2011オープンリーグ決勝レポート


オープンリーグ2011観戦記

オープンリーグ2011、準決勝は例年になく面白かった。競技選手として卓に着く以上、誰もが目指す決勝卓。準決勝は半荘3回戦のトーナメントであるから、最終戦オーラスは往々にして熾烈を極める。負けた選手の気持ちは本人だけのもの。外野が推し量ることはできないが、彼らの落ち込み様からは、あらためて決勝卓というものの重みが感じられた。

準優勝者は一番の敗者であり、一回戦負けも決勝卓での負けも等価値という考えもある。がしかし、RMU代表・多井隆晴は、以前このようなことを言っていた。
「勝ち進んだぶん、そこには必ず何らかの価値がある」。
かつてはシルバーコレクターと呼ばれていた人間の本音だと思う。

準決勝までで敗退した選手は、その過程を大切に、ぜひとも次の戦いへ進んでもらいたい。
また、彼らの存在があるからこそ、決勝卓に辿り着いた四名には一打の緩手も許されるべきではないし、そうした者から敗者となるのが道理である。

かくして決定したオープンリーグ2011の決勝卓面子は以下、五十音順で紹介する。

多井隆晴(初)
多井隆晴

RMUの若きカリスマと呼ばれた多井も、今年で不惑を迎える。基礎雀力、経験値はいうまでもなく、状況に見合った戦術を取れる柔軟さ、面子やルールに惑わされない己への強固な自信など、どれを取っても円熟味を増し、やはりRMUのカリスマであり続ける。日本オープン、あじさい記念、RMUクラウンなどタイトル戦を勝ち続ける彼に、誰が鈴を付けるのか。

「いつも通り、良い牌譜を残したいだけ。俺に勝って(プロ二人は)プロとして飛躍してほしい」

谷井茂文(2年連続2回目)
谷井茂文


オープンリーグ2010決勝オーラスにおいて、谷井は苦しんでいた。最終戦前に首位の江澤陽一とは50p差があり、さらに道中もほとんど手が入らない。南3局で僥倖のハネ満をツモり、オーラスでの三倍満ツモ、役満条件までこぎつけるもそこまで。初の戴冠を目指し、顔を上げない江澤陽一鈴木智憲を、すでに目無しとなっていた平山友厚と共に見つめるだけの人だったのである。

「去年は本当に悔しい思いをした。今年は調整もうまくいっているし、いいメンタルで臨めます。リベンジしますよ」

山田田(初)
山田田

山田はR1所属。筆者の手元には他プロ団体の会報のバックナンバーがあり、そこに山田の名前を佐野たか子女流アスリートと共に見つけることができた。日付は平成13年とあり、若手の多いRMUにおいて山田には一日の長が見受けられる。意外なことに山田は今回が初決勝。これまで幾度となく務めてきた採譜者の席から、じわり踏み込んだ情景は果たして。

「決勝卓は初めてなので、とにかく胸を借りるつもりで。いつもと同じように打つことを考えます」

吉田信之(初)
吉田信之
唯一のアマチュア、RMUライト会員である吉田は、RMU設立当初からタイトル戦において好成績を残してきた。2008年にはスプリントファイナルを制し、決勝卓での経験値は人後に落ちない。幾度となく競技プロとしての道を誘われるも、独自のスタイルを貫く。

「以前に谷井さんと決勝で戦った時は(2007年スプリントファイナル)、最終戦の前に目無しになってしまいました。今日はそのリベンジのつもりでやりたいと思っています。とはいえ、とにかく周りみんなが強いので、粘り強く打って、相手のミスとチャンスを待つだけです」



定刻40分前に会場へ入ると、すでに吉田が奥の椅子に座り談笑している。吉田は物静かな人ではあるが、この日はいつも以上にリラックスしているように見えた。意気込みを聞けばスラスラ言葉が生まれ、それは左脳ではなく心からのものだと受け取れる。

「調整はしていません。もともと、そんなに打荘数が多いほうではないんですよ。巷のフリー雀荘も、いまいちルールが好きじゃなくて。昔からの、赤ナシルールの麻雀が好きなんです」。詳しくは後述するが、吉田は競技麻雀の魅力の一つである、手役作りを徹底的に楽しむ打ち手である。今日はどんなアガリ形を見せてくれるのか、期待を感じさせてくれた。

