第7期RMUクラウン決勝観戦記

第7期クラウン決勝進出者

過去最大規模の参加をいただいた予選に始まり、2会場をまたいで行った本戦、そして1日で6半荘の熾烈な準決勝を勝ちあがった4人が、この日「ばかんす」に集結した。

そのファイナリスト4人を、準決勝終了時のコメントとともに五十音順に紹介していこう。

石川泰之(B級)
筆者とは同年代だが、競技麻雀歴はこちらがはるかに長い。RMUでの決勝は、筆者とともに敗れた2008年後期オープンリーグ以来となる。
「まずい麻雀を打つかもしれないけど、これで勝ってきているので、この調子で決勝も打つ。少ないけど応援してくれる人がいるので、その期待に応えられるように。」

岡澤和洋(長崎A級)
この人の名前を初めて知ったのは、故・安藤満プロが最後に勝ったタイトル戦である天王戦の記事だった。それから数年後、RMUクラウンの会場で初めてお会いした際、この人が、と思ったものである。以来、試合前後で色々な話をうかがいながら交流を深め、今日に至る。
「第2期から連続で参加して、初めて予選を通過して決勝まで来たので、優勝目指して頑張りたい」

岸部智彦(長崎B級)
昨年度のRMUクラウンの決勝に進出した際、準決勝のベスト8で対峙し、破った相手である。
今期の筆者は本戦で敗れたものの、岸部は昨年届かなかった決勝に進出した。
「本戦は13位でぎりぎり通過だったが、今日はオール連対で、手が入った時に前に出ればよく、巡りが本当に良かった。」

平井淳(101競技連盟)
戦前、この人について知っていたのは、競技麻雀団体101の現役最古参でwebマガジンの編集長をされているというHPに載っていた情報と、時々RMUの大会に参加されていることぐらいである。その情報だけ見たら堅そうなイメージがあったのだが、今回の決勝を通じて色々貴重な話を聞かせていただき、個人的にはとても感謝している。
「決勝でもツキが続きますように。」

準決勝のレポートにも書いたが、今回のファイナリストは全員競技麻雀歴が長く、濃密な戦いを期待しながら開始を待った。
そして正午、立会人の合図で対局が開始された。

(1回戦)岸部、石川、岡澤、平井(起家から、以下同じ)
決勝戦最初の1局、まだ観戦者は少なく、まずは全員の配牌を見ようと卓の周りをぐるりと一周。途中であまりの配牌の良さに足を止めたくなる気持ちを、対局者に悟られないように振り切って、一番自然な立ち位置であろう親の岸部の後ろに陣取る。その、足を止めたくなったのは岡澤の配牌。

第一ツモ ドラ

ドラはないが、手なりでいきなり三色が狙えそう。実際は、すぐに三色イーシャンテンになったものの、その後持ってきたドラをツモ切ったら平井にポンされるなどして微妙な感じの中、それでもこの形なら、という即リー。

ドラ

高目のは直前に岸部に切られたのを含め2枚切られているが残り2枚は山、も含めて4枚山である。一方、ドラを仕掛けた平井も、役牌バックとクイタンの両天秤で手を進め、

ポン ツモ ドラ

ここから放銃。裏がで3,900。アガった岡澤は安目とはいえ3,900ならそこそこの収入だし、放銃した平井も押し出されたとはいえ満貫テンパイの形になっての安目3,900放銃ならショックも小さいだろうし、とオリた2人も含め全員が納得のいくスタートだっただろう。

その後は岸部のアガリが2,600と1,000、岡澤のアガリが3,900を2回に300-500を1回と、子方の小さめのアガリで局が進む。とはいえ、岡澤はリー棒を2本回収していることもあって、4万点台とそれなりのトップ目になっている。そんな南2局、ここまでノーホーラでラス目の石川が、5巡目ピンフのみ親リーが1人テンパイに終わるも初収入を得た直後の1本場、事件が発生する。

