2017前期クライマックスリーグレポート

2017前期クライマックスリーグ観戦記
RMUアスリート 狩野 哲郎

結果から記そう。



優勝:多井隆晴 205.3
2位:宮本卓 19.2
3位:阿部孝則 ▲13.7
4位:谷井茂文 ▲14.9
(以下8回戦足切り)
5位:河野高志 ▲0.2
6位:岡澤和洋 ▲38.5
7位:松ケ瀬隆弥 ▲59.1
8位:宮田信弥 ▲100.1

2017前期クライマックスリーグは、SS級ライセンス多井隆晴の優勝で幕を閉じた。
2位の宮本卓とのポイント差は約180ポイント。

圧倒的、そんな言葉さえ物足りなく思えてしまうほどの力の違いだった。
RMUリーグと、否、多井隆晴とR1リーグの間を隔てる長城はたったの2日で、見上げられぬほど高く、見通せぬほど長く、どんな策も弄せぬほど堅固なものに造り替えられてしまったのである。

以上が、最終成績を見返しての最初の印象である。
しかし、それは印象に過ぎない。これを決して結論にしてはならない。
観戦記を依頼された私の立つ瀬が無い。

本当にそうだったのだろうか?
ほんの一瞬でもその天守に手が届いた瞬間は、いや、せめてその天守をきっちりと目に焼き付けられた瞬間はなかったのか?
私は現場に立ち会うことのできた2日目に記したメモ書きを追いながら、各選手の足跡を追いたいと思う。


1日目終了時のポイント
1位:谷井 102.3
2位:阿部 43.4
3位:多井 33.5
4位:松ヶ瀬 17.7
5位:河野 ▲16.7
6位:宮田 ▲55.2
7位:岡澤 ▲60.4
8位:宮本 ▲66.6

2日目は奇数順位卓と偶数順位卓に分かれて6~8回戦を行ない、下位4名が足切り。残った4人でポイント持ち越しの上、9・10回戦+新決勝方式を行ない優勝者が決定する。


6回戦奇数順位卓(河野→多井→岡澤→谷井)

1日目の2回戦に引いた大きいラスが響き、苦しい位置に追い込まれた岡澤。だが、ここは意地を見せる。

東2局にトータルトップの谷井から8000は8300を出アガって頭一つ抜けると、次局、親番での選択が面白い。

ドラ

岡澤が長考に沈む。巡目も深くなっている。は生牌だがドラ、は3枚切れ。切りリーチかダマテンか? だが岡澤が悩んでいたのは第三の選択を取るか否かであった。

リーチ ドラ

あとから理由を聞くと、河野にテンパイ気配があり、を切りたくないことに加えて、の暗槓ができるように備えてとのこと。
事実、河野には、萬子が完成済だったとはいえダマテンが入っていた。

そして岡澤、南2局にはきっちりと両面への手替わりを待って、このアガリでダメ押しを決めた。

リーチツモ ドラ 裏ドラ

6回戦奇数順位卓スコア(カッコ内はトータル)
河野:▲10.6(▲27.3)
多井:+10.1(+43.6)
岡澤:+34.5(▲25.9)
谷井:▲34.0(+68.3)


6回戦偶数順位卓(宮田→阿部→松ヶ瀬→宮本)
1日目を終えて、R1リーグからの挑戦者、宮田、宮本は揃って劣勢を強いられていた。
放送の冒頭ではそれぞれ

宮本「ひたすら前に出てこうかなと……まずは3連勝目指して」
宮田「自分が以前にクライマックスリーグに出たのは3、4年前。……その時よりは若干はマシになっているかな、と。……まずは4人に残ることを目指す」

とのコメント。
そして、この6回戦が2人にとって、このクライマックスリーグの運命を大きく左右する1戦となった。

東1局
背水の陣となった宮本の先制リーチ。

リーチ ドラ

入り目は役無しで安めの
解説の鈴木が言う。「普段はきっと打たないリーチなんで」
これが冒頭のコメントであった「ひたすら前に出る」の体現なのだろう。巡目でもなく待ちでもなく、成就したときに、ある程度の見返りが望めることが第一。
そして、このリーチに立ち止まる訳にいかない、同じ背水の陣、起家の宮田が放銃に回ってしまう。