続いて山田が会場入り。所作が素早い山田は、いつもの通りコートをロッカーにしまうと、一服を付くためにまたエレベーター前へと戻っていった。追いかけて話を聞くと、「とにかくいつも通りやること。特別なことはせず、自分の麻雀を打ちたい」。言葉はシンプルだが、やはりこれも切なる思いだろう。

ほぼ山田と同時刻に多井が会場に。内容は忘れたが、この日の対局とはまったく関係のない雑談を早口にしゃべっていた。彼なりの緊張の表現なのかとも思ったが、決勝進出回数がそろそろ三十にも届こうかという多井のこと、それは当てはまらないだろう。運営陣にいくつかの業務連絡を終え、プレイヤーとしての顔をした多井はいつもの多井である。

最後に会場へと現れたのは谷井。谷井は元来明るい男であるが、対局前の雰囲気はかなりナーバスに見える。卓に着いた時の、周りを圧倒する集中力が生まれるまで、彼なりのルーティンワークがあるのだろう。冒頭のコメントを聞くのがやっとで、彼はまた一人の時間に入っていった。


1回戦

・東1局0本場

緒戦を親で迎える人間は、試合開始を告げる特別な一打を打つことが許される。この日、その任を与えられたのは吉田。さっと彼の後ろに回ると、大物手の予感がかすかに見える14枚。

 ドラ

迷わずを選ぶと、次巡にを引きすぐにソウズのカンチャンターツを払う。5巡目に裏目となるを引くもののまったく表情を変えることもなく、マンズのホンイツへ。早々に6巡目にはイーシャンテンとなった。谷井と多井の手にがあるが、どちらも重たい手であり鳴くことができない。

待望のテンパイは11巡目。を引いて以下の形。

 ツモ

でメンホンイッツーイーペーコー。ヤミテンで18000の大物手。吉田はワンテンポ置いてを切る。残り三枚のは山田と多井の手のうちにあり、出ていく格好とはなっていない。終盤、マンズを切らずテンパイを果たした山田との二人テンパイ。吉田もこの流局は十分に予測できるものだったか、表情は淡々としている。

ほぼ手にならなかった多井、谷井もまた、起親をケアし手にならないと見るや早々に打牌のトーンを抑える。さすが、このメンツになると、緒戦の入り方に間違いはないと唸らされた。

・東1局1本場

南家、山田の配牌が面白い。

 ドラ

字牌が2組対子、数牌は奇数が多いものの、簡単に順子はできない形。競技麻雀では往々にして役牌が鳴けず、こういった手はチートイツを余儀なくされる。多井の戦術、いわゆる「多井システム」において、役牌2組対子は仕掛けの一手だが、この手を手にしたのは山田。興味を持って見ていると、まず孤立したピンズを払い、6巡目に谷井から打たれたをポン。その後もソウズを続けて引き、8巡目にテンパイを果たす。

 ポン ドラ 

打点は十分なものの、待ちはドラ表のカンチャンと最悪。もう一つポンをしたいは谷井の手元で対子となっていた。は吉田が早々に暗刻にしており、またしても流局かと思ったその時、おそらく山田にとっては望外の尖張牌が河に放たれた。

多井が7巡目に以下のイーシャンテン。完全に不要のドラを叩き切ったのである。

 ドラ

実は5巡目にすでに多井はイーシャンテン、



メンホンチートイツのイーシャンテンから二つ暗刻にして、メンホン四暗刻のイーシャンテンにまでこぎつけていた。2巡目からピンズのリャンメンターツを払っていたことから、変則手の予感は三者にもあったとは思うが、これで一気に場が沸騰した。

山田はドラをややトーンの高い声でポン。

   ドラ

11巡目、多井がを引いてこの日初めての長考。自身はマンズのホンイツではあるが、対子手を志向し5巡目に切っている牌である。多井から見て山田の河はソウズの真ん中から上、そしてマンズは現物の以外はほぼ危険牌に映る。多井はここでスッとを抜き、次巡にを引きまたを落とした。役満イーシャンテンということもあり、押し続けるほうがマジョリティーだとは思うが、ここで穏やかに守勢へ転じられる点は、多井の安定した強さの一因でもある。