石川の配牌
ドラ
ここにと引いて、4巡目にして受け入れは狭いが、早くもドラ色のメンホンイーシャンテン。

6巡目、上家岸部の切った中を下家岡澤がポンすると、石川の対面の平井がをツモ切る。石川は息を長めに吐いたように見えたが、8,9巡目に連続でを引いてカン待ちの18,000テンパイ。

ロン ドラ

残り2枚とはいえが石川から4枚とも見えているのでそこまで悪い待ちと思っていなかっただろうし、引いたら切って6メンチャン、リーチという選択も巡目次第ではあっておかしくはない。

これに飛び込んだのが岸部。石川がテンパイする前巡に引いたにくっつかず、テンパイ打牌で出ていく形になってしまった。

これで一気にラス目まで落ちた北家岸部、親番もなく焦ったか、

ドラ

平井が第1打に切った、直後に石川が切ったと続けてポン。そして、と切った後、をカンチャンでチーして打。トイトイもホンイツも否定できる切り出しで、手牌はのイーシャンテン。

アガリがあるとするなら役牌が本線で三色になれば、というくらいの配牌だから、1つ鳴くのはまだいいと思うが、ターツすら足りていないところで安全牌候補のアタマをなくす2つ目はちょっとやりすぎの感がある。

幸いなことに、端牌のドラがばらけ、タンピン系の人もいなかったので、積極的に押し返す人がおらずに一人旅ができ、最後の単騎選択はさすがの山読みで700-1,300となったのだが…。

オーラス、終わらせようとしたカン待ちの6巡目リーのみは暗刻の親の平井に追いかけられ辛くも流局。平井がリーチしたことによりマンツモでラス抜けできるようになった1本場は、

ドラ

と、条件を満たすリーチをかけるが、親の平井にさばかれ、ダンラスになってしまう。
トップ争いの方は、岡澤と石川が並んでいたところに平井が迫ってきたが、

ポン ロン ドラ

石川がアガリ切って初戦を制した。

(1回戦)石川+24.1、岡澤+12.5、平井▲0.7、岸部▲35.9

(2回戦)岡澤、平井、岸部、石川

1回戦トップの石川、7巡目に

ドラ

一応ドラドラだがちょっと使いにくそうなところ、上家から出たをスルー。チーしてを切って動けるようにして、マンズからならどちらが先に埋まっても満貫テンパイになるから、動く人もいるかもしれない。これを動くと、12巡目の、

ドラ

この岸部のリーチはなかったが、石川も岸部に流れるが鳴けてテンパイできるかという感じで、どうなっていたかは不明。

本譜は、スルーした4巡後に3枚目のドラを引き、岸部のリーチを受けた一発目にを引いてテンパイし、を切って勝負。が切れていて片スジとはいえ、一発目にこんな牌が出てきたとなれば、平井は完全撤退、親の岡澤も一瞬テンパイはしたもののすぐにやめて、完全な一騎打ち。

山に1枚残り同士の勝負は石川に軍配が上がり、2,000-4,000。

これは石川が乗って行けるかと思いきや、次局、親の平井が3巡目に暗刻の待ちのリーチ。これに配牌がそこそこまとまっていた石川がまっすぐ手を進め、で一発放銃。しかも裏裏で12,000と手痛い失点に。

さらに平井は、1本場の7巡目に

ドラ

ピンフドラ1でリーチをかけるが、

リーチロン ドラ

10巡目に岸部にリーチドラ1で追いかけられ、さばきに来た石川の鳴きで平井が掴み、裏裏で8,300放銃と、先ほどとは異なって激しい展開。

と、思いきや、ここからまた3,900以下の細かい応酬となり、気が付くとラス前。トップ目の岸部が13巡目にピンフドラドラのヤミテン、その次巡、石川が2つ仕掛けて追いつく。

待ちは2人とも3枚残りの。しかし、その直後にテンパイした平井が、

ツモ ドラ

ヤミテンからのマンツモでトップ目に。

オーラスは、岡澤25,900、平井36,000、岸部33,000、石川25,100(親)という状況。1回戦目がやや大きめのラスだった岸部、ここはトップを取りたいところで、

