12月19日、麻雀柳勝どき店でRMUリーグ第9節が行われた。
前節では、これまでの鬱憤を払拭するように河野が一人浮きで上位陣に待ったをかけ、残り2節半荘8回戦を残して、全員に可能性が残っている。
大事ではない半荘などないけれど、9節とは半荘で言えば南3局、非常に重要な局面である。オーラスに照準を合わせて、自分なりの展望を持ち、それに合わせた選択を行わなければならない。
最初に、その大事な第9節を戦う4者のコメントを、現在のトータルポイントと共に紹介しよう。
河野高志(▲50.0)
「一期一会という気持ちを持って、このメンバーで打つことの誇り、喜びをかみ締めて打ちたいと思う。それが麻雀に現れてくれれば良い」
多井隆晴(▲0.5)
「サッカー日本代表と世界との差はボールを持っていない時の動きだと思う。麻雀にも通じて言えることで、アガリに結びつかない局面での立ち回りを考えて打つ」
阿部孝則(+70.5)
「数字的には優勝が見えるポイントではあるが、それだけを意識するのではなく、自身の課題を克服するという気持ちを持って臨む」
土田浩翔(+133.9)
「RMUリーグというのは一介のタイトル戦ではなく、RMU会員、一般ファンへのメッセージでもあると思う。技術の研鑽だけではなく、これが麻雀だというものを見せたい」
前回レポートを担当させてもらった時も感じたことなのだが、ポイントだけではなく、個人個人の想いや現状持っている課題、さらには麻雀界へのメッセージなど、様々なものを抱えて対局に臨んでいる。数字だけにこだわるのではなく、今自分が打つことの出来る麻雀に対しての、自信であり、こだわりであるのだ。
この姿勢は確率や統計だけでは解明できない麻雀に対して、本当の意味で真摯なものであると言えるのではないだろうか。
1回戦 起家から土田、多井、河野、阿部
東1局 ドラ
親の土田がコメント通りに、自身の麻雀観に沿った打牌をみせる。
            ツモ ドラ
ここからノータイムでツモ切りとした。ジュンチャンにしたいのは誰しも一緒である。しかし東1局親でのテンパイはそうそう外せないのではないだろうか。しかし土田の場合、仮にテンパイを取っても、ツモ ときたらフリテンリーチを敢行しそうなので、終盤の チーなどを考えれば、ツモ切りも合点できる。
目論見通り14巡目に ツモで即リーチと出る。
            ドラ
アガれるアガれないではなく、こういう形を追うことが、土田のスタイルであり、強さである。
この親リーチに待ったをかけたのが多井。
            ドラ
この万全のイーシャンテンにツモ で追っかけリーチ。
勝負は次巡、多井の一発ツモで決まった。
            ツモ ドラ
速度と打点バランスの良い手牌。一発ツモの満貫。
多井にとってはこれ以上ないスタートとなった。
東2局は多井の追っかけリーチを掻い潜って、河野が1,300-2,600をツモアガる。
            ツモ ドラ
非常に場況にマッチした待ち取りで、親の多井の手を潰したというところからも、アガリの価値は大きい。
東3局はこのRMUリーグでは珍しい、3軒リーチとなった。
最初のリーチは5巡目の河野。絶好のカン を引き込んでのピンフイーペーコー。
            ドラ
多井が河野の当たり牌を止めて、窮屈な格好ながら待ち自体は悪くないと踏んだのだろう。少考後、リーチに踏み切る。
         アンカン ドラ カンドラ
最後のリーチは阿部。先行リーチの無筋を切って追いかける。
            ドラ カンドラ
結果はアガリ牌が一番多かった阿部のツモアガりとなった。
            ツモ ドラ カンドラ
裏ドラこそ乗らなかったものの、3軒リーチを制した高目ツモ。これも感触のありそうなアガりである。
土田を追いかける3者にそれぞれ良いアガりが生まれたことにより、土田がどう動いて行くのかが焦点になりそうな気がしたが、東4局、同1本場は流局となる。土田は仕掛けを入れるものの本手はなく、静観しつつ機を窺っているという印象で、他の3者も抜け出すことが出来ない、拮抗した場になりつつある。