ドラポンの後、7巡のツモが許されるも、山田の本手は成就せず。

・東2局2本場

ここまで受けに徹してきた谷井の手が進む。

 ドラ

この配牌から第一ツモでを引き、軽快に役牌を切り飛ばす。道中、国士無双の気配を見せた多井に目をやるも、8巡目には以下のイーシャンテンで盤石の構え。567のサンショクが見える。

 ドラ

谷井の勝負気配を察した多井、中盤でを置き守勢へ。このまま谷井がアガるかと思いきや、山田も同じくサンショク、こちらは123が確定している。谷井が12巡目にテンパイすると、それを追うように山田もカンを引き入れテンパイ。

谷井
 ドラ

山田
 ドラ

決着は流局寸前、谷井が高めをツモり上げた。

・東3局0本場

まずまずの配牌をソツなくまとめた吉田が、11巡目にタンピン高めイーペーコーのテンパイを入れる。

ドラ

は1枚ずつ切れ、自分が1枚使っている。高めツモでマンガンの手であることからリーチもあるかと思ったが、慎重にヤミテンを選択。開局からまだアガリを手にしていないことも関係したか。

このドラを南家の谷井がポン。これがポンテンとなって以下の形。

  ドラ

は中盤を過ぎても、河に姿を見せていない。麻雀とは難しいもので、場に見えていない牌よりも、適度に他人が切ってくれている、見た目の残り枚数がやや少ない待ちのほうがアガりやすい。結果はすぐにを掴んだ谷井が、吉田に放銃となった。


・東4局0本場

8巡目、吉田がこの日初めてのリーチ。

ドラ

これに14巡目の追っかけリーチとなったのが親の谷井。

ドラ

リーチの時点ですでには山になく、はリーチ合戦の相手の吉田に1枚、リーチ直後に山田の手に吸収された。

常々、親番が加点の最大のチャンスと考えて、よほどのことがない限りは攻め続けるのが谷井のスタイル。それは相当の爆発力を秘めると同時に、こういったかなり分の悪いリーチをかけることもある。もちろん、本人もアガリが見込めるとはほとんど思っておらず、流局で上等と考えているはず。

腹案通りか、この局は吉田もアガリを掴めずに流局。


・東4局2本場

1本場となった次局も流れ、そこで出された山田のリーチ棒を加え、供託3000点となって迎えた東4局2本場。多井が積極的に仕掛けていく。

3巡目のをポン。さらにをチー。以下のイーシャンテン。

チーy ポン ドラ

しかしこの局を制したのは山田。

ツモ ドラ

供託分を含めてマンガン以上の収入となった。

山田は4巡目、以下の形になり、

 ツモ4m ドラ

ここから多井をケアしの対子落としをしている。四面子一雀頭を作るだけならば、もしくはを切るのが早いのは百も承知での安全策。さらに中盤には以下のテンパイを拒否した。

ツモ ドラ

すでにここまでを切っている打ち手も多いはずで、このリャンメンテンパイは価値がある。リーチのみだが供託が3000点あるこの状態、このテンパイに辿り着いた打ち手の多くがリーチを選択する。しかしここでも山田はドラでの放銃を良しとせず、打。次巡にドラが重なり、さらにヤミテンにしてでのツモアガリとなった。

これまで筆者は多数の決勝において、リャンメンのメンゼンテンパイが入るや親の仇とばかりに牌を叩きつけ、リーチと出る打ち手を観戦してきた。スピード全盛の現代麻雀では確かにリーチは必須の戦術である。それと逆行するように見えるこの山田の打ち回しには、下位リーグで勝ちきれない若手競技選手へのアンチテーゼが見て取れた。


・南2局1本場

ドラのを重ねた多井、静かに牌を横にする。

 ドラ

これに追いかけたのが、中盤にやはりドラを重ねた谷井。

 ドラ

しかしこの待ちはまたもや純カラである。多井もリーチの時点ですでには山にはない。多井は滅多にこうした残り枚数の少ないリーチを打つことはないのだが、この場合はピンズの情報が少なく、致し方ないといったところか。