ドラ

このドラの浮いたチートイツイーシャンテンからをポンしてリャンシャンテン、2役ドラか役牌トイトイ、700-1,300ツモあたりを狙って動ける形に。

確かにこの状況だと字牌を押さえる人はいなさそうだが、石川にがトイツで出てこない。その後、が暗刻になってイーシャンテンになり、ドラを重ねてと振り替えようとするが、その途中に岡澤が、

ツモ ドラ

これをヤミテンでツモって3着を守って終了。

ここの判断は難しいところで、リー棒を出しても着順が落ちないとか、1,300-2,600で2着になるとか、マンツモでトップまで行くとかといったように、少し条件が変わればリーチという選択もあったように思う。

一方の岸部、手中に浮いているを見て何を思ったか。

ちなみに、冒頭の手から鳴かないでチートイツに決めた場合、2巡後には引いているのだが、その前に引いたと入れ替わっている可能性もあり、難しいところ。

(2回戦)平井+20.3、岸部+7.3、岡澤▲6.4、石川▲21.2
(トータル)平井+19.6、岡澤+6.1、石川+2.9、岸部▲28.6

(3回戦)平井、岸部、石川、岡澤
5回戦制なので、ここが折り返しとなる。当初はまばらだったギャラリーも多くなってきて、移動に気を使うようになってきた。

状況は、上3人はまだ一線に近いが、1人マイナスで全員と30ポイント以上離れている岸部は、ここから連対を外すと厳しくなる。

東1局、岡澤の配牌がいい。

ツモ ドラ

第1打のをかぶって雀頭を逃すが、直後にが重なって早くもイーシャンテン、2巡後に三色目の消えるを引いてテンパイする。

ツモ ドラ

は直前に石川が切っており、どうするかと思ったらを切って即リーチ。しかし、これはやや疑問に映った。

元々、両面待ちの中でもあまりよくない待ちと言われる4-7待ち、さらにドラ表示牌の上1枚メンツとして使っている最悪の部類で、しかも打点は一発裏が無ければ2,600と、岡澤のスタイルからすると見合っていないリーチに思えた。

実際、この時点で他の3人は2シャンテン以下で待ちは山に1枚。ここは巡目も早くマンズが4連続形の好形なので、いったんを切ってテンパイを外し、打点か待ちの良さを求めても間に合うのではないかと思った。
本譜は一発目にを引くと、その3巡後にドラを引いて最速のアガリを逃している。これは流局の可能性が高いと思って見ていたら、

ドラ

ここから上家の切ったを鳴いて強引にさばきに行った石川がで放銃、裏がで5,200となった。

手牌進行によってはハネツモまであったのが分かるだけに失敗したという気持ちはあったと思うが、アガれた分救われたか。

次局も岡澤は配牌ドラドラ、分岐点は6巡目、

ツモ ドラ

場には3枚、ソウズの上はドラ表示牌の以外1枚も見えていない。

手広いのは切りだが、ここはドラを使い切るべく切り。次の瞬間、親の岸部から

ドラ

このリーチがかかるが、同巡にを引いてテンパイした岡澤はを切って追っかける。

は全山で2枚に1枚と結構残っている同士の勝負は、岡澤のツモで決着し、2,000-4,000。

結果から言えば、本譜通りの進行なら、から切ってもドラ勝負で岸部から2,600か切ってのシャンポンリーチで石川から5,200をアガれていた可能性は高いが、5回戦勝負の短期戦では、アガれる時にできるだけ高くすることも求められる。