リーチロン ドラ 裏ドラ

東2局は親の阿部が4000オールをツモアガると、次局には宮本の、このリーチ。

リーチ ドラ

難しい手牌とツモを巧みにまとめ上げたが、第一打がでフリテンである。見た目枚数と場況からもこの選択の方が良いのだろう。だがこのリーチは、道中でを引かされた上に流局。麻雀に因果を取り入れてしまうと、眩暈のするようなアガリ逃しだ。劣勢であれば尚のこと。
しかし、次局、そんな因果を全否定する宮本のアガリが飛び出した。

リーチ一発ツモ ドラ 裏ドラ

アガリ牌、一発、裏ドラ、全てが高めに噛み合っての4000-8000。
50000点を越えて親番を迎えた宮本。ここから驚異的な粘りを見せる。

東4局。宮田のリーチをかいくぐって、このテンパイ。
ポン ドラ

1本場。宮本、1人テンパイ。
リーチ ドラ

2本場。宮本、1人テンパイ。
リーチ ドラ

残り時間20分。8回戦までは時間打ち切りアリのルールである。
このまま宮本に、ズルズルと連荘を許すわけにはいかない。加えて、3本場で供託が3本。
まずは松ヶ瀬が仕掛ける。ドラのを早くも河に見せて、このポンテン。

ポン 打 ドラ

だが、この手がなかなか倒せない。
そして、もう1人、松ヶ瀬以上に宮本の連荘に追い詰められている者がいた。宮田だ。時間打ち切りのあるこの半荘。少しでも早く、自分の親番をもう一度手繰り寄せ、連荘しなくては、大逆転の目が摘まれてしまう。
その手牌。道中は索子のイッツーも見ていたかもしれないが、苦しい形が多いため、タンヤオへと方向転換。

ポン チー ドラ

その瞬間、宮本の引き絞っていた弓から、3度目の矢が放たれる。

リーチ ドラ

よく見れば、は場に枯れている。も1枚切れている。
今回は自分の親権死守に加えて、仕掛けた松ヶ瀬と宮田の打点を正確に読み取っての選択。とはいえ、これも普段は打たないリーチなのではないだろうか。
「ひたすら前に出る」、そのフレーズが再び頭をよぎる。
その間に、映像は宮田の手に舞い降りた五萬を映していた。止まるはずがない。そして大き過ぎる代償。

リーチ一発ロン ドラ 裏ドラ

背水の陣でこの半荘に臨んだ2人だったが、ここから宮本は大逆転への足掛かりを作っていき、一方の宮田は足掻けば足掻くほどに、光の届かぬ水の底へと沈んでいく。

東4局4本場、宮田から宮本へ、5800は7000。
東4局5本場、宮田から宮本へ、2000は3500。

この半荘で宮本は初日の負債を帳消しとし4位に浮上。宮田は負債が100を超えてしまい、事実上の終戦となった。

6回戦偶数順位卓スコア(カッコ内はトータル)
宮田:▲54.3(▲109.5)
阿部:+13.2(+56.6)
松ヶ瀬:▲26.6(▲8.9)
宮本:+67.7(+1.1)


7回戦奇数順位卓(谷井→多井→松ヶ瀬→河野)
6回戦に首位の谷井が大きめのラスを引き、混迷を増す優勝争い。
ここでの注目は、現在5位の松ヶ瀬(▲8.9)と現在7位の河野(▲27.3)だろう。8回戦の足切りを避けるためにも、ここは是が非でもプラス圏に復帰したい。また、首位の谷井(+68.3)と同卓ということもあるため、贅沢を言えば谷井を下位に沈めた状態のトップが万々歳ではあるが果たして、そんな2人の気合が谷井と多井にも伝わったか。この半荘は各者が必ず満貫以上の手をものにする乱打戦となった。