ここでのアガリは、リーチ前に多井が放ったをポンしていた山田。点数申告をすませると、二本のリーチ棒を優しくつまみ上げた。

 ポン ツモ ドラ

これで山田は持ち点が40000点を超えた。表情に全く変化はないが、「いつも通り戦えている」という感触はあるだろう。

一方、劣勢を強いられる多井といえば、やはりいつも通り。劣勢であることを感じさせない、ただ麻雀道を追求するその姿があるだけである。


・南2局2本場

多井の配牌が良い。

 ドラ

首尾良くサンショクを絡めればハネ満まで見える。4巡目にイーシャンテンとなると、5巡目にを引いてさらに万全の形。

 ツモ 打  ドラ

さらに次巡に567のサンショクのイーシャンテンとなるを引きスライド。しかしここからがやや長く、多井はこの手のテンパイに6巡のツモ切りを強いられる。ようやくを引いてテンパイするも、リーチ棒を出すには巡目が深すぎた。

凡庸な配牌から、道中でドラを2枚引いた山田のみ少しやる気を見せていたものの、ここもあと1枚が入らずイーシャンテンのまま。ここは多井が一人テンパイ。

3000点の収入でまずまずの結果に見える多井だが、実はかなり調子が悪いと筆者は感じた。というのも、イーシャンテンの時点で多井の有効牌となるピンズはほとんど山にあり、それがことごとく他の三人に吸収されていたからである。

麻雀における「調子」というものは競技者の心身にのみ意味を成す言葉と解釈しているが、この日の多井は古い言い方を許してもらえれば、「ツモが効かない」のである。とはいえ、多井は自らの不調をすでに察してか、流局にもさして落胆は見られない。


・南3局3本場

心中、期するものがあったのか。洗牌をする谷井の所作がいつも以上に大きい。散家であっても遠慮せず大きく手を動かす谷井だが、この時は特に目立った。意気込んで手にした配牌は以下。

 ドラ

打ち手の気持ちと麻雀牌の並びは別物。当たり前のことを確認し、親番の多井を見る。

 ドラ

多少はバラ付きがあろうと、奇数の多い配牌を手にした多井は、ギャラリーを沸かせる。どのような手順でこれをまとめてくれるのか、興味を持って見た。

12巡目で以下のイーシャンテン。

 ドラ

同巡、山田が悪形ながらも5200点のテンパイを入れる。

 ドラ

は直前に谷井がツモ切っている。が同じく谷井の切った序盤に1枚見えているだけであり、ソウズの下が高い。そしてこれに追いついたのが吉田である。

 ドラ

3巡目のイーシャンテンから、このテンパイを組むまで実に12巡を要した。ここでのリーチ判断は難しい。リーチと一声かければ対応され、ヤミテンにしておけば出ていた牌も出なくなる。リーチかヤミテンか。赤アリの一般フリールールならリーチで良い場面も多いが、やや打点の作りにくいこのルールでは、周りがすぐオリに回ることも多いため、うかつにリーチができない。

これを吉田は片アガリのヤミテンに受ける。その視線は常に山田に向けられており、ヤミテンをケアしていることが伺えた。吉田が狙い通りのでアガるのか、それとも山田のイッツーが成就するのか。序盤に手が進んだ多井はまだテンパイできず、それどころか山田がツモ切ったのポンテンすら取らない。ネットやテレビ中継ならば観客が大荒れとなるスルーである。

アガリ番は山田か吉田のどちらかと目が離せなくなった終盤、静かに摸打を繰り返していた谷井がツモ牌を叩きつけた。

手元を見ると、そこには配牌からは全く想像のつかないアガリ形があった。

 ツモ ドラ

絵に描いたようなサンショクのアガリ。これには驚かされた。繰り返すが配牌は以下である。

 ドラ

9枚手役であるサンショクのうち、ここではまだ3枚しかない。平凡な書き方になってしまうが、ここから残りの6枚を、谷井は最高の打点となる順番で引いてきた。こういうことがあるから、麻雀は配牌ではなくツモだと思わされる。