これで岡澤が頭一つ抜け出したが、直後に平井、岸部と連続で満貫をツモって差を詰め、石川がダンラスになってしまう。

その後、平井が3連続の満貫級のリーチ。最初の2つは不発に終わって親も流されたが、

リーチツモ ドラ

三度目の正直でツモりあげ、トップ目に。ラス前、岡澤がダブのみをアガって平井に迫って迎えたオーラス、平井は、

ポン ドラ

1つ仕掛けてドラ表のをアンコにして聴牌。これをアガリ切れれば連勝で優勝に近づくのだが、アガリ牌は山に1枚。すると、岡澤がポンで仕掛け返し、その動きで平井にドラが回ってくる。岡澤は親なので速度を合わせてきた安い仕掛けの可能性も考えられるが、を切ってテンパイを外す。

この時岡澤は、

ポン ドラ

このように、ドラのポンテンがかかる形。それを許さず、逆に岡澤の切ったをチーしてテンパイ復活。

はドラ表なのでもうないが、先ほどの方を落とした効果ではまだ1枚残っている…と思った次の瞬間に、下家の岸部がをツモ切って終了。

結果的にはドラをツモ切って鳴かれていてもは岡澤に流れておそらくアガれていたが、平井の判断の良さが光る一局となった。

(3回戦)平井+26.8、岡澤+10.7、岸部▲10.1、石川▲27.4
(トータル)平井+46.4、岡澤+16.8、石川▲24.5、岸部▲38.7

平井が連勝したため、やや縦長になった。ここで選手がやや長めのインターバルを取ったため、その時間を利用して状況を整理することに。

岡澤は、どんな形でもいいから平井に先着すること。2着順くらい差をつければ最終戦着順勝負ができる。

石川と岸部は、特大トップまではいらないが、4,5万点くらいのトップは欲しい。ここでマイナスをほぼ完済して平井を沈めれば、チャンスは残る。

逆に言えば、平井がこれらをすべて阻止してしまえば、最終戦は相当楽な条件になる。

(4回戦)岡澤、石川、岸部、平井
東1局、トップがほぼ必須な石川が先制リーチ

ドラ

すぐに親の岡澤が

ドラ

この形で追うも、軍配は石川。ツモで2,000-4,000。

アガって親を迎えた石川の配牌。

ドラ

第1打にドラ、2巡後にはをツモ切りと、速さを隠そうとしない。そして、次巡上家が切ったをチー。この仕掛けには賛否両論あるところだろうが、個人的には悪くない仕掛けに映った。

鳴いて2巡後、を引いてテンパイし、安目ながらをツモって2,600オールに。

1本場は、岡澤がムダツモなく4巡目にリーチ。岸部がリーのみで追いかけるが、

リーチロン ドラ

返り討ちにしての満貫。次局、平井のテンパイは4巡目

ツモ ドラ

ここからシャンポンでリーチ。しかし、は3枚もツモ筋にいたものの、は深く、追いついた石川に1,000-2,000をツモられてしまう。

対局後の平井に話を聞いたところ、
「あれをリャンメンでリーチすることは全く考えていなかった。形でシャンポンリーチしてしまった。むしろ、あそこでを切っておけば、ノベタンのでアガリがあったかも。」

とのこと。

4回戦、ここまでのアガリは石川と岡澤ばかり。

貯金のある平井はともかく、岸部はこのままだと最終戦が相当厳しくなる。それが分かっているから、多少強引にでも攻めるしかない。東4局も

ドラ

この形で即リーチ。親の平井にピンフのみのリーチで追いかけられるが、ツモって裏ドラ表示牌にもがいての2,000-4,000でラス抜けも、まだ全然足りない。

南入し、親番は各自あと3回。テンパイ一番乗りは北家平井。

ドラ

出アガリ5,200のヤミテン。続いて9巡目に親の岡澤が、

ドラ

こちらは出アガリ7,700のヤミテン。同巡、石川が、

ドラ

配牌13枚中6枚から遊び手のつもりだっただろう国士が、9巡で5種類引いてきてイーシャンテン。

残る岸部は12巡目にやっと、

ドラ

ドラもなく見劣りするのはやむを得ないが、ぜいたくを言っている暇もないとばかりに即リーチ。すると同巡、引いてリャンメンに変わった平井が追いかける。結果は岡澤がツモって4,000オールで石川に迫る。

