飯島健太郎が初栄冠!
目が覚めると、外は生憎の曇り空。今にも泣き出しそうな天気だった。
今日は、第3期オープンリーグの決勝である。
何故か私は、苦手な観戦記をやらされる羽目になっている。

まぁここ最近の私と言えば不甲斐ない成績ばかりなのだから、自分を見つめ直す丁度良い機会かも知れない。

身支度をしている私に、「今日の予想は?」と妻のみどり。
「健太郎だな」と私。
「えー述ちゃんはぁ!?」
「う~ん…」
確かにライセンスAである“過激な僧兵”こと室生述成は、実績、技術、知識、経験則等、他の三人に比べて数段格上である。
しかし最近の室生からは、私同様腰の据わった安定感が感じられない気がする。
私と違い、元々戦略を多用するタイプではあるが、決勝となるとまた違うだろうか?
今回のメンツなら、一番ピュアなヤツが勝つんじゃないか?そんな風に私は思っていた。

初戦-室生の揺れ

外は重苦しいほどの暗い空、すでに雨が降り始めていた。
1回戦、まさに凶兆と言うべきであろうか…。
南1局1本場、東家飯島がドラを切りリーチ。
西家壽乃田がを合わせた。
これをできメンツチーとする北家室生の思考は多分こうだ。
トップ目の親リーチ、前局も流局こそしたが飯島に手は入っている。ここでリーチときた以上ツモられる公算は非常に高い。
どうせ自分は手仕舞いなのだから、ツモられるのを指をくわえて見ている手はない。
果たして室生の目論み通り、果敢に向かっていた南家飯野がツモ切った牌に飯島の華奢なロンの声がかかる。
本来ならツモアガっていた牌だ。

確かに戦略的には合っているし、知識と経験則がないとこういう麻雀はなかなか打てない。
が、本筋ではないのもまた事実。

この決勝は5回戦と長くはないが、室生レベルであれば5回戦なりの試合の組み立てができるはず。
それのまだ1回戦目だ。
試合後の室生も「いつもならツモられたってイイじゃんと思えるのに…」と語っている。

また、南3局南家室生の手牌で少し疑問の残るものがあった。
17,700持ちのラス目、6巡目にこの形。ドラはだ。



ここからが引けないまま12巡目にツモときた。

望外のツモだ。というのも全体牌譜が載せられないのが残念だが、は室生のツモ筋に多分ない。
しかも東家壽乃田が序盤にを並べて切っておりを持っていない公算が高く、仮に使っていても1枚だ。
北家飯野はドラを切りとばしてマンズのホンイツ仕掛け一直線。など持ってるはずもなく、西家飯島だけがXの状況だ。

さすが室生、この時のためにを引っ張っていたな、リーチを考えてるのか?確かにこのカンならやり過ぎかも知れないが即リーチでも面白い。

室生は小考して打とした。カクッと膝が折れる私(笑)。
なんだよ?述ちゃん、リーチを考えてたんじゃないの?!リーチはないにしろそんなのカンに決まってるだろ!?

次巡の一発ツモはでき過ぎとしても、ここはキッチリアガッておいて欲しかった。
こういう局面は良くあることなので若い人達はこの局の牌譜を並べて是非参考にしてほしい。

一方、好調飯島を、老兵飯野が南2局の親番で持ち前のしぶとさと破壊力で逆転し初戦のトップとなる。
親番で見せる、局の終盤にテンパイし連荘にこぎつける生命力には驚異的なものがある。
それもそのはず、準々決勝では土田、準決勝では多井の両ライセンスSを撃破しての決勝入り。
ライト会員の飯野正治は71歳。無論RMU最高齢。その麻雀歴は50年を超えると言う。
試合直前の飯野に今日の意気込みを聞いたところ「もうイケイケでやるよ」とのこと「いつも通りですね?」と私が返すと「みんな上手いからねぇ」と苦笑い。