このアガリで谷井は一気に山田をマクり、トップ目に立った。一方、のポンテンを取らないことでハネマンの親被りとなった多井だが、まったく気にした様子はない。本来鳴くべき牌を鳴かず、メンゼンで仕上げることによって数々のタイトルを手にしてきた多井。彼なりの勝負感覚があったのだろう。

筆者は過去に多数のアスリートを取材してきた。その経験を元に語らせてもらえば、超一流の人間は自らの勝負理論を言語化できないことが多々ある。野球やサッカー、囲碁将棋の世界でも、トッププロだけが持つ感覚があり、それらは事後しばらくたってからようやく体系化されるのだ。多井のこのスルーは、その感覚であると言い切るしかない。



・南4局1本場

RMUのルールは順位点が5-15と小さく、素点重視のゲーム運びとなる。1回戦が終わることでそれぞれに順位点による評価が与えられるが、この時点では四人とも着順への意識は薄い。オーラスではあるが、それぞれ打点を意識した手組。マクられた山田にも焦りは微塵も感じられない。

4巡目にイーシャンテンとなった多井。またもテンパイまでのツモに苦しめられる。

ドラ

多井はリャンメンとリャンカンが残るイーシャンテンを嫌い、極力そうならない手組を志向する。2分の1の確率でカンチャンテンパイとなってしまうことがその理由だが、この手の場合は序盤に形が決まってしまっていた。河も三段目に差し掛かったところでようやくテンパイ。これに飛び込んでしまったのが吉田である。

 ツモ フリコミ

テンパイ打牌にロンをかけられたわけだが、これは避けられないか。多井のヤミテンをある程度は察していたこともあり、淡々と点棒の授受を終わらせた。絶対的本命の多井がラスになれば、観戦者としては面白い。三人がかりで大きな鈴を付けられるところが、すんでのところで逃げられた格好ではある。


1回戦終了

多井 ▲11.1
吉田 ▲30.1
山田 +12.1
谷井 +28.6


2回戦

・東1局0本場

谷井の配牌が面白い。

 ドラ

6巡目にを鳴き、

 ドラ

しかしこれが、2段目が終わってもアガれない。終盤にを引き、小考して打。その後に当初の待ちであるを引く。終盤に手が進んだ、吉田との二人テンパイ。


・東2局0本場

親番を迎えた多井の配牌、

 ドラ

これをまとめて13巡目にリーチ。

 ドラ

人工衛星のように卓の周りを動き、三者の手牌を見る。山に残ったはなんと5枚。この終盤で、ここまで待ち牌が多く山にいることは非常に珍しい。多井の強さの一端は、こうした勝算の高いリーチを打てることにある。を一発でツモり4000オール。


・南1局0本場

7巡目の吉田の手。

 ツモ ドラ

ドラ表に一枚、山田の河に一枚のペン7sテンパイ。先にこちらが入れば文句なしのリーチだが、リャンメンを先に引いたことで小考。ドラがだけにやや難しいが、ほどなくを切り出した。ピンズを引いて10巡目に盤石のリーチ。

 ドラ

先ほどの多井のリーチを上回る、リーチの時点で山に6枚残りのリーチである。これをツモり2600オール。

その後、谷井がマンガンをツモり、叩き合いの様相を呈す。


・南3局0本場

吉田の手が気になる。8巡目に以下のテンパイが入るが、慎重にヤミテンでのアガリ。

 ツモ

山田がピンズのホンイツ模様であり、めくり合いになれば分が悪くなることを懸念した選択だとは思うが、これはリーチを打つ人も多いのではないか。持ち点は40000点を越え、穏便に局を消化したいという気持ちとのせめぎ合いが見て取れた。

を一発でツモる結果に関わらず、加点のチャンスをわずか4000点で終わらせたことが、今後どう出るか興味の対象となる。


オーラスは多井が積極的に仕掛け2着を確保。


2回戦終了(カッコ内はトータル)

多井 +8.9(▲2.2)
吉田 +31.6(+1.5)
山田 ▲27.9(▲15.3)
谷井 ▲12.6(+16.0)