南1局2本場は阿部が河野からピンフのみをアガる。供託リーチ棒1,000点と2本場の600点をプラスする阿部らしい冷静なダマテンである。誰もが抜け出せない戦いでは無理に大物手を狙うよりも、このような立ち回りが重要になってくる。
南2局 ドラ
親の多井が2巡目にピンフのみをリーチ。
上記したことと矛盾してしまいそうだが、親であり巡目も浅い。拮抗しているからこそ、放銃は避けたいという心理もある。これは打たなくてはならないリーチである。
2枚切れた現物の を見て、阿部がペンチャンを払いに行った で放銃となるが、これも裏ドラが乗らずに2,900と決め手にはならない。
            ロン ドラ 裏ドラ
南2局1本場 ドラ
この局も先手は親の多井。若干苦しい所から、 をポンするが、すぐにドラと が重なって、以下の手牌に。
           ドラ
形はまだ少し苦しいが、アガリがあれば満貫になる形なので、勝負を決するものになりそうだ。
黙って見ているわけには行かない3者。河野が10巡目にオタ風の をポンしてホンイツのテンパイ。
           ドラ
現状苦しい形だが、好形変化はいくらでもある。イーシャンテンと考えれば万全と言える形であり、連荘チャン中の親が仕掛けているとなれば当然のポンである。
その後、 をツモり打 としてカン となるが思い通りの変化にはならない。
そして少しもたついた感がある多井、河野にメンゼンで手を進めていた阿部が追いつく。
選択は5巡目の以下の手牌
            ツモ
手なりならば打 だが、阿部の選択は打 。イーシャンテン取らずの打牌だが、この時すでに多井の仕掛けが入っていたため、阿倍の思考にリーチという選択はなかったのではないだろうか。ピンズ模様の上家河野からの仕掛けも視野に入れた打牌である。これが功を奏し、 - をツモる前にタンヤオのテンパイが入る。
            ドラ
当初の構想通りかダマテンに構え、11巡目に をアンカンするも、ダマテンを続行。このタイミングでリーチに行くのもありかと思っていたが、徹底している。
14巡目に河野の手が止まる。
           ツモ ドラ
ここまで が姿を見せていないこと考えれば打 かと思ったが、河野は打 とし、阿部への放銃となってしまった。河野の選択より阿部の判断の正確さを褒めるべき局面だと感じた。1,600点と打点的には大した点数ではないが、その多寡に関わらずいつの間にか阿部のペースで進んでいる。
その後も阿部は、冷静に立ち回り、土田にラスを押し付けるトップをとった。
阿部にとっても、土田を追いかける多井、河野にとっても大きな半荘になった。
阿部 +25.4
多井 +6.8
河野 ▲8.4
土田 ▲23.8
2回戦 起家から多井、河野、阿部、土田
東1局、1回戦とはうって変わって、静かな立ち上がりとなった。4者とも真っ直ぐに手を進めるがテンパイしたのは土田ひとりだけ。
東2局も停滞は続き、親の河野はツモがかみ合わずに早々と受け気味に打ちまわし、ドラトイツの多井はイーシャンテンに辿り着くのがやっと。
            ドラ
流局間際に阿部がメンホンのテンパイをするも、アガリはなく流局。
           ツモ
東3局は土田が場を動かしに行く。 を仕掛けて打 の1,000点のテンパイ。フラットな状況ならおそらくホンイツに向かうであろう手牌であったが、1回戦の展開も考慮してか自然なテンパイを取る。
      ポン  ポン  ドラ
これに親の阿部が飛び込んで、ノーテン罰符以外の点数が初めて動く。
東4局 ドラ
今局も土田が仕掛ける。ピンフイーシャンテンの河野から、ダブ と をポンして、8巡目にドラ単騎のテンパイ。
        ポン  ドラ
土田にこのテンパイが入った時の北家阿部の手牌が
            ツモ ドラ
