2016ティアラ・クライマックスリーグ観戦記
RMUアスリート 狩野 哲郎
ティアラ・クライマックスリーグは今回で2回目という、まだまだ歴史の浅いRMU所属の女流選手によるタイトル戦である。
■ティアラリーグ概要
2016年は、前半は1人4半荘のリーグ戦を行い、終了後講習会を行う。
1回戦を65分プラス1局とする。
1日の対戦相手は同一面子とする。(抜け番制の場合あり。)
年間5節を行う。
■2016 ティアラ・クライマックスリーグ
年間5節を通して開催された女流選手の研修リーグ「ティアラリーグ」の成績及び内容、その他タイトル戦の実績により選抜された上位者によって争われる半荘4回戦のタイトル戦。
「終了後の講習会」「研修リーグ」、当団体のHPではこういった言葉が使用されている。歴史の浅さを言い訳にするつもりではないが、タイトル戦とはいえまだ成熟しきっていないところもあるのは否めない。
今回の観戦記を書くにあたり、数日前、筆者が代表の多井隆晴に「ティアラ・クライマックスリーグに期待すること」を訊ねてみても、こんな答えが返ってきた。
「友好団体の女流プロに負けないくらいの競技選手になってほしいので、勝ち負けだけにこだわらず、切磋琢磨してほしい」
しかし未成熟であったとしても、多井が「勝ち負けだけにこだわらず」とコメントしていたとしても、タイトル戦である。このティアラリーグに参加している女流アスリートは誰もがこの栄冠を目指している。
そのリーグ戦を勝ち上がってきた4人の選手は今、対局者同士、はたまた運営スタッフや観戦者と他愛もない会話を繰り広げている。そこでは時折笑い声が上がることもあった。このような場所に初めて携わる筆者には、それが対局前とは思えない穏やかな空間にも思えた。そのときは。
しかし、その会話がふっと途切れたとき、その人物が会話からふっと外れたとき、筆者はその隙間から空気が微かに痺れていくのを感じた。
そう。4人の対局者はそれぞれ、心の内では激しく闘志を燃やしているのだ。「この栄冠に一番ふさわしいのは自分である」と。
1回戦(南地→北岡→鶴海→小宮)
東1局
3巡目。小宮の手牌が楽しみだ。
ツモ 打 ドラ
二盃口もしくは七対子ドラドラのイーシャンテン。ツモ次第では、開幕早々の四暗刻まで……と期待を抱かせる。しかしその手には迷いを与える両面変化さえ起らぬままツモ切りが続く。
南地、鶴海の2人も手がなかなか進まない。
そんな中、局面が遅くなればなるほど利する雀風なのが、北岡だ。
北岡あおい
今期のティアラリーグでは出場した5節全てでプラススコアを記録しての3位通過。抜群の安定感で、2年連続のティアラ・クライマックスリーグへの進出を決めた。
Rリーグへの登録はないが、その門前重視の手組は非常に評価が高く、R1リーガーとも遜色ないと言われている。
事実、その評価に違わぬ打ち筋を開局から披露した。
3巡目。
ツモ 打 ドラ
小宮から打たれたは仕掛けずに、を重ねて6巡目。
ツモ 打 ドラ
そして11巡目にはこの形でリーチ。
ツモ 打リーチ ドラ
小宮から打たれた1枚の以外は全て山に生きている。
この局の結末は、チーして北岡の現物待ちでテンパイを入れた親の南地が、1枚切れのを掴んでしまい、北岡へ6400の放銃。
リーチロン ドラ 裏ドラ
東3局1本場
3巡目の南地。
ドラ
上記の牌姿で、小宮から放たれた2枚目のをポン。
そしてあっという間の6巡目テンパイ。
チー ポン ドラ
南地祐圭
R2リーグ所属。北岡同様、ティアラ・クライマックスリーグは2年連続の進出となる。
大学時代に発症した慢性疲労症候群での療養中に、ネット麻雀を通して麻雀に傾倒。そのまま再上京してRMUに入会した。