3回戦

この頃からギャラリーが増え、入れ代わり立ち代わりとなる。途中、山田の後ろに女性が二人現れ、神妙な顔つきで手牌を追っていた。聞けばその二人は、山田の教える麻雀教室の生徒だそう。麻雀の知識に明るいだけでなく、人当たりの良さがあってこそ、応援してくれる人も現れる。普段と違う先生の姿を見て、どんなことを感じてくれただろうか。


・東2局1本場

吉田の手が個性的である。

 ドラ

この手が4巡目に以下の形。

ツモ ドラ

前巡にを引き切り。すぐにを引いてしまった形。を切ると思いきや、ここで吉田は長考。背筋を伸ばすと、スッとを切り出した。

その後を引き、がフリテンとはいえソウズの連続形ができる。この形を大事にして、他を切っていくと思っていたが、予想に反して打

 ドラ

ここで吉田の狙いが567のサンショクと確信。次巡にを引いて以下のイーシャンテンとなった。

 ドラ

7巡目にを引いてテンパイ。が三枚出ていることからヤミテンを選択。親番で仕掛けていた多井からの出アガリとなった。

リャンシャンテンの時点でおそらく多くの人がを切る。このサンショクは手役と打点重視の吉田らしい、会心の譜となった。


・東3局2本場

吉田のドラ対子リーチに手詰まりの谷井が、ワンチャンスを見ての打で放銃。裏1でマンガンとなる。2回戦途中からやたらと手牌が難しくなる谷井は、このあたりから本格的に苦境へ入り込んでしまった。次局は山田に700.1300、南2局ではやはり山田にマンガンをツモられ、点棒が削られていく。

とはいえ、浅い傷で済んでいるという一面もある。山田の東4局、700.1300のアガリは以下なのだが、

 ツモ ドラ

サンショクの手替わりを見てヤミテンというのは、あまりに前時代的ではないか。一発ツモで置かれたを見て、多井は首をかしげていた。場には一枚ずつ。試合後の山田も多井の指摘を黙って受け入れる、悔いの残る一局となっていた。筆者としては、淡々と平均点以上の打牌を続ける山田の人間らしいミスに、それはそれで面白いとも感じていたが。


・南3局0本場

多井の手が早い。

 ドラ

この配牌を丁寧に並べると、から切っていく。序盤の役牌の切り順に、多井は繊細である。散家で役牌から切っていくということは、もうこの手は受け入れMAXに構えるという意思表示。やや時間がかかるも、14巡目にリーチを打つ。眉間の高さまで手を振り上げ、河に向かって鋭く突き出す、多井独特のフォームである。

ドラ  裏ドラ

一発ツモとなるをそっと置く。その姿は、この勝負に勝ちたいというよりも、ただ良い牌譜を残したいという研究心の体現である。そして多井のアガリはこれだけで終わらない。


・南4局0本場

多井の6巡目リーチ。

 ドラ

これに親番の吉田が追いつく。

 ドラ

待ちは悪いものの、親番維持のためには攻めないわけにはいかない。しかしこれを一度もツモらせてはもらえず、多井のツモアガリとなった。


3回戦結果(カッコ内はトータル)

多井 +10.3(+8.1)
吉田 ▲4.3(▲2.8)
山田 +26.7(+11.4)
谷井 ▲32.7(▲16.7)


4回戦

山田が頭一つ抜け出ているが、まったく先は読めない。

最下位の谷井は連勝が条件となった。できれば4回戦、山田を沈めつつのトップを取りたい。多井と吉田にはまだ並びを気にする必要はさほどなく、やはり山田にトップを取らせない意識は持ちつつ、これまで通り素点を叩き、攻めきれない場面では慎重にという、オーソドックスな戦いが許される。

山田はここでトップを取ることで、最終戦に戦略の幅が大きく広がる。


・東1局0本場

起親の多井が先制リーチ。

 ドラ

チートイツのみはヤミテンでアガり、ドラ対子ならばリーチでハネマンを引きに行く。これが多井のチートイツに対する基本的なアプローチである。では、タンヤオが付いている今回はというと、起親であることもあり即リーチとなった。