1本場は石川が仕掛けて岡澤の親を落とし、南2局は岸部の待ち先制リーチに対し、平井が、

ドラ

この形で追いつくが、岸部の河にマンズはの2枚だけ、がすでに2枚切られているのを見て、安全度のより高い中筋のを切ってヤミテンに構える。

すると、岸部の次のツモが、さらに平井の一発目のツモは切って追いかけていれば結果的に岸部から満貫以上打ち取っているし、追っかけはせずに切っていた場合でも、このツモでドラを切って追いかけていれば、で満貫以上のツモアガリがあった。

本譜はここで待ちのノベタンで追いかけたものの、2人テンパイで流局。この半荘、放銃なしで2万点近く削られてラス目の平井、この半荘唯一のチャンス手を逃した格好。
南3局、この親番でなんとかしたい岸部が、

ドラ

この役なしドラ1のカンチャン待ちで即リーチ。これは先制の効果があり、同巡チートイツのみでテンパイした岡澤が次巡ドラを掴んで撤退し、一人旅に持ち込んでからのツモ、裏が乗って4,000オール。

しかし、1本場は岡澤に役牌のみでさばかれる。

そしてオーラス、この時点での状況は(カッコ内はトータル)
岡澤37,600→+12.6(+29.4)
石川43,500→+28.5(+4.0)
岸部31,300→▲3.7(▲42.4)
平井7,600→▲37.4(+9.0)

岡澤がトータルトップ目に立っていた。

筆者がそれぞれの立場なら……。
岡澤:石川をまくれれば最高だが、この並びのまま終わらせても十分。
石川:とにかくトップ死守、というか岡澤にまくられないこと。
岸部:最悪岡澤はかわさないと厳しく、できることならハネツモなどでトップまで行きたい。
平井:親につき連荘なのだが、自身の着を上げるのは結構難しいので、素点の回復がメイン。ただ、岡澤がトップになるくらいならこの並びのまま終わらせた方がいい。

とでも考えるだろうか。そんな中、石川が早くも3巡目にイーシャンテン。

ドラ

チャンタになれば仕掛けが利くが、形は苦しい。一方、5巡目にイーシャンテンになった岸部は7巡目に分岐点。

ツモ ドラ

ここはそれなりの打点がないといけないので、打点に絡まない、次ツモとするも、ここから手が進まない。親の平井は7巡目にイーシャンテン。

ドラ

ただ、現状そこまで攻めたい形ではない。最後に岡澤、8巡目に、

ツモ ドラ

シャンテン数的には一番遅いが、ドラが重なって、1枚切れのをトイツ落とししてゆったり構えていた。その3巡後、岡澤がをリャンメンチーした直後、

「リーチ」

声の主は石川。ドラを横向きにして河に置いている。そこが曲げるとはあまり思っていなかっただけに役なし好形かと思って石川の手牌を確認しに行くと、

ドラ

確かにドラを切るだけの価値はあるテンパイである。素点を叩きたい気持ちは分かるし、岡澤のチーで下がってきたでテンパイとなれば、余計にリーチに行きたい気持ちも分かる。だがしかし……。

リーチをしても増えるのは素点だけ。しかし、ツモの1,300-2,600が3,000-6,000になれば十分と言えるが、岡澤との差を計算すると、その場合でも詰まる差は8.5ポイント、最悪の場合はツモってもヤミテンに比して2ポイントほどしか詰まらない。

それに対し、石川がリー棒を出したことにより、岡澤はどこからでも3,900で同点、直撃かツモなら逆転となり、これだけで15~30ポイント近く離されてしまう。また、岸部のトップへのツモや直撃条件も作りやすくなってしまう。

石川は、オーラス時の状況のまま安くてもアガって終われば、岡澤とは20ポイントあまりの差で平井とは着順勝負。これは岸部がほぼ目無しになっていると言ってもそんなに難しくない条件であり、役ありテンパイであるここでのリーチは自重してほしかった。