東2局。
松ヶ瀬がこのリーチ。

リーチ ドラ

5巡目に切りの両面固定、次巡のを空切りしており、待ちをぼかす心憎い演出。
既にダマテンを入れていた多井が、これに一発で飛び込み、8000点の出アガリとなる。

東3局は、谷井がこの8000を河野から。

ポン ドラ

多井の先制リーチを受けて終盤、河野の手から逡巡の後に打ち出された。多井の現物とはいえ、リーチ宣言牌を叩いた谷井へのマークを忘れたわけではないだろう。
ただし、それまでにと切っての手出しが
この打点は想定外だったか。

だが、このままで終わるS級ライセンス河野高志ではない。

東4局の親番では、松ヶ瀬とのリーチ合戦を制して、12000のアガリ。
1本場は、ホンロートイトイにも見える多井の仕掛けに、生牌のを被せてから、この6000オール。

リーチツモ ドラ 裏ドラ

南1局、河野を追いかける親番の谷井。松ヶ瀬の先制リーチに真っ向勝負。

ツモ ポン ポン

この2600オールで河野を猛追。

そして、南1局2本場でようやくこの男が魅せた。
親の谷井の先制リーチに対して、多井隆晴、狙いすました七萬を重ねて、この追いかけリーチ。

リーチ ドラ

自分の目からも全て見えているこのリーチ、ドラのは何と全部山。これをハイテイでツモりあげると裏ドラも乗せて4000-8000は4200-8200。

オーラスは連荘を目論む河野がドラのバックとチャンタを見た仕掛けを入れるも、この仕掛けで字牌が重くなるとにらんだ松ヶ瀬が、道中ホンイツとチートイツの選択でチートイツを選ぶと、この3000-6000をアガりきり、終局となった。

リーチツモ ドラ 裏ドラ

7回戦奇数順位卓スコア(カッコ内はトータル)
谷井:+6.1(+74.4)
多井:▲10.2(+33.4)
松ヶ瀬:▲26.2(▲35.1)
河野:+30.3(+3.0)


7回戦偶数順位卓(岡澤→宮田→阿部→宮本)
1半荘で1日目の負債を返済し、急浮上した宮本。しかし、8回戦での足切りを免れるためには、そして優勝争いに名乗りをあげるには、さらなるポイントの上積みが必要だ。

先制はトータル2位の阿部。
宮田との2軒リーチを制して、5200の出アガリ。

しかし、宮本の勢いが止まらない。
東2局に、この3000-6000。

リーチツモ ドラ 裏ドラ

東4局の親番では、阿部の仕掛けと宮田のリーチを振り切って、2600オール。
そして、際立ったのが南入してからの立ち回りである。

南1局。宮本、先制であることと打点が見込めることから、淀みないモーションでリーチ宣言。

リーチ ドラ

一発でをツモアガって、2000-4000

南2局1本場。
親の宮田と阿部の2軒リーチに挟まれた宮本だったが、このテンパイ。

ドラ

ピンフドラドラ。既に50000点を越えたトップ目。下を突き放し、頂に迫る気負いで思わずリーチしたくなる手牌である。だが、リーチ者は親の宮田と、まだ親番を残した2着目の阿部のリーチ、そして、両面待ちとはいえ自信度も低いのだろう。宮本の選択は、これらを鑑みてのダマテン。冷静に宮田から3900は4200の討ち取り。

かと思えば南3局には、親番の無い断トツラス目岡澤のリーチに対しては、追いかけリーチ。

リーチ ドラ

最後に、オーラスの親番は高い手以外での連荘は不要とばかりに、この選択。

ツモ切り ドラ

この選択は成就こそしなかったものの、宮本2連続の大トップで、優勝戦線に堂々と名乗りをあげた。

7回戦偶数順位卓スコア(カッコ内はトータル)
岡澤:▲42.7(▲68.6)
宮田:▲10.1(▲119.6)
阿部:+1.9(+58.5)
宮本:+50.9(+52.0)