これに追いついたのは吉田。ドラを対子にしてリーチ。

 ドラ

多井が追いかけられて分の悪いリーチを打つのは珍しいが、前述の理由もあってこれは仕方ない。結果は流局。それなりの打点のある両者を見比べ、安堵のため息をついていたのは谷井である。早く自分も、土俵に上がらなければならない。


・東2局0本場

焦る気持ちが谷井にあったのかはわからないが、やや打牌のトーンが高くなる。苦しい配牌を丁寧に仕上げ、14巡目にリーチを打つ。

 ドラ

この手を浮上のきっかけにしたいところだが、それを許さないのはトータルトップ目の山田。

 ドラ

太い腕に、さらに力を入れ谷井はツモ牌を引き寄せる。しかし、そこにあるのは谷井の指の腹を鋭く切りつけるかのようなである。結果を覚悟してか、谷井はややトーンを落とし、山田の発声に身を委ねた。アガれば二枚乗っていた裏ドラは、不調をイメージ付けるものでしかない。

 ロン ドラ 裏ドラ


・南1局0本場

持ち点が10000を切ろうかという谷井であるが、その後のツモがまだ諦念を許さない。

 ドラ

を仕掛けていた多井の手が詰まる。

  ツモ ドラ

長考後、自身がすでに切っているをツモ切り放銃となる。これが僥倖の裏三となり、息を吹き返す。


・南2局0本場

痛恨のマンガン放銃となった多井だが、次局にさっそく挽回のリーチ。

 ドラ

多井がこうしたノベタンのリーチをするのは珍しいのだが、手なりでまとまったこの手、当然の即リーチである。一発でをツモりマンガン。五分前の放銃を取り返した。

この手、本人も後述していたが、なんとも面白くない手である。局と局に因果関係はないが、オカルト思考を好む人ならば、「次に繋がらない、良くないアガリ」と評すかもしれない。事実、多井は残りの局にもう足は残っておらず、吉田のマンガンツモ、山田のハネツモによる失点で3着となった。


・南3局0本場

これまでテンパイ料と細かなアガリでリードを重ねた吉田。配牌でドラが対子となっている。

 ドラ

これにツモが噛み合って、8巡目にテンパイ。

 ツモ ドラ

ここまで吉田の麻雀を見ていれば、即リーチを打たないことは容易にわかる。手役志向の吉田らしく打。イッツーを睨む。構想通りにを引いてリーチ。安目ながらもを一発でツモり2000.4000。


・南4局0本場

ここでのアガリは山田。このまま突き抜けてしまうのではないかという、強いインパクトを周囲に与えるには十分なものだった。

 ドラ 裏ドラ

このリーチは自身が8巡目に切っている。全体を見渡すと、リーチの時点で山には1枚しか残っていなかった。これをハイテイでツモり、裏ドラも乗せ3000.6000。


4回戦結果(カッコ内はトータル)

多井 ▲15.0(▲6.9)
吉田 +15.9(+13.1)
山田 +34.2(+45.6)
谷井 ▲35.1(▲51.8)



5回戦


・東1局0本場

山田がトータル首位を守っている。しかし、3番手に付ける多井まで現実的に逆転は可能であり、まったく気の緩まる雰囲気はない。山田は攻めるにしても、吉田と多井への放銃だけは避けたいところ。

吉田は山田との差を常に考えながら打つことになる。当然のことだが、順位差が小さいほど素点が必要。多井は山田を沈めつつのトップを目指す。

タイトル戦決勝において、最終戦を前に、多井がマイナスをしているのは近年では珍しい。三者による特別な包囲網があったとは思えないが、その首には小さな鈴が付けられている。

谷井は山田をラスにしての特大トップが必要。ただ、過去に+80pのトップを取ったこともあり、可能性はゼロではない。何より、次は三者が競る最終戦。ライバルに先行されるよりはと、谷井がアガリ者に選ばれることも想定できる。

ここで時計を確認すると、午後3時40分。まずまず平均的なペースである。まさか最終戦で二時間以上を要すことになるとは、この時点では誰も予想すらしていない。

とにかく先行し、山田にプレッシャーをかけたい吉田に勝負手が入る。

 ドラ

平凡なこの手を豊潤なツモでイーシャンテンに。

 ドラ

このリャンペーコーが仕上がれば大きい。アガリは吉田かと思ってみているが、山田の手も進む。

 ドラ

配牌からあるドラ暗刻。開局に4000オールとなれば、スコア上はもちろん、精神的にもかなり優位に立つことができる。筆者は上下の座順にいる、山田と吉田の手を交互に見ていた。