となる。土田はまずテンパイしていて、仮にイーシャンテンだとしても、現状の手牌からテンパイを入れさせるわけにはいかない。現物は だけで、かなり厳しい状況である。
ここから阿部が素晴らしい打ち回しをみせる。
慎重に土田の河と場に打ち出される牌に合わせて、上記の牌姿から6巡後に以下のテンパイを組んだ。
            ドラ
これを河野からアガり、大きな3,900となった。
放銃となった河野にしても、阿部の河があまりにも静かな上、土田の現物とあってはしかたなかったのだろう。
南1局の流局を挟んだ南2局1本場、親の河野は苦しいながらも仕掛けて行く。その鳴きでチートイツのテンパイが入った土田が11巡目にリーチを打つが、
            ドラ
ここも阿部が土田の筋である牌を2枚押して、これも大きな300-500をツモアガる。
            ツモ ドラ
南3局は好配牌をもらった河野がミスなく仕上げて満貫のツモアガリ。
            ツモ ドラ
小差のラス前を冷静にダマテン、このアガリでトップに躍り出た。しかし、迎えたオーラス、河野はまさかのノーテン。阿部の一人テンパイで流局となり、ノーテン罰符の差で阿部が2連勝を決めた。
阿部 +19.7
河野 +8.5
土田 ▲6.8
多井 ▲21.4
3回戦 起家から多井、阿部、土田、河野
2連勝を決めた阿部だったが、この3回戦序盤から崩れてしまう。
東1局は多井の2巡目リーチに阿部が放銃。裏ドラこそないものの4,800のアガリで多井はスタートダッシュを決める。
            ロン ドラ
次局は多井の連チャンを止めるべく、河野が役牌をイチ鳴きして500-1,000は600-1,100をツモ。
東2局 ドラ
親の阿部が5巡目にツモ切った を南家の土田がポン、7巡目にはこのテンパイ。
           ドラ
そして10巡目の阿部の手が
            ツモ ドラ
で万事休す。 での満貫放銃となってしまう。
1,2回戦と連勝した阿部が4,800、8,000と続けて放銃となってしまったのは、手牌上仕方がないとはいえ、意外であった。
観戦者にはわからない、なにかが阿部の心中に渦巻いているのだろうか、阿部は次局も失点してしまう。終了後のコメントで阿部はこの局を反省点に挙げていた。
東3局早々と を仕掛けた西家多井はドラを引き込んでテンパイ、
          ドラ
をポンして、応戦する構えの河野。
         ポン  ドラ
この仕掛けによって親の土田も、ドラはないが3メンチャンが2つ残るイーシャンテン。
            ドラ
7巡目にして、状況はもはや終盤の様相を呈す。
普段であれば、この煮詰まった場況に対応していく阿部だが、やはりどこかで歯車が狂っているのだろう、リャンシャンテンの手から、多井への5,200放銃となってしまう。
これで阿部の持ち点は11,000と東場にして、かなりの劣勢になってしまった。
逆にこのアガリで気を良くしたか、2回戦ラスの多井が建て直しをはかる。
このような、ミスと呼べる放銃はしっかりと咎めてくる。これはそういうレベルの戦いなのだ。
東4局 ドラ
南家多井の配牌は以下。
            ドラ
なんてことのないピンフ手である。この手が阿部、土田の仕掛けによって、異様な寄りをみせる。12巡目までにマンズを8枚引いてこのテンパイ。
            ドラ
多井がテンパイ後に切った をポンして、高目満貫のテンパイを入れた河野から が出て12,000のアガリとなった。この局は結果的に、唯一メンゼンの多井がアガり、仕掛けの難しさと怖さを実感させられた。
このアガリを見て、平常心を取り戻せたのか、この後阿部が1,000、1,000オール、4,100オールと3局連続でアガり反撃を見せるも。後半は多井が横綱相撲で前回のラスを帳消しにして尚上回る大きなトップとなった。
多井 +39.4
土田 +3.9
阿部 ▲9.4
河野 ▲33.9
4回戦 起家から土田、阿部、河野、多井