8回戦奇数順位卓(岡澤→河野→谷井→宮本)
この8回戦終了時に、下位4人は足切りとなる。
ざっくりとした条件は下記の通りだろうか。
谷井……大きめのラスを引いても安泰。
宮本……ラスの場合は、小さめのラスなら安泰。
河野……別卓の2位阿部、4位多井次第。トップを取っても別卓の2人がワンツーフィニッシュになると厳しいか。一方で大きめの2着であっても、別卓の多井がラスならば、決勝進出もあり得る。
岡澤……同卓の河野をトータルでまくるトップを取って、さらに別卓次第。

まずは起家の岡澤が粘る。1300オール。2人テンパイ。2人テンパイ。
しかしこの2回の2人テンパイ、岡澤とともにテンパイを入れていたのが宮本だ。
中でも2回目のテンパイだが、岡澤の六巡目先制リーチを受けてのもの。岡澤のリーチはこの形。

ドラ

既に待ちのは純カラなのだが、粘りを見せる宮本からが余りそうになる。
14巡目。

ドラ

現物は。安全牌があと1枚増えれば、最後まで降りきることはできる。ただ宮本は、リーチ後にが通ったことと、のワンチャンスで、打
そして最終手番にツモ

ドラ

が通っている以上、ならの選択だろう。
しかしツモ番は無い。待ちも自分から1枚も見えていないドラのカンチャン待ち。卓内ラス目の岡澤の親リーチ。降りる理由は幾つでもある。だが、宮本はファイティングポーズを崩さぬまま、に手をかけてのテンパイ維持。

この半荘、宮本の攻めの姿勢を象徴する場面が、もう1つあった。

南3局。時間打ち切りのため、この局+1局が告げられたところでの、この先制リーチ。

リーチ ドラ

8巡目まで、宮本以外の三者とも、字牌と端牌を処理しただけで情報の少ない河。残り2局。ここを制すれば2着の座は手堅くなり、トップの背中も見えてくるという点数状況。
解説陣からも声が上がる。宮本が普段の麻雀ではなく、タイトル戦仕様の攻めの姿勢に入り込めていることが伝わってくるのだ。
この後の岡澤と、親の谷井の追いかけリーチには肝を冷やしたかもしれないが、宮本、力強くをツモ。

最後、岡澤を捲るまではいかなかったものの、浮きの2着。「まずは3連勝目指して」という冒頭のコメント通りにはならなかったが、それに匹敵する宮本の快進撃だ。

RMUリーグという頂が、見えてきた。

8回戦奇数順位卓スコア(カッコ内はトータル)
岡澤:+30.1(▲38.5)
河野:▲3.2(▲0.2)
谷井:▲41.2(+33.2)
宮本:+14.3(+66.3)


8回戦偶数順位卓(阿部→多井→松ヶ瀬→宮田)
7回戦終了時。宮本の2連勝で、スタジオ内は2つの雰囲気がない交ぜになっていた。
宮本がこのまま大逆転して、RMUリーグ入りまで突っ走ってしまうのではないかという興奮。
挑戦者が1人は足切りを免れて、番組的に盛り下がらずに済みそうだという安堵。
そしてその中で選手たちは、外野の雰囲気に浸食されないよう、静けさを発しながら集中力を研ぎ澄ましている。

だが、その興奮にも安堵にも静けさにも飲まれない、ハイテンションな男がいた。
RMUリーガー、多井隆晴だ。
その多井が7回戦終了時にこんなようなことを言っていた。
「俺、卓と同卓のとき(昨日の1回戦2回戦)、毎回トップ取ってるんだよ!それで俺が足切りになるとかマジやってない! 俺を負かして勝ってくれないと認められない!」