13巡目、山田がをツモる。自分で8巡目に切っている牌である。ライバルの吉田の河のを一瞥すると、すぐにツモ切り。これに対して声を掛けたのが多井。牌姿を見た山田の、端正な顔が歪む。

 ロン ドラ

前巡、手出しのでテンパイを入れた多井であるが、たしかに河も三段目に差し掛かろうとするところ、誰にも通っていない中張牌を切るのは、アガリに向かっているサインではある。誰よりも丁寧に打ち回し、本手のみ攻勢に出たからこそ今の位置にいる山田。しかし、肝心な場面で鈴の音は聞こえなかった。


アガって親番を迎えた多井。ここからの多井をすべて説明すると、スペースを使い切ってしまう。以下、羅列していくと、


東2局0本場 
ダブを仕掛け谷井との二人テンパイ。
東2局1本場 
またも積極的な仕掛けから一人テンパイ。
東2局2本場
リーヅモドラドラの4000は4200オール。 
東2局3本場 
リーチ後一人テンパイ 
東2局4本場 
リーヅモドラドラの4000は4400オール。ここで持ち点が七万点を越え、トータル首位の山田をマクる。
東2局5本場 
谷井との二人テンパイ。
東2局6本場 
リーチ後三人テンパイ。
東2局7本場 
700は1400オール。
東2局8本場 
1300は2100オール。
東2局9本場
ノーテン流局
 

次の親である谷井が出した積み場は実に10本。その局も多井が1300は4300をアガり、時計を見ると多井の親番だけで丸一時間が経過している。多井の持ち点は八万点を越えた。最初にマンガンを放銃している山田は、箱を割っている。

その後も多井は加点し、終盤に山田がハネ満をツモるも、時すでに遅し。最後は親の吉田がテンパイできず、下馬評通り多井の優勝となった。


多井を追い詰めながら、最後に逃がした山田と吉田。二人は筆者などと比べては格上の存在であり、敗因を考えることなどできない。ただ、一観戦者として言わせてもらえるなら、どちらも懐深く構えすぎ、多井が嫌がるような攻めを展開できなかったことは残念だった。

幾度となくリャンメンのテンパイをヤミテンで手にした吉田。5回戦のトータル勝負で考えた時に、叩ける時に叩くという少々強引な雀風があれば、さらに戦術の幅が広がるのでは。第9回日本オープン決勝、多井の首に匕首を突き付けたのは、橘悟史の執拗なリーチ攻勢だった。トップの価値など、ルールの違いはあれ、腹を括った攻めがもっと見たかったというのが、終わってみての筆者の雑感である。

山田が最終戦で多井に放銃となったペンであるが、自分がテンパイをしておらず、そして何よりも無理にアガリに向かう必要がない条件だった以上、止める算段があっても良かったのかもしれない。過去、あの放銃をしてこなかったからこそ、決勝卓にいたはずなのだから。

最終戦を前に、ほぼ目がなくなってしまった谷井。谷井に関して言えば、いつも通りにリーチを打ち、仕掛ける手では仕掛けるという、彼らしい攻めを展開していたように思える。ツイていなかっただけと片づけるわけにはいかないだろうが、親番では手広く構え最後まで攻めるという、負けてなお強しと思える内容も多々あった。


試合後、多井はこう語った。

「今日は僕が勝つんじゃなくて、プロに僕を乗り越えて欲しいという気持ちがありました。だからこそ、この結果はどこか物足りないところもあります。もっと勉強して、強くなって、多井を負かすプロがいると思わせてほしい」

淡々と打ち、そして淡々と栄冠を手にした多井。最速最強を体現する今こそ、周りの打ち手は謙虚に学び、そしていつか越えなくてはならない。

オープンリーグ2011、栄えある優勝者はまたしても…S級ライセンス「多井隆晴」。



文責・小林景悟



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