3回戦までを終えて、順位を別にすれば阿部と多井が良さそうである。アガリがあるのはもちろんだが、手牌が動き、ほぼ全ての局面に参加できているようにみえる。
一方、土田と河野は不調とまではいかないもののオリに回らざるを得なかったり、対応している局面が多くなってしまっている。第10節に繋がるような麻雀が打てるかどうかが焦点になりそうな気がした。
東1局 ドラ
西家河野が配牌で1枚あったドラの をアンコにして、8巡目にこのテンパイ
            ツモ ドラ
若干ピンズの高い場況で、どういう選択をするかと見ていると、河野は素直に打 として、テンパイを取る。好調ではないが、自然に入ったテンパイは自然な形でとる。これは河野の雀風であると思う。筋にかかってるとはいえ、ここはダマテン。10巡目にあっさりツモって2,000-4,000のアガリ。ここまでにこういう形のアガリが無かった河野にしてみれば、嬉しいアガリになっただろう。
東2局は土田が伝家の宝刀チートイツでドラ単騎リーチ。
            ドラ
親の阿部もアンコ筋の を切って追いかける。
            ドラ
アガリ牌が脇に流れて、結果は流局。
東2局1本場は阿部が1,300は1,400オールをアガって、迎えた同3本場。
1人早い配牌をもらった河野が、5巡目にテンパイ即リーチ。
            ドラ
これを一発でツモって東1局に続き満貫のアガリとなった。
今までの鬱憤を晴らす形でアガリを重ねる河野だが、東3局は河野が土田に2,000の放銃。親番での連チャンとはなかなか行かせてはくれない。
東4局は全員ノーテンで流局、続く南1局南2局も流局し、膠着状態になってしまう。
それを破るべく南3局、多井が をポンしてチンイツへ。仕掛けた後にマンズを2枚引いてテンパイ。待ちはあまり良くないが、淀みないツモで感触は良いだろう。
           ドラ
しかし次巡難しい選択を迫られる。ツモ で以下の形。
            ドラ
場には が1枚、 が2枚切られている。
多井は、少考後 をアンカンして、 - 待ちに取った。するとカンドラがなんとポンしている 。
そしてリンシャン牌が 。
打 としてツモれば、三暗刻がついて三倍満まであるが現状で倍満の手である。多井はアガリやすさを優先し、さほど考えずに をツモ切った。それをあざ笑うかのごとく次巡のツモは 。表情を変えずにツモ切る多井の心中は穏やかではないだろう。ここまで派手な仕掛けになってしまえば、出アガリは期待できないので、山との勝負かと思っていると、
12巡目に1枚切れの を切って阿部がリーチ。
            ドラ
なんと、ツモり四暗刻である。このRMUリーグで役満のテンパイを眼にするのはいったい何度目になるだろう。この第9節において、またしてもアガリが出てしまうのだろうか。
決着はすぐについた。固唾を呑んでいる間もなく多井がラス牌の をツモって4,000-8,000のアガリ。オーラスを前に親カブりした河野をまくり、トップ目に立つ。
南4局 ドラ 
河野が意地をみせる。丁寧に手を組んで14巡目にリーチ。
            ドラ
トップの多井との差は3,000点なので、どこからアガってもトップになるリーチだ。
ツモはあと4回しか残っていなかったが、これをハイテイでツモって、裏ドラが1枚。僥倖のハネ満となった。
河野 +32.2
多井 +7.2
阿部 ▲11.9
土田 ▲27.5
第9節終了時
阿部 +94.0
土田 +79.3
多井 +31.5
河野 ▲51.6
こうして、残り1節を残すだけとなったRMUリーグだが、今節の土田の不調もあり数字的には面白くなった。
泣いても笑っても残り4半荘、これまでの戦いのような素晴らしい対局が待っていると思う。冒頭に書いたように数字だけに捉われずに、4人が4人らしい麻雀を打ってくれことに期待したいと思う。
(文中敬称略)
(文責・飯島健太郎)
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