RMUに入る前から、筆者は思っていたことがあった。
試合前も、試合後も、試合の間も、試合ではない時も(とある人狼の練習会にて)、何故この人はずっとハイテンションで居続けられるのであろう。一体どこに、モードを変えるスイッチが隠されているのだろうかと。

だがこの多井の言葉と、この8回戦の結果を見て、私の中ではその疑問にある一つの答えが呈された。

多井のスイッチは、灯りのように点いたり消えたりさせられるものではないのではないか。
そのスイッチは、電熱器やラミネーターのように、静ではなく熱。モードを変え切るまでに時間を要するものなのではないだろうか。
「俺を負かして勝ってくれないと認められない!」という言葉が発されるのも、その熱を高めるための、多井なりの集中の仕方なのだろう。

そして、何より恐ろしいのは、その言葉通りに、多井隆晴がこの後、宮本卓の前に強大な存在となって立ちはだかったことである。

東2局。多井の親番。

ドラ

道中の手牌進行を記せなかったのは筆者の不徳でしかないのだが、チートイツや暗刻形が見える手組になっていたところで、生牌のを切って1枚切れのを残す選択を挟んでいる。
正直、筆者の雀力ではその優劣が分からなかった。むしろも単騎選択として悪くは見えなかったので、単純枚数で選んでしまいそうである。

そこまでの進行で既に背筋の寒くなっている筆者の目の前で、その手は終盤、手繰り寄せた14枚目の牌とともに開かれた。

ツモ ドラ

16000オール。
大勢決した。そんな諦めに似た空気。
しかし、そんな多井に鈴を付けに行こうと攻めたのは、宮田だった。

宮田はこの半荘、東1局に2000-4000のツモアガリをしていた。2日間通してようやく手にしたリードであったが、次局、それを完膚無きまでに叩き潰す16000オール。むしろ一番心の折れる立場と言えなくもない。しかしこの後、宮田が頭を下げずにその多井との差を少しでも詰め、捕えようと奮戦する。
東2局2本場に、多井に満貫の親かぶりをさせて、南1局にはこの倍満のアガリ。

ツモ ドラ

この半荘、仮に多井を捲れたとしても、足切りを免れることはできないだろう。
ただ宮田としては、この半荘を消化試合にする気は無かったと思っている。
生涯成績? それもあるだろう。だが、もっと大きいのは4年前に進出を決めたクライマックスリーグでも今回のクライマックスリーグでも、1度のトップも取れていないということではないだろうか。宮田は、ここでトップを取ることが、再びこの同じ舞台に立った時の大きな糧となる、そんな想いを込めていたのではないだろうか。

オーラス、宮田は6000オールで多井を捲るところまで差を詰める。
しかし、そこまで。最後は多井が宮田から1000を出アガり、彼のクライマックスリーグに終止符を打った。

8回戦偶数順位卓スコア(カッコ内はトータル)
阿部:▲47.5(+11.0)
多井:+52.0(+85.4)
松ヶ瀬:▲24.0(▲59.1)
宮田:+19.5(▲100.1)


9回戦(阿部→多井→宮本→谷井)
残った4人のポイントは下記の通り。
多井:+85.0
宮本:+66.3
谷井:+33.2
阿部:+11.0

谷井、阿部もこの9回戦でトップを取れば、優勝圏内に踏みとどまることができる。とはいえ、2日目にポイントを伸ばして駒を進めた多井と宮本の一騎打ちが、視聴者や関係者の予想する雰囲気であり、希望する展開であろうか。かくいう筆者も、現場ではその一人だった。
だが、ここからが多井隆晴による圧勝劇の幕開けであった。