これでどうなったかというと、平井が、

ツモ ドラ

イッツー確定テンパイとなり、切ってリーチ、これを岡澤が鳴いて、

チー チー ドラ

平井のリー棒でどこからでもトップになる3,900テンパイになった瞬間に石川が掴んでトップが逆転して終了。

(4回戦)岡澤+28.5、石川+13.6、岸部▲3.7、平井▲38.4
(トータル)岡澤+45.3、平井+8.0、石川▲10.9、岸部▲42.4
最終戦、平井ですら最低岡澤と2着順差、他の2人はトップラスがほぼ前提条件、岸部に至っては並びまで作らないといけない。

(5回戦)石川、岸部、岡澤、平井
条件が厳しい2人が早めの親で、ラス親が平井となると、オーラスは2人麻雀になる可能性が高い。

実際、石川の親は岡澤が1,000点で流し、岸部の必死の1,500での2度のアガリも岡澤の1,000-2,000に一掃される。これで岡澤は34,600持ちのトップ目となり、ラスに沈めたい他3人にとっては厳しい展開。

東3局、平井が5巡目にツモ切ったドラを、

ドラ

岡澤がこの形から動くが、当然のように平井はイーシャンテンで

ツモ ドラ

すぐにテンパイしてリーチ。ほどなくツモって1,000-2,000。

このまま攻めたかった平井であるが、東4局のピンフのみの親リーが、岸部のピンフのみリーチに負けてしまう。

南1局、岸部がドラを切ってリーチ。

ドラ

親番を落としたくない石川は当然前へ、岡澤と平井はその後ろを進んでいる……はずだったが、残り2巡となったところで、岡澤から突然無筋のが放たれる。下家の平井も一瞬びっくりした感じ。さらに次巡も岡澤は無筋のを切る。平井がこれを鳴いて、

チー ロン

この形でテンパイし、不本意ながらも岸部が掴んだでアガリを宣言。

平井としても岡澤がノーテンなら見逃すに決まっているのだが、最後の2牌はどう見てもオリている牌には見えないのでやむなしといったところ。

果たして、岡澤の手牌は単騎のチートイツであった。

南2局、3巡目に岸部がを鳴いて切ったを岡澤が仕掛け返す。

ポン ドラ

しかし、ドラドラとはいえあまりに遠い。

岸部には多少連荘されても問題ないし、少なくとも、普段の岡澤だったら毎回仕掛けるような牌ではないだろう。大きなタイトル戦の初優勝が見えてきた岡澤、少し焦ったか?

岸部は7巡目までに3つ鳴いて、

チー ポン ポン ドラ

を切ってシャンポンテンパイからを加カン。一方の岡澤は、

チー ポン ドラ

ここから、岸部の切ったを動かず。確かにポンしたら出ていくのは新ドラで当たったら高いのは分かるのだが、2つ仕掛けてすでにオリにくい形であるなら、少しでもアガりやすいテンパイに組むのも一つの手ではなかったか。

直後に岡澤はを引いてカンドラ表示牌のカン待ちに取り、これは山に残り1枚。岸部のシャンポン待ちはが2枚とも平井に吸収され、のツモアガリを逃した後、石川がリーチ。

ドラ

岡澤の手牌に両者に通る牌はなく、一発目はで事なきを得たが、次に引いてきたを止める術は残っていなかった。

ロン ドラ

石川32,000
岸部32,100
岡澤24,600
平井31,300

まさかの満貫放銃で岡澤がラスに落ち、平井は岡澤ラス目のままトップ目に立った時点でトータルでまくれる状況に、親のない石川も南3局で満貫やハネ満をツモれば優勝が見えてくる状況になった。ただ、岸部は、最低でも満貫はツモらないと、オーラスの役満ツモ条件が残らない。