今もなおその持病を抱えながらRリーグと女流リーグの両方に登録している。自身のツイッターによれば持病のため、この日の前々日まで熱に悩まされていたというが、幸い熱は完全に下がったとのこと。サイドテーブルには経口補水液を携えての参戦である。
持ち味はネット麻雀出身らしく、門前にしても仕掛けにしてもストレートに手を組んで、アガリを目指すところ。
この仕掛けに、親の鶴海もダブを仕掛けて応戦するものの、トイトイ含みのイーシャンテンで放ったが南地に捉えられてしまう。2000は2300点のアガリ。
チー ポン ロン ドラ
南1局2本場。四者の持ち点は下記の通りとなっていた。
南地:33100
北岡:32500
鶴海:24500
小宮:30000
ここにきて、これまで劣勢を強いられていた「女河野」が魅せる。
鶴海ひかる
R1リーグ所属。これまでに四神降臨やTwin Cup決勝などで配信対局を数多く経験しており、RMUを代表する女流選手の一人である。
出場者の中で一番場数を踏んでいるということもあってか、彼女には既に独特のルーティンのようなものがあるようだ。
ツイッターによれば前日にはうなぎとお肉を食してスタミナを付け、試合前のスタジオ内では洋楽を口ずさみながら(曲名不明)不思議なステップを踏み、サイドテーブルにはアロマオイルを染み込ませたマイおしぼりを準備する。
ザ・天真爛漫。
しかしその麻雀は繊細。他家の綻びを決して見逃さず、攻めの一手を放つ。
南1局2本場
11巡目。を仕掛けた親の南地がテンパイ。
ポン ドラ
この仕掛けにドラのを1枚ずつ抱えた北岡と小宮は撤退。
そこに鶴海が粘る。
チー 打 ドラ
南地の捨て牌には索子が高いが、もし染まっていなかったとしたら、萬子の上がターツとして残っている可能性がある。
この仕掛けで南地がドラで生牌のを掴む。もともと自信のない–待ち。一人旅できると思っていたところに、踏み込んできた鶴海の仕掛け。微差とはいえ現状トップ目。
南地は逡巡の後にオリ。
鶴海はその挙動を見逃さない。
チー ツモ ドラ
同巡にテンパイを入れて、何のためらいもなくを放つと、3000点の収入をものにした。
そしてその麻雀は鋭敏。研ぎ澄まされたアガリへの嗅覚は、唯一無二の手順へと昇華される。
南3局1本場
ポン ポン ツモ ドラ
理では切りだが、彼女は持ってきたをそのまま河に放つ。そしてこの手牌はこう変化する。
ポン ポン ツモ 打 ドラ
ポン ポン ツモ 打 ドラ
この–待ちが6枚山。
先制リーチをしていた小宮の––待ちも4枚生きていたが……
ポン ポン ロン ドラ
鶴海が小宮から、理では決して捉えられない5800は6100のアガリ。
この繊細さと鋭敏さこそ、彼女が「女河野」と評される所以であろう。
鶴海が観る者を唸らせる粘りとアガリでトップ目に立ち、さらに500は700オールの加点。
ここから鶴海のペースになるのではと思われたが、その鶴海に牙を向いたのが我慢に我慢を重ねていた第四の女だった。
小宮悠
R4リーグ所属。まだRMUに所属して8カ月という新進気鋭の打ち手だが、「女子力より麻雀力でしょ!」とブログにも題しているように、麻雀への熱意は非常に高い。
Rリーグでは振るわなかったものの、ティアラリーグでは堂々のトップ通過。しかも、残り2節で200ポイント近く叩き出すという爆発力も秘めている。
初の放送対局ではあるが、試合前の控室ではライバルである南地の体調を気遣うところも見せており、固さは感じられない。むしろ、この檜舞台に心躍らせていると見受けられた。
南3局3本場
ドラ
小宮は上記の苦しい配牌を丁寧に仕上げる。
