マーキュリーカップ決着

4月29日、麻雀柳・銀座本店にて 2009年度最初のスプリントカップ「マーキュリーカップ」が開催された。

1年間に6回開催されるスプリントカップは、 RMU会員以外にも門戸を開いたワンデーマッチであり、 2月に行われる「スプリントファイナル」へのトライアルでもある。

一発裏ドラの有無や赤牌入りなど各カップ戦ごとにルールやシステムが違い、トライアルとしてもワンデーマッチとしても、非常に面白みのある大会だ。

なお今回の「マーキュリーカップ」は一発裏ドラありのAルールで行われた。

参加者は過去最多となる76名で、あの広い銀座本店が満員御礼となった。次回からは2会場を使用するという案も検討されるくらいで、これからもっと大きな大会になっていくことを楽しみにしている。

そして76名によって争われた決勝の椅子4つを手に入れたのが以下の4名。

決勝までの持ち越しポイント(準決勝終了時のポイントの半分)とコメントを共に紹介しよう。

吉田 信之

+ 69.6

「1回戦がラススタートでしたが、その後4連勝で残ることができました。決勝で5連勝目を決めたいです!」
この強気な言動は過去の実績からくるものである。昨年のカシオペアカップ優勝を筆頭にカップ戦決勝進出は4回目、さらには2年連続スプリントファイナルに進出し、 2008年度は「忘れ物を取りに行く」という男らしいコメントを体現し、見事優勝。スプリントカップにおいて彼以上の数字を残している選手はライセンス保持者にさえいない。驚異的な戦績である。

橘 哲也

+ 60.7

「初出場で初決勝になりますが、自分の麻雀を打って、結果がついてくれば良いと思います。…優勝します。」
イケメンである。そして、さわやかな好青年である。インタビューにも笑顔で答えてもらい、少し照れながら、筆者が待っていたセリフを最後に付け足してくれた。
橘は日本プロ麻雀協会B2リーグ所属の25歳で、若手のホープという声も高い。準決勝オーラスの親番で力強く4,000オールをツモり、決勝進出を決めた。採譜を同団体の大浜岳プロが志願し、セコンドも心強い。

宮田 信弥

 + 52,8

「準決勝でちょっとやらかしましたが、無事決勝に残れて良かったです。スプリント決勝は初めてですが、開き直って頑張ります。」
今年度からライトコースからアスリートコースへ所属を変更し、それに付随し登録名も本名である宮田信弥に変更した。アスリートコースは制約や色々な義務があり、軽い気持ちでは選べない選択であろう。その途端に決勝進出、さすがである。
オープンリーグ決勝進出2回と実績も十分で、その攻撃的な麻雀には筆者自身何度もやられた記憶がある。短期決戦には向くであろう破壊力は楽しみだ。

石川 貞夫

 + 50,7

「去年悔しい思いをしたから、なにがなんでも優勝したい。2位も3位も一緒。1位だけを見据えて頑張ります。」
実際にはファイナルに向けてのポイントがあるため2位や3位を守ることも大事は大事だが、始まる前からそんな事を考えていては勝てはしないということだろう。
競技麻雀のベテランであり、踏んだ場数の多さならメンバー屈指だ。
石川は前年度マーキュリーカップの決勝進出者でもある。決勝を前に観戦者の方々と笑顔で談笑していたので、リラックスしているなと思っていたら、インタビューではうって変わって、去年決勝で味わった悔しさを語ってくれた。なんとしても雪辱をはらしたいという気持ちが伝わってきた。1年越しの弔い戦である。

決勝までのポイントを半分にするシステムもあり、全員に優勝の目が残っている。簡潔に言ってしまえば、トップを取ったものがほぼ優勝である。

選手が席に着き、ポイントを確認する。 座順は東家から石川、橘、宮田、吉田。

立会人が決勝戦の開始を告げた。

東1局、いきなり手がぶつかる。

最初のテンパイは北家宮田。

8巡目に橘が123のサンショクのイーシャンテンからツモ切ったをチーして、

 チー ドラ

の高目ハネマンのテンパイだ。

この仕掛けで同巡にテンパイが入る吉田。

 ドラ

配牌になかったドラを2枚引き、仕掛けで入ったマンガンテンパイ、感触は良さそうだがリーチはなし。マンズの仕掛けも入っているので当然のダマテンか。

その後、と引かされた橘は冷静にオリに回る。

親の石川は5巡目イーシャンテンが12巡目にやっとテンパイ。高目タンピンの手だったが、乗り遅れたのを感じたのだろう、これもダマテン。

この勝負を制したのは吉田。石川が14巡目にツモ切った で8,000のアガリになった。

東2局

前局放銃になってしまった石川が先制リーチ。

 ドラ

カンチャン待ちのリーチのみだが、自分の河には が置いてある、一発も裏もある麻雀、先手を取れたときに攻めるのは短期戦では効果的か。

そしてこのリーチが親である宮田の手牌に微妙な影響を与える。

石川のリーチを受けた次巡をツモって次の手牌に、

 ツモ  ドラ

他家からなんのアクションもない場合、親権維持の押さえつけリーチに出ても不思議ではない手格好だ。しかし宮田の選択は打のテンパイ取らず。普通といえば普通だが、他家に対応して打つ場合と手牌の最高形をみて打つ場合のではまるで意味合いが違うのではないか。 16巡目にツモでリーチを打つが、一手遅れの感は否めず、がリーチの現物なので、ここはダマテンでも良かったのではないか。