やはりこの年齢ともなると相手が誰であろうとどんな場面であろうと自分の打ち筋を変えようとはしない。
きっとそれがベストであると信じているからなのだろう。

1回戦終了時成績
飯野
+28.6
飯島
+7.5
壽乃田
△6.8
室生
△29.3
2回戦-野武士の選択

不調感の否めない室生であったが二回戦に、その存在感をアピールする「らしさ」を見せる。

東2局、残りのツモ1巡のところでようやくテンパイを果たした南家室生。

 ドラ

テンパイをとるにはションパイのかドラを切るしかない。
巡目と親でもないことを考えればオリの選択も十分ある。
しかし室生はを少し強いトーンで切った。乾いた音が静かな会場内に響く。

もちろん賛否両論あるだろう。しかし、この一打で確実に殺された者がいる。
この時北家壽乃田は、10巡目からこの形でテンパイしていたのだ。



結果から言うと、室生の切ったにチーが入り、その瞬間壽乃田のツモがスルッと下家に下がった。
そんなことも知らずに、最後のツモで危険牌を掴み静かに手牌を伏せる壽乃田は何を思っただろうか。

大きな動きのないまま東4局2本場、14巡目に飯島が、ピンフドラ1のでリーチ。
15巡目に飯野がリーチの現物のをツモ切ると、室生が発声と同時に手牌を倒す。



の8,000は8,600。
室生はリーチに現物しか切っておらず、飯野からすれば致し方ないところか。
一方、1回戦ラススタートの室生からすれば願ってもないトータルトップ飯野からの満貫直撃。
このまま飯野をラスで終わらせトップをとれば点数はフラットに戻る。

しかし飯野は、しぶとい。
次局に3,900を壽乃田から。
南3局2本場には、先制リーチの飯島から8,000を討ち取りあっさりとラス抜けをしてしまう。
トップ目の室生を追い上げムードだった飯島にとっては、点数と勢いを失う痛い一局となった。

そして、イケイケモードに火がついた飯野はオーラスの親で4本積み上げ、室生にあと数百点のところまで迫る。
本来そのしぶとさを素直に誉めるべきなのだろうが、やはりそういう時には必ずと言って良いほど側にミスがある。

南4局1本場、南家壽乃田の7巡目。

  ドラ

ここにツモときた。
すでにが場に4枚見えているがピンズの上目は安くにくっつけば三色の上に絶テンである公算は高い。

ライセンスB“野武士”こと壽乃田源人。
彼は、繊細で丁寧な麻雀を打つ。
今回の決勝でも我慢の後が良く見られた。
しかしそれだけでは、やはりタイトルは取れない。
そう、時には野武士のように荒々しく大胆に刀を振り上げてほしい。
そして更なる緻密な剣術を磨いてほしい。
彼に野武士のネーミングがしっくりくるようになった時、素晴らしい打ち手になっていることは間違いないのだから。

話を戻そう。
私はを切るが、壽乃田は単純効率でを切った。
と河に並べる壽乃田。
結果論と言われてしまえばそれまでだが、このはダマテンなら確実に飯野から討ち取っている。
そうなれば1回戦と順位がまるっきり入れ替わり、壽乃田にも十二分に目があったはずだ。

結局2回戦は、さすがに室生が制するが、改めて麻雀の面白さ怖さを再認識させられる半荘となった。

2回戦終了時成績
飯野
+39.7
室生
+7.2
飯島
△6.9
壽乃田
△40.0
3回戦-しなやかなる反撃

外は雷をともない激しい雨が窓ガラスを打ちつけている。まるでこの決勝の行く末を暗示しているかのように…。

3回戦、またも飯島が好スタートを切る。
ドラヘッドの役牌ポンテン3,900をトータルトップの飯野から直撃。
1、2回戦ではじりじりする展開が続いているが焦り色は見えない。