ツモ 打 ドラ
567の三色狙いというだけでなく、自分からが既に3枚見えており、の暗刻も逃したくないとの思いもあったか。ドラ受けのペンチャンを払っていく。
ただし払うのは、あくまでから。
すぐに裏目のドラを引いてしまった際は、そこで改めて選択をするという算段であろう。
9巡目。
ツモ ドラ
567の三色が現実的になってきたところでターツ選択。筒子は、が2枚切れでが生牌。索子はが2枚切れ、は1枚切れ。
小宮の選択は打。きちんと3枚目のを引いたときの、メンタンピン三色の可能性まで追う。
次巡、リーチ。
ドラ
親の鶴海が飛び込み、小宮が8000は8900のアガリ。
これによって大接戦のオーラスとなった
オーラス
南地31300
北岡30800
鶴海26700
小宮31200
各者非常にまとまった手牌を与えられた中、ファーストテンパイは3巡目の南地。
ドラ
これはダマテン。リーチ棒を出しづらい僅差の争いである。すると次巡、ツモ打で役ありテンパイを目指す柔軟かつ趣のあるテンパイ外し。筆者は先ほど南地の持ち味を「ストレートな手組でアガリを目指す」と書いたが、点数状況と巡目に見合った、こういう引き出しも持っているからこそ、2年連続のティアラ・クライマックスリーグ進出があるのだろう。
しかし、この後のツモが効かない。
そして親の小宮と北岡が追いつく。
小宮リーチ。
ドラ
北岡リーチ。
ドラ
その決着は思いのほか早かった。
一発ツモ ドラ 裏ドラ
1回戦
北岡+22.0
南地+5.0
小宮▲7.4
鶴海▲19.6
2回戦(小宮→鶴海→南地→北岡)
東3局2本場
四者の持ち点は下記の通り。
小宮25000
鶴海36300
南地33600
北岡24900
1回戦は接戦での終局となったとはいえ、初戦ラスの鶴海としては嬉しい並びであろう。
しかし、ここで北岡が静かに大物手を手繰り寄せる。
配牌とアガリ形、そして捨て牌を照らし合わせると、タラレバもあるとはいえ、らしさが伺えた。
配牌
ツモ ドラ
16巡目
ツモ ドラ
捨て牌
1巡目の打。ホンイツになった際には、その色をぼかすというのもあるだろうが、が既に暗刻になっていることもあり、門前でのリーチも想定にあったに違いない。
3巡目の打。まだもも重なっていない。前巡に打たれた小宮のに合わせる形だ。次巡、被ってしまったのは確かに痛いが、ホンイツになった際の、字牌を軽くできるというメリットがある。
7巡目の打はここから。
ツモ ドラ
はツモ切ってからにくっつけて索子のカンチャンを払う、を暗槓する、という選択肢もありそうだが、親の現物を抱えて、打。
既にターツが足りていることと、索子のカンチャン払いorの暗槓をした際の周囲からの警戒度を意識しての一打。
12巡目の、カンかカンの待ち選択は、カンを選択。どちらも初牌だが、小宮の第一打を見ての判断。
先に手元に来たのはであったが、この時点では2枚生き、は1枚生きであった。
この3000-6000でトップ目に立った北岡。
さらにダメ押しを期待させる手が入る。
南1局2本場
ポン ドラ
捨て牌が下記の通り。索子メンツが完成し、を手出ししたところ。
だがこれを成就させなかったのが鶴海だ。
同巡。
ツモ ドラ
門前で手厚い麻雀をここまで見せてきた北岡。その北岡がポンから入っているにも関わらず、その捨て牌は何の変哲もない。いや逆である。北岡の雀風を鑑みて、この仕掛けとこの捨て牌ではむしろ、変哲しかないのである。
鶴海は上記の手牌からを打ち出してを手の内にしまうと、次の北岡の手出しを見てオリへと回っていく。結果、この局は南地と北岡の2人テンパイで流局となった。
とはいえ、ここまで手堅い麻雀を見せていた北岡である。