南3局、突如追い込まれた岡澤の親、岸部と岡澤が5巡目にイーシャンテンになったが、岸部はチートイツのイーシャンテン、しかも浮いているドラを使い切らないといけないから、シュンツ手イーシャンテンの岡澤の手の方が先にまとまるのは自然なことで、9巡目にリーチ。

リーチツモ ドラ

裏が1枚でも乗ればこの半荘のトップ目に返り咲くので一気に楽になるところ、裏ドラじゃない方の1,300オールでまだラス目のまま。

1本場、配牌がそれなりにまとまっていた平井が、4巡目にを暗カンし、10巡目に、

暗カン ツモ ドラ

三色目の消える方でテンパイし、切りの即リー。これを石川が鳴いて、

チー ポン ドラ

少しでもオーラスにいい条件を残すべく、チンイツに向かう必死の応戦。この鳴きで一発のツモ筋にいたを下げて戦える形になるが、平井はそれでも高目のをツモアガリ。裏は乗らずに1,400-2,700でオーラスを迎えた。(カッコ内はトータル)

石川29,300→▲5.7(▲16.6)
岸部29,400→+4.4(▲38.0)
岡澤25,800→▲19.2(+26.1)
平井35,500→+20.5(+28.5)

ラス親の平井が2,400リード。先ほどの平井のリーチにもう1ハンあったら、岡澤と平井との点差だけでなく、他の2人との点差も開くのでノーテンで終わらせることも可能になっていたが、それを言っても仕方ない。

岡澤は、ラスのままでも2,400差をまくり返すか、ラス抜けすれば優勝。

石川には岡澤からの倍直か三倍満ツモという優勝条件がわずかに残ったが、岸部に優勝条件はない。

では、平井が流局で安全に終了させるために必要な条件は?

実はこれ、相当厳しい状況なのである。

現状で流局して伏せた場合、岡澤がノーテンなら優勝だが、テンパイしていたら逆転される。

流局して手牌を開けた場合、岡澤がノーテンならまだいいが、テンパイだった場合には他の2人はノーテン濃厚だから、岡澤の条件が楽になるばかりか、二度目の時点で岡澤の方が上になってしまう。

岡澤以外の2人からアガった場合、生半可な点数では逆に岡澤を浮上させるだけ。仮に他から18,000出アガっても岡澤とは10.4ポイント差にしかならず、次局岡澤が残った1人をまくればいいだけ。そこはテンパイ料で変わる点差であるから、結局安全に伏せれないまま。

ツモった場合も、安手ではあまり意味がない。岡澤と他2人との点差が現状のままでは、24ポイント差ないとテンパイ料で変わってしまう可能性があるので6,000オールは必要。

それでやっと26.4ポイント差になり、岡澤の条件を1,300‐2,600か3,900直、6,400出アガリの一局勝負にできる。

(1,000‐2,000は同点となり、4回戦終了時上位の岡澤の負け)