その後、2軒リーチに挟まれ、手詰まってしまった橘からがこぼれ、石川のアガリとなったが、橘としては裏ドラ1枚がのって2,600の失点なら、助かったと言えるか。逆に宮田は裏ドラになったをみてどう思ったのだろう。

東3局は宮田の高目イーペーコーのタンピンリーチを、吉田が現物待ちのピンフドラ1のダマテンでなんなく捌く。宮田は勝負手が実らずリーチ棒だけが出ていく苦しい展開だ。

東4局 

先手を取ったのは親番の吉田。好配牌から淀みない手順でテンパイを果たすが、ここで難しい選択。

 ドラ

関連牌はが1枚ずつ切れているだけだ。

少考後、吉田はを切ってリーチとでるが、一発目のツモは吉田をあざ笑うかのような*白。しかしこれに動揺した様子もなく、自分の選択を信じているようだった。
前局をアガった親の7巡目リーチ。短期戦だけに何とかしなくては決められかねないこの場面で、吉田に立ち向かっていったのが南家石川。ロン牌にもなりえたをリーチの前巡に勘良く処理した2巡後に追いつく。

 ツモ  ドラ

安目ツモだが役なしだけに、迷いなくノータイムでリーチを打った。

が、今回も軍配は吉田に上がる。

数巡後にをツモり、2,000オール。吉田の持ち点は48,000点までに膨らんだ。

東4局1本場 

親の吉田にこれ以上の連チャンを許すわけにはいかない。

そんな中、西家橘が好手順をみせる。分岐点は8巡目。

 ドラ

筆者なら手拍子でを切ってしまいそうな牌姿だが、橘は少考後に打とした。

サンショクは少し遠いし、どういう意図があるのだろうかと考えて、ああなるほどと思った。

つまり、をトイツ落としすることで、イーシャンテン時に余り牌を作らない手順を踏んだのだ。

 ドラ

リャンメン形が先に埋まっていけば上記のようなイーシャンテンになる。

ここまでアガリがなく、なんとしても落としたい親番で隙なく打つのであれば、打は理にかなっていると言えるのではないか。

現に打とするとターツ選択を迫られ、場に4枚切れでなおかつタンヤオが確定しない落としとしてしまいそうで、これではアガリがあったかはわからない。

このファインプレーを生かして、13巡目にリーチ、15巡目にツモアガりとなった。

 ツモ  ドラ

南1局 

吉田がさらに加点する。7巡目にリーチ。

宮田と石川がやっとイーシャンテンになったところでツモアガり。

 ツモ  ドラ  裏ドラ

大きな大きな、2,000-4,000 だ。

南2局は宮田が5,200を石川からアガリ、親番での連荘に一縷の望みをかけるも、その親番も吉田が丁寧に流す。

そして、オーラスの持ち点は以下の通り。

東家・吉田  56,600 点
南家・石川  3,800 点
西家・橘    29,900 点
北家・宮田  29,700 点

石川以外の2者には役満はもちろん、倍満ツモや直撃などトップになる条件はあるが、冒頭に記述した通り、このマーキュリーカップはスプリントファイナルへのトライアルのひとつなのだ。ここで少しでもポイントを重ねておけば、スプリントファイナルで吉田へのリベンジも可能なのである。

もちろん誰の頭にもそれがあるであろう、宮田が2着確定の2,000点をアガリ、2009年度スプリントカップ初戦「マーキュリーカップ」は吉田信之の圧勝で幕を閉じた。

対局が終わった瞬間に、周りにいたアスリート選手やライセンスプロが「強いなぁ」だとか「流石だ」と口にしていた。もちろん同感する。本当に強い。

表彰式が終わり、皆が談笑している時に、代表の多井が「吉田さんはRMUを本当に楽しんでますよね~。」と言うと、吉田は満面の笑みでそれに応えた。

実はこの場面を見たのは初めてではないのだが、何度みても印象的なのだ。

吉田はスプリントカップやオープンリーグなどのタイトル戦にかかさず参加しているし、RMU最高峰リーグである、RMUリーグの観戦にも足を運んでいる。

「楽しんでいる」だけではなく、勉強熱心であり、努力家でもあるのだ。

その姿勢には、見習い学ぶべきことがたくさんあると感じた。

早々とスプリントファイナル3年連続出場を「ほぼ」確実にした吉田。 2 月に行われる闘牌も今から楽しみだ。

ベスト16にさえたどり着かない筆者であるが、願わくばスプリントファイナルで吉田と戦いたいものである。

(文中敬称略 文責・飯島健太郎)