決して大きくはないリードだが、このリードを削るのが、なかなかに難しい。脇の争いにはきっちりと静観を貫き失点を避ける。
南3局、南地が親で4000オールを決めてトップに立った次局。
ドラ
北岡は、場況を意識して事前にからを先切りしていたこの手牌をリーチ。
最終手番で手詰まりした南地から打ち取って、再度トップ目に立つ。
そしてオーラスも3着目の鶴海からツモ裏1でトップに立つリーチが入るものの、南地からの出アガリで裏は乗らず。北岡が2連勝を決めた。
2回戦(トータル)
北岡+19.7(+41.7)
鶴海+7.4(▲12.2)
南地▲3.2(+1.8)
小宮▲23.9(▲31.3)
3回戦(南地→北岡→鶴海→小宮)
全4回戦+新決勝方式で行なわれるティアラ・クライマックスリーグ。その折り返し地点を迎えて、2連勝の北岡優位というのは衆目の一致するところであろう。ただ幸いなのは、その2トップとも素点では大きくリードすることができなかったということだ。
北岡以外の三者は何としてもトップが欲しい。しかし北岡を順位で沈めるより、自らの素点に比重を置いた攻め合いになるのではないか、そしてその方が三者にとっても麻雀しやすいのではないか、というのが筆者の予測であった。
そして、この3回戦はその通りの打撃戦となった。
開局から南地の4000オール。
リーチツモ ドラ 裏ドラ
次局1本場は鶴海。
打リーチ ドラ
関連牌として河にはが1枚切られている。中張牌の亜リャンメンの役ありテンパイ。ダマテンにして、よりアガリやすい形を探すのがマジョリティ?かと思ったが、鶴海は場に高いドラ色を嫌ってノータイムリーチ。これを当たり前のようにツモり上げると、何と、が裏ドラとなり3100-6100の収入。
リーチツモ ドラ 裏ドラ
東3局2本場では再び南地。
ドラ
配牌ではこんな平均以下の手牌。しかし、手なりの捨て牌を作りながらも、いつの間にやら翻牌を丁寧に重ねて、この形。
ポン ドラ
さらにをポンするとトイトイに受けて、鮮やかに高めをツモあがり、鶴海をまくり返した。
ポン ポン ツモ ドラ
そしてここまでの2回戦を通して劣勢に立たされていた小宮も、東場の親番で食らいつく。
6巡目にをポン。
ポン 打 ドラ
打点も安く、非常に苦しい形だったが、萬子のホンイツをしていた鶴海からアガリ、連荘をもぎ取る。
チー ポン ロン ドラ
この意地の2900から小宮の時間が始まったなら、試合はますます面白くなる。判官贔屓よろしく、そんな麻雀漫画で過去何度も描かれたであろう展開に思いを馳せる筆者だったのだが……。そう、そんな漫画みたいな展開、しょっちゅうある訳もない。何より筆者のこういった類の予想やら予感やら、当たった記憶など、これっぽっちもない訳で……。
東4局1本場
北岡から8巡目先制リーチ。
切りリーチ ドラ
とはいえ、その摸打には微かな逡巡が見受けられた。役があって打点がない。見た目ほど待ちに自信も無かったのかもしれない。事実、この待ちは山にが1枚あるだけだった。
そんな心の陰りを見逃さないのは、そう鶴海だ。
道中無筋を4枚通して、このリーチで追いかけると、一発ツモ。
リーチ一発ツモ ドラ 裏ドラ
執念で繋いだ親番だったが、満貫の親かぶりで終わってしまい、小宮にとっては辛過ぎる展開となった。
南場を迎えて点数は下記の通り。北岡を抑え込んで、トータルスコアは三つ巴の様相。鶴海に至っては、北岡とほぼ並びというところまで迫ってきた。
南地41400
北岡16600
鶴海49600
小宮12400
だが北岡が、ここからきっちり素点を回復させる。
南1局は萬子の下に狙いを定めると、淀みのないモーションで先制リーチ。