南2局2本場。
多井の圧勝劇を象徴する1局だったように思う。

阿部329 多井475 宮本143 谷井253

既に大きなリードを得た多井の親番。
宮本が5巡目に暗槓。

アンカン ドラ カンドラ

まだリャンシャンテンではあるが、ビハインドを追っていることと、どの牌も現状選択できないゆえの暗槓だろうか。
7巡目の多井。

ツモ

自分からが3枚見え、が1枚見えである。とはいえ、親の威で打リーチに踏み切るのがマジョリティであろう。だが、多井の選択は違う。



次巡のツモでその狙いが明らかになる。
多井、何かを確認するように卓上をねめつけると、打としてテンパイ外し。
次のツモ、を捕えてリーチ。

リーチ ドラ カンドラ

そして終盤にをツモアガって、4000は4200オール。

「冷静だし強欲だし」
解説の松ヶ瀬が漏らしたこの言葉も、多井の強さの真髄の一つである。

9回戦スコア(カッコ内はトータル)
阿部:+8.9(+19.9)
多井:+50.7(+136.1)
宮本:▲51.9(+14.4)
谷井:▲7.7(+25.5)


10回戦(谷井→阿部→宮本→多井)
大勢が決してもなお、多井はその手を緩めない。
東1局に8000を谷井から出アガると、次局は阿部の親リーチに対して、ドラの単騎待ちのメンツ手で追いかけリーチを敢行。これも阿部から打ち取ってしまう。
さらには東4局の親番では4本場まで積み、南3局には下記の点数状況。

谷井114 阿部142 宮本220 多井734

そして挑戦者宮本、最後の粘り。

0本場。谷井→宮本 12000
1本場。宮本1人テンパイ
2本場。4000は4200オール
3本場。宮本1人テンパイ(ツモり四暗刻)

この半荘のトップなら、あと、4000オール。

南3局4本場供託1。
多井は手を緩めない。上家の宮本にプレッシャーをかけながら、9巡目にこのテンパイ。

チー ポン ドラ

対する宮本はその時、下記の牌姿。

ドラ

苦しい。下家の多井をケアしながらのチートイツリャンシャンテン。
多井を捲るには気の遠くなるほどの連荘が必要だ。それを達成する可能性は天文学的に低い数字に違いない。
だがこのクライマックスリーグの挑戦者として、その可能性を放棄するような麻雀を打つわけにはいかない。そんな宮本の矜持を証明する対応と選択が、このテンパイまでたどり着かせた。

リーチ ドラ

多井の当たり牌を重ねてのリーチである。山にはまだ1枚生きている。

しかし、牌山は常に視聴者のロマンティシズムには無関心なのだ。
解説室の河野が思わず声を上げる。
「非情だ」
次巡、宮本の切った牌に、多井の手は倒されていた。

ロン チー ポン ドラ

10回戦スコア(カッコ内はトータル)
谷井:▲49.9(▲24.4)
阿部:▲29.1(▲9.2)
宮本:+8.3(+22.7)
多井:+70.7(+206.8)


トータルスコア(カッコ内は新決勝方式)
優勝:多井隆晴 205.3(▲1.5)
2位:宮本卓 19.2(▲3.5)
3位:阿部孝則 ▲13.7(▲4.5)
4位:谷井茂文 ▲14.9(+9.5)


2017前期クライマックスリーグ。
人は「多井隆晴が圧倒的な力の差を見せつけて完勝した試合」とラベリングするのだろう。筆者もそのラベリングを少しでも剥がそうと試みたが、それは不可能であった。省いた局面こそあるものの、今回の試合は常に多井隆晴という打ち手の恐ろしさが付き纏った。
しかし、そんな多井隆晴の圧勝劇に対して、最後まで自身の麻雀をぶつけて、精一杯抗っていたのがR1リーグからの挑戦者2人だったのではないか。そんな瞬間がほんの少しでも、この観戦記から伝わっていたのであれば筆者冥利である。
そして、もしそれが伝わってくれたのなら、いつか宮本卓宮田信弥がRMUリーグ入りを決めたとき、少なくとも本人にとって、2017前期クライマックスリーグは「多井隆晴が云々」というラベリングの剥がれた1ページになってくれることだろう。
携わった観戦記者として、そんな瞬間が訪れることを切に願わずにはいられない。

狩野哲郎
(文中敬称略 文責・狩野哲郎)





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