その後もノーテン罰符と小さなアガリでトップ目をキープする飯島。
決定打が欲しい南2局の親番。

ドラ

というなんてことない配牌だったが、4巡目にドラの中を重ねると、直後に東が鳴ける。
確実に流れは来ている。
この5,800をまたも飯野からアガる。
更に同1本場。飯島は4巡目にこの形。

 ドラ

次巡ツモをスッと切りヤミテンに構える飯島。
上がり親で巡目も早く、一発、裏ドラ有りのルールだとリーチの持つ戦略的効果も含め、切りリーチの選択ももちろん有ると思う。
しかし飯島の打牌選択は私好みではある。

結局このは、手牌が中張牌であふれる飯野の下へ。しかしは彼にとって不要牌であった。

この2発が決定打となり、3回戦は飯島が飯野をノックアウトしての大きな大きな初トップ。

そういえば、この半荘の途中くらいからだろうか、会場に見慣れぬ少し上品な感じの中年の女性が来ていた。
近くで観戦するわけでもなく少し離れた所でたたずんでいる。
対局者の身内であるようだが…。

後で聞いたことだが、この女性はどうやら飯島の母親だったらしい。
息子の初の晴れ舞台ではあるが、麻雀のわからない母がこの大雨の中を決して自宅から近いとは言えない会場までわざわざ足を運んでくれる。
健太郎は愛されているんだな。

そう“しなやかな剛腕”こと飯島健太郎はライセンスB。
彼は線が細く、やわらかな物腰と爽やかな風貌は上記のエピソードと共にとても好感が持てる。
が、ややもすると一見頼りない感じにも見える。
まぁ年上にモテそうなタイプではあるが…(笑)

試合前には「初めての決勝なので胸を借りるつもりで頑張ります。…でも勝ちます!」と力強く語ってくれた。
果たして…残るは2半荘のみ。

3回戦終了時成
飯島
+34.2
室生
+9.9
飯野
+3.9
壽乃田
△48.0
4回戦-飯野の怒濤

3回戦で貯金を使い果たす格好となった飯野だが、勢いは死んでいなかった。
東1局にタンヤオ高目イーペーコーのリーチを打って一発ツモの2,000・4,000。
迎えた親で大きなアガリこそないもののテンパイ料を含め確実に点棒を増やしていく。

3本場となりまずい雰囲気を感じたであろう飯島は、タンピンをヤミにして飯野からアガる。
この辺り飯島は非常に落ち着いている。
が、一方ここまでトータルポイント的には絶好のポジションに着けながら何もできないでいる室生。
手牌が思うように進んでくれない嫌な展開のなかで、まったく表情を変えていない。仏法の世界に身を置く者は何を見るのだろうか。

場は非常に重くなり流局の連続で南2局5本場となっている。
3巡目、壽乃田が単騎のチートイツリーチをする。
が、黙ってないのがダントツで親番の飯野。
リーチ宣言牌を叩いてのトイトイまっしぐら。
加カンまでしてアガリ切ってしまうからそのパワーに恐れ入る。
1,600オールは積み棒、供託を含め約1万点のアガリで点数表示は5万点を越えた。

そして次局、この半荘仏のように鎮座していた室生にいきなりおばけが入る。
7巡目の手牌はすでに、

 ドラ

トイトイのイーシャンテン、メンホンのおまけ付きだ。

9巡目、をポンして、出て倍満、北家なのでツモればどちらでも三倍満のテンパイとする。
親が飯野なだけにこれをモノにすれば辛うじて優勝争いに踏みとどまれる。
しかし12巡目、室生の河に並ぶ3枚目のに壽乃田からロンの声。
勝負とは非情なもので、事実上室生の決勝は最終戦をまたずにここで終わる。

南3局、3本積んで最後の意地を見せる壽乃田。
が、これ以上差が開くと最終戦の条件が厳しくなる飯島が、ピンフドラ1でリーチ。
すぐにツモり、飯島だけがなんとか踏みとどまった。