これが小宮のリーチ宣言牌を捉えて、8000。
リーチ一発ロン ドラ 裏ドラ
南2局の親番こそ、鶴海にダブを仕掛けであっさりと蹴られてしまったものの、南3局、南4局と連続でアガリをものにして原点越えの3着まで立て直す抜群の安定感。トータルトップを守って4回戦を迎えることとなった。
3回戦(トータル)
鶴海+36.4(+24.2)
南地+14.8(+16.6)
北岡▲1.5(+40.2)
小宮▲49.7(▲81.0)
4回戦(小宮→北岡→南地→鶴海)
東2局1本場
先制したのは北岡。
ポン ロン ドラ
これを四暗刻イーシャンテンの鶴海から打ち取る。5800は6100。
現状トータル2着の鶴海から、さらに10000点以上の点差を付ける、大きな直撃のアガリ。
やはり北岡の安定感は抜けている。このままトータルトップも守り切って新決勝方式に駒を進めるのでは、早くもそう思わせるアガリだ。
しかしそうは問屋が卸すはずもない。北岡から点数を取るのが難しいのなら、自らツモりアガるだけ。アガリの可能性を求めて、最善を尽くすだけ。
まずは南地が東3局の親番に、ダブホンイツの4000は4300オール。
そして次局9巡目、ようやく入った小宮のこの勝負手。
打リーチ ドラ
このまま一人旅になる、誰もがそう思っていただろう。ここまで我慢に我慢を重ねていたんだからアガらせてくれたっていいじゃないか(できればで)、誰もがそう願っていただろう。
だが麻雀とはそういった外野の情とは極めて無縁の世界なのだ。何度もそんな光景を見ていたはずなのに、人はすぐにそれすらも忘れてしまう。そしてこの世界は、時に非情過ぎることもある。
17巡目。道中、解説席が触れ忘れるくらいに音もなく、無筋の4を通していた鶴海がリーチ。一発とハイテイが残っている。
ツモ 打リーチ ドラ
その数秒後、控室の観戦者から悲鳴が上がる。小宮の手元からツモ切られたのは、最後のだった。
鶴海、8000は9200のアガリ。
南2局、北岡の親番を迎えて点棒は下記の通り。
小宮11700
北岡32600
南地45700
鶴海30000
北岡と南地とのトータルスコアは、わずか500点差にまで迫っていた。
もう一度差を広げたい北岡、この親を早く流してトータルトップに立ちたい南地。鶴海はラス親だ。
北岡が再び両者を離しにかかる。
南2局は先制リーチからの1人テンパイで流局。
1本場には、この500は600オール。
ポン ポン ポン ドラ
これまでの北岡からは想像し難い遠い仕掛けに、その想いの強さが垣間見える。
かと思えば2本場は、
ツモ切り ドラ
役ありテンパイを外してからの、らしいリーチ。
ドラ
ホンイツ含みのチートイドラドラのイーシャンテンだった小宮から、がこぼれて2900は3500。
もうそろそろ終わらせなくてはいけない。3本場。鶴海が配牌から長考に入る。
ツモ ドラ
打牌候補としては、、、が上位になりそう。
鶴海の選択は打。先制好形リーチをテーマに置き、筒子の四連形を逃さないようにする選択。ドラを引いても亜リャンメンとして使える可能性も追っているのだろう。これが功を奏す。
リーチツモ ドラ 裏ドラ
2300-4300と北岡に親被りをさせる。
その次の局にはこのリーチ。
ツモ 打リーチ ドラ
前巡に北岡から打たれたのポンテンを拒否しての即テンパイ。この辺りの勝負勘は本当に恐れ入る。
次巡、を暗槓して70符になると、数巡後、が打ち出された。
そのは、リーチ後に再び掴まされた北岡が手詰まりから選んだ牌だった。
鶴海が北岡から大きな大きな4500の直撃。
迎えたオーラス。優勝を争う三者の点棒は下記の通り。