つまり、一番いいのは直撃で、1,500でも次局安全に伏せられるようになり、5,800直撃すれば満貫条件にできる。

他の2人がアガるケースを念のため考えてみると、石川は優勝条件がある以上最後まで狙ってくるものとすれば、アガられた場合はまくられると考えるだろう。

また、優勝条件のない岸部がアガリに来る可能性は低いが、それでもアガるならば、せめてトータルの順位を3位に上げに行こうとするだろう。

その場合石川の着順を下げるか平井の着順を下げることになるため、結果として岡澤に利してしまうことになり、平井の利になることはほぼない。

結局、平井としては大きくツモって決めに行くか、ヤミにして直撃かツモだけアガりつつ伏せるタイミングを計るかくらいしかないのである。

オーラスの両者の配牌は
平井
ドラ

岡澤
ドラ

どちらもそこまでいいとは言えない配牌だったが、先にまとまったのは平井

ドラ

チートイツのみのテンパイ、どうするのかと思ったが、これを1巡おいてツモ切りリーチに行く。

この時点で岡澤は

ドラ

このイーシャンテン。しかし、一発目にを掴んででまわる。先に書いたように、放銃しなければそんなに大変な条件にならないので、アガリが遠ければ無理をすることはない。

しかし、ここからツモが利いて

ドラ

この形で追いつき、スジのを切る。岡澤のは純カラで、平井のはこの時点で山に1枚、岡澤が掴んだら止まらなそうだったが、2人テンパイで流局して1本場。

ただ、平井がリーチしていなければ、を手中に留めていたかどうかは分からず、テンパイが取れていたかどうかは微妙で、結果的にはこれが最後のアヤだったかもしれない。

ここをしのいだ岡澤は、次に何をアガっても優勝になった。

1本場の配牌

平井
ドラ

岡澤
ドラ

平井の手はあまりパッとせず、岡澤のが鳴けるかどうかが焦点。

その岡澤、岸部の2巡目のから鳴いて、クイタンとバックの両天秤、イーシャンテンになったところで平井にが行くが、止めている余裕はなく、岡澤がポンテンを取る。

平井もそのポンテン打牌のを鳴いて

チー ドラ

イッツーを見つつ、なんとかテンパイを入れて粘ろうとするが、

ツモ ポン チー ドラ

「ツモ、1,000-2,000は1,100-2,100」

(5回戦)平井+18.9、岡澤+7.6、岸部▲8.2、石川▲18.3

半荘終了時に各自が点数を申告して記録するのだが、岡澤のところでその流れが止まる。うながそうと岡澤を見ると、ハンカチで目元を押さえており、さすがに声をかけられなかった。

第7期クラウン_優勝の瞬間

【結果】
4位…岸部智彦(▲50.6)
完敗でした。また来年。

3位…石川泰之(▲29.2)
敗者の弁なし。またやり直し。

2位…平井淳(+26.9)
裏ドラこそ乗らなかったけど、結構ツイていた。
こういった舞台で勝者に泣かれるのは今回が2回目で、それ自体は嬉しい。

優勝…岡澤和洋(+52.3)
今日観戦だけに来てくれた平木(RMU長崎アスリート)や、ワイルドキャッツのママさんなど、長崎の素晴らしい仲間に囲まれながら、これからも麻雀とともに歩んでいきたいと思います。

筆者は岡澤が上京する度にしか実際に会う機会はないのだが、岡澤の魅力は、麻雀の実力もさることながら、麻雀に対する姿勢及び人柄の良さがストレートに伝わってくることにもあると思う。

対局後に聞いた話によると、今回の決勝メンバーである岸部も岡澤に影響を受けた一人とのこと。

関東に在住していた時に参加していた競技麻雀に自分の中で区切りをつけてから九州に渡ったのだが、しばらくしてその地で岡澤と出会い、店を手伝うようになったことがきっかけとなって競技麻雀活動を再開した。

麻雀エヴァンジェリスト(=伝道者)岡澤和洋の、今後の活躍にますます期待したい。

第7期クラウン優勝_岡澤和洋プロ

それとともに筆者も、これをきっかけに一層盛り上がるであろうRMU長崎の活動に刺激を受け、ともに切磋琢磨していけるようにしていきたいと思った。

こうして、第7期クラウンは幕を閉じた。
期待通りの素晴らしい決勝戦だった。勝った岡澤、そして敗れたとはいえ平井は、ベテランらしい巧みな打ち回しを随所に見せてくれたと思う。石川、岸部もこのような舞台にまた戻ってくるであろうその時は、今回の経験が生きると思われる。

最後に
今回の第7期RMUクラウンには、大変多くの友好団体のプロ並びに麻雀愛好家の皆様のご参加をいただき、まことにありがとうございました。
当初の想定を超えたことで大会運営の一部にトラブルを生じさせてしまったことは、所属プロとして大変申し訳なく思います。
今回を教訓として、RMUスプリント、RMUクラウンともに今後さらに良い大会にしていきたいと思っております。
今後も皆様のご参加を心よりお待ちしております。

小林景悟
(文中敬称略 文責 宮田信弥)