4回戦終了時成績
飯野
+46.4
飯島
+29.1
壽乃田
△34.1
室生
△41.4
最終5回戦-剛腕鳴る

優勝争いは飯野と飯島に絞られた。
東1局、追いかける焦りからかその飯島に若さが出てしまう。
6巡目、親の壽乃田がドラ単騎のチートイツでリーチとくる。
前方を行く2人を沈める超特大トップの可能性があるうちは当然の選択か。
そして7巡目の北家飯島の手牌。



好形のシャンテンにツモってきたのはドラの
リーチの現物はがある。
飯島は小考したが、それをツモ切った。
「12,000」
手牌構成からは致し方ないのかも知れないが、条件戦となれば話は全く違う。
敵は飯野ただ一人であり、壽乃田とは自分が明らかに有利な状況以外闘う理由がない。
優勝争いをしている者がメナシに突っ込んで自滅していくところを私は度々目撃している。

一方、ライバルの失脚により、楽な展開になった飯野は親番を迎え、リーチや仕掛けで主導権を握り、アガリこそないもののテンパイ料でじりじりと飯島との点差を広げる。

このままでは終われないのは飯島だ。
果敢に仕掛け1,300点で飯野の親を蹴ると次局にはポンテンドラ3の8,000点をアガリ食い下がる。
更に南2局、西家飯島の配牌。

 ドラ

これを丁寧に打ち回し11巡目にチートイツでテンパイを果たす。
次巡のツモで待ち変えし、流局間際に力強くにを引きよせた。
「2,000、4,000」

最終戦にきて、剛腕を振るう飯島。
一時は、遠のいた飯野の背中がもう目の前にある。

そしてオーラス。
追いかける親番の飯島。
飯野との差は△6.7。

しかし12巡目、先制リーチと出たのはなんと飯野だ。

 ドラ

役有りでアガれば優勝の飯野は常識的にはリーチはない。
しかし飯野は予選を通じ徹底して攻め続けてきたから今この場に居る。
決勝直前にも語ってくれたようにそれを最後まで貫き通している様は、なんとも清々しく潔い。
そして13巡目に飯島も追いつきリーチ。



河にはいずれもションパイという珍しい場況。

ツモる指先に力が入る両者…。
が、ここは流局。
クライマックスは次局に持ち越された。

6巡目、今回先制リーチは飯島だ。

 ドラ

対する飯野は、南家が切ったリーチの現物をポンしてクイタンで徹底抗戦の構え。
そして10巡目、飯野のテンパイ打牌は
そう無情にもこの白は飯野の手に配牌から組み込まれていたのだ。
「4,800は5,100」

遂に飯島が飯野を交わしトータルトップになった。
飯野が再逆転するには1,300・2,600か6,400以上をアガらなければならない。
終盤にタンヤオチートイツのイーシャンテンまでこぎ着けた飯野だったが、願いは通じなかった。
静かに飯島の手牌が伏せられた瞬間、全ての終わりが告げられた。

最終成績
優勝 飯島 健太郎
+53.7
2位 飯野 正治
+38.2
3位 壽乃田 源人
△25.2
4位 室生 述成
△66.7

今回の勝因は、やはり一番純粋な気持ちで卓についていたということではないだろうか。
故にブレや揺れというものがなかった、少なくとも私の目にはそう映った。
また一人、今後が楽しみにな若い打ち手が増えた。

表彰式。
トロフィーを授与され写真を撮られる段階でもまだ緊張の面持ちの健太郎。私は、自分が初めて優勝した時のことを思い出していた。
やった!勝った!嬉しい!などの実感や感情はすぐには湧いてこない。
きっと、彼も今そんな感じだろう。
今日優勝したという事実より、今日得られた経験は、今後の彼にとってかけがえのないものとなる。
そして、この瞬間の気持ちをきっと忘れてはいけない。
それは私自身にも言えることなのかも知れない。



会場を出て何気なく空を見上げた。
雨はすっかりあがり、星が瞬いていた。

(文中敬称略 阿部孝則)




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