。そういう男なのである。
内田は手牌がまとまらなかったが、1人ノーテンでも優勝なので、序盤からオリを選択。実質1局勝負となった。

福田が11巡目に、

   ドラ

テンパイするも、リーチして内田直撃のみしか条件を満たさないこの状況では、ほぼ不可能である。前局の2,600フリコミが、そして前々局のダマテンが、大きく響いてしまっていた。彼には吉田がアガリきってくれることを祈るしかない。
そして、逆転を狙う吉田の13巡目。

   ツモ

巡目から言っても最後の選択となるだろう。関連牌で場に出ているのは2枚、1枚、2枚、1枚、1枚だ。吉田は打とツモで無条件ハネマンとなる456のサンショク目を残す選択をした。さくらいがソウズに染めており、周りを引いて高目イーペーコープラス一発ないし裏ドラという期待をするわけがない。
次巡のツモは、そして次々巡のツモは。残るツモは1回。何かを噛みしめながらリーチをするしかない吉田。

   ドラ

仮に吉田が打のリーチ後も福田が打とし、さらにさくらいがをチーすることが条件で、かなり結果論となってしまうが、実際の裏ドラはで、逆転していた可能性も有り得たのだ。
このような結末も用意されていたのは、吉田の優勝にかける強い意志が呼び込んでいるものと私は思う。彼の健闘を称えたい。

かくして、この局をオリきった内田がウラヌスカップ優勝となった。
内田「終始吉田さんの早いテンパイに苦しめられましたが、40ポイント近い差があったので、先制されても落ち着いて対応できたことが優勝につながったと思います」

彼は決勝までのポイントからして、攻撃特化の選手のように見受けられるが、実際には状況を把握した受けを随所に見せ、数少ないアガリ番を最高点で(組まれた手牌の中での意)しっかりアガリ切ることに長けている。
またコメントからもわかるように、いかなる状況でも揺れずに自分の麻雀に徹する、強い精神力が最大の武器であろう。
自分の麻雀を打つ。当たり前のことなのだが、実際卓に座ると難しいことである。それを決勝でも実践できることを証明した内田は、今回の優勝を機にさらにその強さが磨かれていくのではないだろうか。
同年代の打ち手として自分も負けてはいられないと、強烈な刺激を受けた大会となった。

(文中敬称略 文責・江原 翔)