北岡32100
南地41800
鶴海41800
トータルポイントに直すとこうなる。
北岡+37.3
南地+38.4
鶴海+46.0
南地、鶴海は単独トップでこの半荘を終えること、北岡は1300-2600をツモることが、新決勝方式でのトータルトップに立つ条件だ。
そしてその配牌。
鶴海 ドラ
北岡 ドラ
南地 ドラ
このアガリ競争の結末は……
閉会式を包む祝福の拍手の中、優勝した南地祐圭が発した第一声は「すいません」だった。涙混じりのか細い声だ。
幸い大きな失点には至らなかったものの、体調不良と緊張からか、彼女には対局中に大きなボーンヘッドが2回あった。
何千人もの視聴者がいて、その場で感想や批評をコメントできる放送対局。恥ずかしさや不甲斐なさから、自分で自分を追い込み、本来ならできるはずのことが、できなくなってしまう。その重圧はきっと通常のリーグ戦の比ではない。ましてやそこでボーンヘッドをしてしまっているのならば、なおさらだ。
だがそれらに対して強く構えられなくては、それらを受け入れられなくては、ミスがさらなるミスを生む。麻雀はそういうゲームだ。
しかし彼女にはその負の重圧を跳ね除けるだけの強さがあった。
アガリ競争の結末。
チー チー ツモ ドラ
あの状況と重圧の中で、カンチーから動ける打ち手がどこまでいるのだろう。
トータルトップに立つために、与えられた手牌の中で最善を尽くす。筆者はこのアガリこそが決勝戦を通じて、最も南地らしいアガリであったような気がした。
南地はこのアガリでトータルトップに立つと、新決勝方式では手作りに四苦八苦するも三者を尻目に
チー ポン ロン ドラ
たった1局で、この決勝戦に終止符を打った。
4回戦(トータル)
小宮▲41.0(▲122.0)
北岡▲3.2(+37.0)
南地+27.9(+44.5)
鶴海+16.3(+40.5)
合計(新決勝方式)
優勝:南地+46.5(+2.0)
2位:鶴海+40.5
3位:北岡+37.0
4位:小宮▲124.0(▲2.0)
RMUのホームページにはこのようにも記載されている。
優勝者は各種タイトル戦のシード権及び、年度末に開催されるスリアロチャンネル「四神降臨 女流王座決定戦」への出場権が与えられる。
そう。タイトル戦としては未成熟なものとはいえ、このティアラ・クライマックスリーグを制することは、この先の彼女たちの麻雀人生を変化させる大きなチャンスでもあるのだ。
そして思い返せば、このチャンスを存分に生かしたのが、第一回目の覇者、白田みおである。
白田は昨年度のティアラに輝くと、『四神降臨2016女流王座決定戦』へ出場。また『闘牌列伝 人狼スリアロ村祭り』では第24期發王位・中嶋和正選手、第38期最高位・新井啓文選手といった男性強豪プロを倒しての優勝。さらにはR1リーグへの昇級と、一気に飛躍を遂げ、RMUを代表する女流選手の仲間入りを果たした。
ともすれば冒頭に記した多井が答えた期待の中には、こういうニュアンスも含まれていたのかもしれない。
「育った選手がタイトルを獲るのではなく、タイトルそのものが選手を育てていく」
だとすれば、南地がこの決勝戦で見せた、アガリに対する貪欲さ、どんなミスをしたとしても決して揺らぐことのない優勝へ向けたその執念、この2つは今後ますます磨きがかかっていくに違いない。
そして、その2つが再び輝くとき、きっと次の彼女は笑顔で栄冠を受け取るはずだ。
2016ティアラ・クライマックスリーグ、優勝は南地祐圭!
(文中敬称略)
文責:狩野哲郎
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